第一話 というわけで、精霊王辞めます!!!
私は精霊王メディフェルア。
齢千年の婆さんである。まあ見た目は二十代前半だけど。
本来なら女王と呼ぶのが正しいのだろうけど、先代が「精霊王」呼びだったからそのまま。
精霊たちは細かいこと気にしないからね。
うん。
私、七代目なんだ。
けれど記憶は継承してる。だから創世当初、この世界がどんなだったのか、先代たちがどんな感情を抱きながら精霊王として君臨していたのかもわかる。
精霊たちは、基本的に無級、下級、中級、上級に分かれる。
無級は意思を持たずに漂うものたち。
下級は人間で言う幼い子どものようなものたち。
中級は人間で言う少年少女から青年までの間のようなものたち。
上級は人間で言う大人のようなものたち。
そこから更に火、土、水、風、光、闇の六属性に分かれるんだ。
上級の中から王が選ばれ、数百年間務めた後に世代交代する。
選ばれた者は額に宝玉が浮かび上がるんだ。私のときは朝起きて、湖の水面を見たらあったからびっくりしたよ。うん。
私は闇の上級精霊だったのだけれど、王になったら他の属性も使えるようになったし。びっくりだわ。
精霊王は何をするかというと、数多の精霊たちの統率。
政治等はないけれど、子どものような下級精霊たちをまとめるのはすごく難しい。しかも、下級は数が多い。
下手すると人間たちにちょっかい出して大事になるから、まとめ役が必要なんだ。
それに上級精霊たちと契約したがる人間も多く、契約した子を悪用する者も中にはいる。
そういう奴にぶち当たってしまった上級中級精霊を助けたりとか。
そんな精霊たちは、同じ属性を持つ人間の中でも相性が良い子を「愛し子」と呼んでやたらめったら愛したがる。
それが過度になりすぎると世界に悪影響を及ぼしかねないから、それの監督もある。
…まあ、つまりは保護者だよね。もしくは管理職。
さて、そんな胃が痛くなる立ち位置にいる
人間界にいる、リオルという赤ん坊だ。
はあ~~、きゃわいい。ぷくぷくしたお手々。くりくりとした瞳。私が見えるみたいで、私が顔を出すと「きゃあ」って喜んでくれるんだよ!!か わ い い!!
ぶっちゃけるとリオルは推し。前世でドはまりしてた恋愛SGLゲーム「蒼穹の光へ」っていう、学園モノに登場する平民上がりの伯爵令息。
……え?普通そこは主人公ポジションじゃないかって?
そーなんだよね。まあでも、主人公も平民上がりで男爵家に養子として引き取られるんだよ。ちなみに男ね。
このゲーム、男主人公で攻略対象者は男でも女でもなんでもござれっていう異色のゲームだったから。
輝かんばかりに美しい金髪を持つ光属性の主人公。
濡烏を思わせるような美しい黒髪を持つ闇属性のリオル。
髪色が濃ければ濃いほど、魔力保有量が多いことを表すからふたりはそれなりに話題になった。
そしてそして大変、たいっっへん残念なことに、闇属性や闇の精霊は人間から非常にウケが悪い。
つまりはあれよ。気味悪いってやつ。闇属性が扱える魔法も影響してると思う。眠りとか昏倒とか精神に働きかけるのとか。
まあ人間に限らず動物って基本闇を怖がるから、まあ、そこは仕方ないとしよう。
だが、だからって闇属性の子をイジメていいとは言わねェからな??
