3話 接触


時間遡行から数週間ほどした頃の月末。まだ少し冷え込むが、良い朝を迎えていた


「さてと、姉ちゃんらを起こしに行こうかね。しかしまぁ我ながら良い出来だな」


朝食を並べていると輝光ひかるの耳に聞き馴染みのある足音が入る。思ったより早いなと、そちらに視線を向けると姉・黒音くろねが珍しいモノを纏っていた


「おーっす、姉ちゃん。おはー」

「おはおはー。ねぇねぇ、どう?どう?これ。似合ってると思わない?」

「おー、よく似合ってるぞー。けどそれなんの服?どこかで見覚えはあるけど」

「アオザイ。ベトナムの服だったかな。結構気に入ってるのよ。色によって意味もあるみたいでね、この白は純粋だってー。私にピッタリでしょ?」

「純粋とは」

「なんだよー。純粋に妹らを愛してるの何がいけないんだーー」

「愛し方がオレ達の中で1番神々のそれに近しいからこそヤバいんだろうが」


呆れた様子で会話に入ってきた濁闇だくあ。その手には検索用タブレットを持っていた


「そいつは同感。近親……ん゙ん゙っ、なんて真っ先に思いつかないでしょ」

「人間社会に触れてたの長いだけあって輝光は1番人間に近しい価値観だもんねー。まぁ?そのおかげで?そーいうことする時に照れたり恥ずかしがってるとこ見られるの最高に可愛いんだけどねーーー!!」

「始源神の件無かったらマジでぶっ飛ばしてるんだがっっ!」

「不死身なのだわっ!」

「ちくしょうそうだったなー!」

「朝からなにやってんだこの姉妹わけみたまは……あぁ、それと姉貴のアオザイ?だっけ。それだいぶ改造してるよな。本来露出ほぼねーぞそれ。なんだその肩出しヘソ出しスタイル」

「えっ?通気性と〜、えっちさを求めた結果!みんなの分もあるよ」

「いらんて」

「いらんな」

「なんでさぁ」

「つーか飯冷めるからさっさと席についてくれんか」


食事をしながらも続く黒音のトークをいなしつつ無事完食。その流れで本日の方針を考える会に突入するのであった


「で、だ。今日も今日とて始源神に対抗しうる仲間探し。街の問題調査などとやること色々なんですが――直近で起きた謎の現象で気になるのがこれ」

「んー?どれどれ。総上鉄道そうがみてつどうの某駅周辺にて……え、うち近いね?」

「あー、それオレも見た。なんでも特定の時間にそこで666に電話かけると天国の扉が開く〜って噂だろ。なんで666で天国なんだか……待て、ここで話に出すってことは」

「うん、俺たちの面倒みてくれてる天照さん直々の指令。なんでも『わたしの分霊がいるところでいかがわしいことをするのは許せません!至急、らしめて来てください!!』とのこと」

