4話 紙一重の平和


先日、始源神側から黒音への接触が行われたことにより神界は目まぐるしい勢いで対抗策を進めていた。その一環として当事者である黒音も召集されていった。結果、何が起こるかといえば


「濁闇」

「んー?どうした」

「平和すぎて逆に怖い……!」

「わかる」


超ド級のシスコンを拗らせた姉がいないことにより訪れた落ち着ける時間。しかし、普段からドタバタしている影響で嵐の前の静けさなのではと警戒してしまう2人なのである


「う、う〜む。いわゆる日常パート的な雰囲気すぎてどうしようなんだが」

「ここのとこ気ぃ張る場面多かったからな。たまにゃこういう日があってもいいだろ。まぁ輝光、お前がりあいたいってなら付き合うがな?」

「そのノリじゃねえんだよなぁ。むむっ……あ、そうだ。ゲームやろうぜ」

「ゲームか。退屈凌ぎにゃ持ってこいだな。で、どういうジャンルのもんでやるんだよ?」

「卓上遊戯。将棋なんかやカードゲームなんかのタイマンで白熱できそうなやつやろ〜ぜ」

「んじゃ前に勝ち逃げされたカードで行こうか。今度こそお前の切り札ぶっ倒した上でライフ削り取ってやるよ」

「おめ〜も物好きだよなぁ、相手のエース倒すの前提で勝負するの」

「完膚なきまでの勝利って言ってくれや。相手の誇り、信頼を背負ったエースカードを打ち倒して勝てたら真なる勝利だろ?」

「うーーーん、勝負事になると名前通りの闇としてな側面一気に出てくるよなお前って」

「褒め言葉として受け取っておくぜ。じゃ、行くぞ」

「おーけー、始めようか」

「「勝負!!」」


その後、ぶっ続けで多種多様なテーブルゲームに興じた2人は休息がてら外の空気を吸いに軽い散歩へと出かけるのだった


「のどかだなぁ」

「あぁ、本当にのどかだ。これが1年後には――」

「濁闇。今だけは、この平和を噛み締めないか?」


振り向いた先にあったのはぎこちない笑み。押し殺したつもりでも、その声は。手は震えていた。そんな“光”の様子を見て、対をなす“闇”はただ一言


「それもそうだな」


穏やかな笑みを返すのだった


久しぶりのゆったりとした時間を夕方まで過ごした2人。このまま帰路へと、と思っていたのだが


「……っ、地震か?」

「いや違う。この感じ――」


空が割れ、現れ落ちて来た物体。それはゆっくりと起き上がると金切り声のような咆哮をあげ、暴れ出す


「野郎……オレが気を引く。輝光は――」

「その必要はないよ。“俺たち”だけで十分だ」

「あぁ?何言っ……いや、そういうことか。オーケー、いっちょ“姉妹オレたち”を怒らせたらどうなるか。思い知らせたれ」


返事を一つ返すとその手を巨大生物へと向けてかざす。すると地を揺らす巨体はまるで風船のようにふわふわと空中へと


「“生成・反重力空間アンチグラビティエリア・ジェネレート”。重ねて生成、衝撃相殺泡壁インパクト・クリアバブル


無数の泡が巨大生物を包み込むと1つの泡となる。泡を破ろうと巨大生物が暴れるが、ぼよんぼよんとはずむだけでびくともしない。その様子を確認すると輝光は機械の翼を召喚。単身、泡へと突っ込んで行く


「輪廻の生成ジェネレートか。しかもあれって未夢の“拡大解釈”で補強されてるわね」

「うおっ、姉貴いつからいたんだよ?!」

「気配消してました♡」

「きもっ」

「やだそんな照れるじゃない。もっと言っていいんだよ?はぁはぁ……」

「くっつくなー!はーなーれーろー!ほら輝光のかっこいいとこ見逃してもいいのかっ?!」

「おっといけない。全方位録画してるとはいえ肉眼で生バトル見て脳裏に焼きつけねば」


地上で2人がわちゃわちゃしている頃。泡をすり抜け内部の巨大生物と剣術を駆使して戦う輝光。迫り来る牙や爪を軽々と避け、わずかな隙を見つけると即座に斬りつける


「なんか怪しいな――」


戦闘の中で気づいた違和感。敵が一切の防御行動を取らない。それを行うことによる狙いを瞬時に予想・予測した輝光は攻撃に使う剣術の“型”を切り替えた。どうやら相手も勘づいたらしく、咆哮を繰り返し接近を阻む