とある国があまりにも闇属性への差別が酷く、判明したら殺す、奴隷に落とす、などなどあまりにも酷いからブチギレて見せしめでその国を潰したら多少は良くなったけど。
ちなみに神様からは怒られるどころか「いいぞもっとやれ!」と煽られた。
全部救えればいいのだけれど、私は精霊王。
王たるもの、基本的には公平でなくてはならない。
闇属性の子たちすべてに加護を与えることは、非現実的なんだ。不遇なのは闇属性の子たちが多いけど、世界を見渡せばいろんな属性の子が貧困に喘いだり、苦しんだりしている地域もある。
私ができるのは、闇属性に限らず不遇の子を気にかけてほしいと精霊たちに声をかけることぐらい。
さて、前置きが長くなったけれど、私の目の前にいるリオルはこの後、この優しい、グレーの髪を持つ母君の元から強制的に連れ去られる。
リオルの義父となる、グランツ伯爵によって。
同年代より魔力保有量が多めなリオルを政略の駒として使えそうだという理由で連れ去ったのだ。「連れて行かないで、返して」と泣き叫ぶ母君の目の前に大金が入った袋を放り投げて。
このグランツ伯爵、珍しく闇属性に忌避感がない。
けれど忌避感がないのはグランツ伯爵本人だけ。グランツ伯爵夫人や義兄、使用人たちはそうではない。
……つまりは虐待を受けるようになるのだ。そこでリオルの性格が歪む。
推しが辛い目に合ってしまう。
そんなの、耐えられない。
シナリオなんざクソ喰らえだ。幸いにも私には力がある。
「というわけで、精霊王辞めます!!!」
「どういうわけ!?」
ノリツッコミしてくれる神様大好き。
プラチナブロンドの髪はさらっさら、目鼻立ちも神々しく、麗しい。世の男共がこのお方の尊顔を目にするだけで惚れるだろうと思う。
スレンダーな体型が羨ましい。私なんて座ると三段腹になるぞ。ぽっちゃりだぞ。悲しみ。
「前世絡みだと言えば伝わります?」
「ああ…あのゲームとやらの」
「そう。ここで助けないと推しがこれから非常に辛い目に合ってあんな超絶綺麗な魂が歪んじゃうんです。そんなの嫌です」
「だったら加護を与えればいいのに」
「加護を与えたら搾取されちゃうじゃないですか。ただでさえ、あの子魔力保有量が多いんだから」
魔力量が多い上に精霊王の加護があるなんてことになったら大変。
今度は王家にいいように使われることになってしまうかもしれない。変なやつに狙われるかもしれない。
それに、精霊王の加護は強力すぎるから赤ん坊の頃から与えちゃいけないと思うんだ。せめて、性格形成された成人ぐらいからの方がいいと思う。記憶してきた過去の精霊王たちの経験上。
なら、私が一精霊となって、彼の傍で守るのが良い。
王に就任して百年は経ってるし、辞めるには問題ないはずだ。
……いや、別に精霊たちの管理職がもう嫌だからとかそういうわけではないよ。うん。
じっと神様は私の顔を見つめた後、ふ、と微笑んだ。
「却下」
「なんでェ!!!」
「精霊王続けながら、その子を守ればいい」
「それが難しいから辞めるって言ってるじゃないですか」
「人間に擬態すればいい。ね?」
む。たしかに。
「私も手伝ってあげる」
「本当ですか!?」
「ちょっとそのゲームのシナリオとやらに興味もあるし…ちなみに、その子がゲーム通りの性格や境遇にならなくてもシナリオには問題ないの?」
「多少影響はあると思いますが…でも、リオルの役どころは当て馬でしかないので、大丈夫だと思います。世界を滅ぼす魔王になるとかそういうのないので」
「当て馬」
「そう!そうなんですよ!!推しのリオルは引取先の家庭環境がすっさまじく悪くて、養子でも伯爵令息だからってんで婚約者いるんですけど、その婚約者がめっちゃ最低!!」
多少性格歪んでもやっぱりあの環境から逃れたいリオルは、婚約者であるビュエラ侯爵三男のジャックとの結婚を心待ちにしてた。
…え?なんで婚約相手が男なんだって?ゲームもそうだけどこの世界、同性婚も可能だからね。同性同士でも赤ちゃん作れるトンデモシステムがあるから。
話がそれたけど、そのジャックはリオルの闇属性を厭いつつも、ちゃんと婚約者してた。
ところがどっこい。そこで主人公の登場である。
平民出身で男爵家に引き取られた光属性の主人公(デフォルト名:アルス)は、養家の男爵一家から愛されて快活な青年に成長する。
その性格ゆえ人からも好かれやすく、主人公の周りには人が多くいた。
……その中に、ジャックの姿もあって。
ジャックルートの場合は、リオルは主人公に苦言を呈する。
主人公も一旦受け入れたが、ジャックは受け入れなかった。
ジャック→→→主人公な展開で話は進み、しばらくすると主人公も絆されてジャック→→→←主人公ぐらいの気持ちが動く。
リオルを、置いて。
リオルは必死になった。
そりゃそうだ。あの家から逃げられるのは結婚だけだから。
けれどジャックはリオルを邪険に扱(いやがってこのクソ
それを信じる周囲。それでもリオルは諦めなかったが、取り付く島もなく最終的にジャックはリオルに婚約破棄を言い渡すんだ。
……まあ、これはリオル視点で考えるとこうだって話で。
主人公側からすれば、自分より下位の立場の生徒には高圧的な態度で当たり散らす性格が悪い令息が、婚約者に迷惑をかけて破棄され自業自得っていう。
「きぃ〜〜〜〜!!私の推しに!!」
「どうどう。まだ何も起こっていないよ」
「というわけで!!私はリオルを救出せねばなのです!!」
「うんうん。じゃあまずは、計画を立てようか」
「いえっさー!!…あれ、でも一国に肩入れ状態になりません??」
「定期的に、五十年単位で各国を一緒に回ってる様子見してるの気づかなかった?」
「あ」
「そういうこと。このあとはグランディール王国の予定だったからちょうどいい」
おお、なんという僥倖。
待っててねリオル!!
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