「日ノ本最高神可愛いね?」

「テラスさんは可愛いだろ何言ってんだ」

「濁闇お前あの方のことテラスさんって呼んでたのか」

「……とりあえず支度して現場行くぞっ!!」

「照れてる〜かーわーいーいへぶぁっ?!」

「姉ちゃん、わざとだろ」

「バレた、か……ガクッ」

「ほらさっさとしねぇとまとめて置いてくぞー」

「待っでぇえええええええ!!ヤリステはいやあぁぁぁぁっ!!!」

「誤解しか招かない発言やめろぉっ!!?」

「今日は濁闇がツッコミ担当か」

「いやだがっ!?」


ドタバタしながらも現場に到着した3人。しかし予定の時間までまだかかることもあり、近くの公園に立ち寄っていた


「高台の公園ってロマンとか風情ふぜいとか風流ふうりゅうだと俺は思うんすよ」

「わかる、けど……ここ、坂…………きっっっつい……」

「姉貴そんな体力無かったっけか?戦闘時だと滅茶苦茶に動きまくってた気がするんだが」

「バトルと日常で使う体力は違うんですぅー!あ、でもえっちぃことするときも違うな?」

「…………」

「あの、輝光?ガチ無言されるとツラい、ってか怖い」

「ん?あぁ、悪い。この景色も始源神やつが現れたらって思うとね」

「あぁ――」


思い返されるは崩壊した世界。仲間は倒れ、神々の支援を受けてなお届かなかった刃。今度こそは――物思いにふけっているときだった


「……!来る。2人とも掴まって。一気にかっ飛ぶ!」

「ハッ、やっとこさおでましか。悪性強いンなら叩き潰してやる」

「うえぇっ?そんな唐突にっ!?ま、待って待ってー!」


空を駆ける一筋の光。向かう先、その上空には黒い何かが渦巻いている。視線を下ろすと例の噂を試したと見られる少年が恐怖で座り込み、動けずにいるようだった


「とにもかくにも人命優先っ、と行きたいがあの渦もなんとかせにゃなんだよな……!」

「ほんじゃ私が渦の方行くよ。輝光たちは周辺に防護壁を展開しといて」

「えぇ〜?せっかく暴れられると思ったのに……」

「次なにか事件起こったらそのときは濁闇に譲るわよ。じゃ、それぞれよろーっ!」

「重力操作での飛行――美幸みさの技か」

「使いこなすのはえーな……オレも負けてられねえ。だよな、輝光」

「だな。さて、こっちもやることやりますかっ!」


地上に降り、2人は救護活動をしながら防壁を展開する。一方で、渦の中に飛び込んだ黒音の目に映ったものは――


「これは、噂を試して消えた子供たちか。檻に捕えるだけでなく生命力を吸い上げられてるってわけね。……こっちに来たのが輝光じゃなくてよかった。あの子だったら怒り狂って――ってのが目的だったんでしょ。クソ始源之神オリジナル


闇の中。巨大な目玉が1つ、浮かんでいた。その瞳に生気はなく、どこを見ているのかも読み取れない


『小汚い模造品にしては、よい目をしている。滅するには惜しい個体だ。我が悲願がなされたときには我の軍門にくだることを許そう』

「よく言うよ。思ってもないくせに。で?わざわざ私に接触してきたってのはどういったたくらみなのかしらっ!」

『ほう、今のを弾くか粗悪品。並の神であれば死んでいただろう』

「ったりまえでしょっ!死角からのレーザーで狙撃とか色んな作品で見たわよ。それに不死殺し効果ものってるなら弾かなきゃ……って、この攻撃方法もしかして人類が描いた作品のファンなの?」

『……ならば、これはどうだ』


360度、全方位から黒音を狙うレーザーポイントが現れる。これから襲い来る光線を、この場がなにもない砂漠や海上などであれば遠慮なく弾き返しただろう。しかし、捕らわれた子供たちの存在がゆえに、流れ弾を当てずに弾くということは難しくなってしまう。――


「“吸光反射盤リフレクト・ディスク・アブソーブ”」


周囲に展開された4つの小型円盤。直後、放たれた全てのレーザー光線は直線の軌道で黒音へと――向かえず、それぞれが円盤へと吸い寄せられていく


『貴様……』

「お前の能力、存分に使わせてもらうわ。始源之神はじまりのカミ!」


円盤に蓄えられた閃光は勢いを殺すことなく跳ね返り、檻とそこに繋がる吸収装置を破壊。さらに目玉に一撃を喰らわせることに成功した


「ぃよっし、直撃ぃ!ま、どーせ本体じゃないし大したダメージじゃないんだろうけど――この隙に」


なにを思ったのか黒音は吸収装置に手を突っ込む。すると、奪われていた生命力がその手に集まっていき、ものの数秒で子供たち全員分を奪い返してしまった。それをすぐさま放出し持ち主に返す


「さてと、この子らが起きる前にこの空間から撤退撤退〜。っとその前に1個聞いていい?あんた、こんな事しなくても十分、いや十二分の能力持ってるでしょ。なんでわざわざまでこんなことしたの」

『…………貴様に語る必要などない。く失せよ』

「失せるのはそっちでしょーが。まったく、こんなんが私らのオリジナルとか泣きたいわー。じゃ、いつかの決着の日にでもねー」


ゆうゆうと立ち去る様子を追うわけでもなく、残された目玉はポツリとつぶやく


『……やはり、わからぬ。我の半身、そしてそこから分かれし我が眷属――いや、粗悪品ども。貴様たちは、なぜ』


地上に残っていた輝光たち。渦の消滅を確認すると安堵しつつ、念の為防壁を解除せずにいた。すると上の方で何かを叩く音が


「ひーかーるーー。いーれーてーーーー」

「バリア解くから粉砕しようとするのやめてくれねーかなぁっ!?」

「おねーちゃん、あれなぁに?」

「ん〜?あれはねー、ヤバい人だねー。危ないからオレの後ろにいてねー」

「……」

「……」

「えっ、なんで急にこっち見んだよ2人共」

「保護者濁闇」

「濁闇オカン」

「やめろそんなキャラじゃねーよ」

「どこがだよ」

「どこがぁ?」

「コイツら……」


その後、黒音から始源神が関わっていたこと。元々の噂の中身とはかなり変化させられていたことを聞いた2人はしばらく神界でスパーリングをして苛立いらだちを発散していたであった


「そういえば私の魔改造アオザイ着た輝光たちの姿。まーだ見てないんだよねぇ。ま、今度のお楽しみってことにしよーっと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る