ぽっちゃり精霊王は推しを幸せにしたい

かぐら

本編

プロローグ

 この世界は、私の前世で公開されていた恋愛SGLゲーム「蒼穹の光へ」の世界観のようだった。

 完全一致とまではいかないけれど、まあ、ゲーム本編開始時点までは大体はゲームと同じことが起きていたから、ゲームのシナリオがこの世界の元になったのか、それとも逆になったのかは分からないけれど関連はあったんだと思う。


 それでも、シナリオとは異なる事象を起こして、悪役令息役だった推しのリオルが巻き込まれずに幸せな将来へと進んでいくことができるはずだったんだ。



 地面に這いつくばって土下座しているのは、ゲームの舞台である全寮制、王立ソリューズ魔法学園の学園長であるフラッグ。

 ガタガタと体を震わせるその様はまさに、捕食者に見つかり震える小動物のよう。


 その後ろでは、ボロボロになったこの国の第一王子テオドール・グランディスが、同じような状態の主人公であるアルス・ヤディールを守るように抱きしめて信じられないといった表情で私を見ていた。その周囲には真っ青な表情で今回、アルスが人物たちがボロボロになったまま立ち竦んでいる。あと、名前を覚える必要がない副学園長とかいう人間。


 私の後ろにはリオルとユリウスと、ジェーン、ミラン、それから入学してから仲良くなった子たち。

 ミランと仲良くなった子たちは人の姿をしていない。


 そう。人の姿をしていないの。人じゃない姿にさせられたの。


「お、畏れ多くも御名をお呼びすることをお許しくだ「許さない」…えっ」


 通常通りの、格式張った挨拶をしようとしたフラッグ学園長の言葉をぶった切った。

 だって、聞くつもりはないもの。


「メディア嬢!落ち着くんだ!」


 落ち着け?

 震えてるじゃない。泣いてるじゃない。

 ミランに至ってはかすり傷と呼べない、重い怪我をしているじゃない。声を出すのすら辛い状態じゃない。


 「メディフェルア!!」


 リオルの悲鳴にも似た叫びが聞こえる。

 その名を聞いて、テオドールとフィリップとユリウスが驚愕の表情を浮かべた。


 ねえリオル、ミラン、ユリウス、ジェーン。

 さすがにね。ちょっと、これはブチギレ案件なわけですよ。


 闇属性かつ、精霊王たる私の目の前で、闇属性の子たちを殺す気で攻撃してきたなんてことも。

 禁忌とされる精霊に無理やりこの子たちに変化させたことも。

 そして心優しい水属性のミランが彼らをかばって大怪我して、闇属性のユリウス、そして風属性のジェーンも身を挺して守ろうとした。そんな彼らに対して更に攻撃を加えたバカどもにはブチギレてもいいよね?神様。

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