「うっるさ!近所迷惑、どころじゃないか。街1つ崩壊するくらいの衝撃波、泡で防御しといてよかったぜ。それじゃ――お命、もらい受ける!!」


機翼の加速と泡の弾む力を利用し一気に距離を詰め、刃を急所と見受けられる位置に滑り込ませる。刹那せつな――視線を向けた先、巨大生物は


嘲笑わらっていた


「っ!?がっ、ぐっ……!こい、つ!!」


攻撃を受ける直前、巨大生物はその攻撃と今まで受けたダメージの全てを抽出しエネルギーの濁流へと変換。コンマ数秒に発射された特大範囲攻撃はさすがの輝光も回避する間もなく――


「輝光っ!おい、姉貴。援護に……!」

「大丈夫」

「いやいやいや!あんなおぞましい攻撃喰らってんのに大丈夫って!?」

「だーから大丈夫よ。なんたってあの子は、私のオリジナルなんだからね」


いまなお止まらぬ濁流。しかしその中で輝く切っ先。その剣は折れることを知らず


「限りを知らぬ時の内っ。かくして、見えた……我が剣技!……っ、悪意の泥の中であろうとも!その刃、衰えを知らず!」

「――っ!?」


かの刃は――


「言ったはずだ。たまもらうってなぁっ!!コイツを受けてくたばりやがれっ。絶技・砕悪裂滅斬舞ぜつぎ さいあれつめつざんまい!!」


そらにまたたく星々の輝きを宿していた


「お疲れぃ。ほいエリクサー。デカブツのむくろは泡ごと神々せんぱいがたが回収してくれるそうだよ」

「姉ちゃんはスポドリ感覚で何持ってきてんだ」

「にゃはは、冗談だよ。まぁ神界で貰った万能回復薬ってだけ。あ、一滴だけで超効果あるらしいんでそこ把握よろ」

「あっぶねえな!?こいつグイッと行くとこだったぞ」

「つーかエリクサーよりヤバい代物だろこれ。もう受けたダメージ治ってる」

「神に属する私らでこれなので人間が飲んだら超人超寿命化するor一発昇天のでっどおああらーいぶ!が出来るって〜」

「やめんか」

「やらせんな」

「えへっ!」


その後、たまたま担当日だったハーデースを筆頭とした冥界の神々らによって巨大生物の骸は回収され、解析・研究の得意な英雄たちによって調べ上げられるのだがそれはまた別のお話


「ハデス先輩が泡レッカーしてくのシュール過ぎて笑っちゃった」

「あのひと車の免許持ってんだ……いるのか?」

「会議の時に砂風呂やるためだけにショベルカー使うとか言ってたよ。あと伊邪那美いざなみおねーさまはよくわかんなくてとりあえずレバーがっこんがっこんさせてるって」

「情報過多っ」

「でもなんかわかる。イザナミさん機械オンチっぽい雰囲気してたし」

「濁闇ちゃん。イザナミおねえさんとオハナシ、しましょう?拒否権はないわよぉ」

「え、ちょっ、待って。のわあぁぁぁぁ!!?」

「ノータイムで連行されてった」

「あら、助けなくていいの?」

「……まぁ、伊邪那美さんのオハナシ結構ためになるから」


本日も不動一家は平和です

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三神姉妹の叛逆劇 〜俺っ子女神ですが自分のオリジナルに家族を酷い目にあわされたので叛逆しようと思います〜 豪運山勝山 / レドたん @GoUuNSaikyou082_8

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