2話 戦闘訓練 vs神話英雄
とある日の昼
「たっだいまー!いやぁ……あれ、
「んぁ?姉貴、忘れてんのか?今日あいつ
「あ〜、そういえばそんな話もあったか。おのれ
「なんで古風な口調なんだよ。ま、でも向こうとこの地球での時間の流れは違うし、そろそろ帰ってくるだろ」
「あぁ、時空のゆがみだかひずみだかを上手い事利用して修行するって少年漫画でもよく使われる修行法。あれ、便利だよねぇ……ウヘヘッ」
「ロクでもねぇこと考えてんなぁ……あっ」
「んん?濁闇、なーにニヤニヤしてほぎゃっ!?」
「案の定ってな」
「……ぬぁ〜、痛い痛い痛い痛いー!あー、もう!本気中のド本気で斬りつけたりブン殴ったりして来やがってあいつらー!!」
「お疲れ。そら、姉貴がスポーツドリンク買っといてくれてんだ。飲むだろ」
「ありがと。…………ぷはっ、美味い」
「一気に飲み干しとるぅ。500ミリリットルだぞそれ」
「それだけ激しい訓練だったんだよ。ところで濁闇、姉ちゃんどこ行った?」
「お前の尻の下」
「えへへぇ〜、輝光の体温、輝光の重さぁ……うへっ」
スパァン!とどこからともなく取り出したハリセンのいい音が響いた
「で、今日はどこの神々とやり合って来たんだ。始源神由来の“ありとあらゆる存在・技・武装の原点”、劣化コピーに近いとはいえソレを扱えるお前がこうも――」
「あ〜やっぱりそれ気になるか。とりあえず見てもらった方が早いかな」
「おー、久々の記憶同期。さてさて輝光のどんな姿が見られるかなー?ぐへへへ」
普段はあまり使用しないが、輝光及びその姉妹たちは元々1つの存在だった事から記憶・経験を共有することができる。口で説明するよりも“体験”してもらった方がより鮮明に伝えやすいということだ
「姉ちゃんはヨダレ拭いてくれ。……じゃあ、行くぞ」
「Ready Goー!!」
「むっちゃネイティブな発音どーも。では記憶同期、開始」
神界に到着した輝光。まずは周囲を見渡す。場所の雰囲気は湖のほとり、といったところであった
「ほう、此度の空間跳躍――テレポートと言った方がよいか?早かったな」
「って、なーに
「オーディーン先生と呼べと。まったく、日本に
待っていたのは北欧の大神・オーディーン。訓練相手としては申し分ない、いやむしろ強過ぎてキツいのではと思う心配をよそにオーディーンはニヤリと笑った
「まさか、私は今回の監督役さ。君の相手はまもなくやってくる。空を見るがいい」
「空――あれは」
天を駆ける2つの光。徐々にこちらへと近づき、その正体を視認できたとき驚いた
「おいおい、マジか」
「大マジだ。我々神々が相手をしても良いのだが、君も進化した力を試したいだろうと思ってな。彼らを任命させてもらった」
「お待たせしてしまったようだな。ヤマトタケル、ここに」
「我が名、ヘラクレス。全霊を持ってお相手
神界には神々の他にも各国で偉業を成し遂げたり、伝説として語られ続ける英雄たちも地球上から移り住んでいる。その英雄たちの中で指折りの実力を持つ者、日本神話において
「聞くに
「私も彼の案に賛同し、ここに馳せ参じたというわけだ。まぁ単純に日ノ本に縁のあるモノとして輝光殿とは手合わせ願いたいと思っていたのも事実だけれどね」
「レディに怪我を負わせるのは紳士としては大変忍びないのだが――戦士として鍛錬をしたいとのことであれば喜んでお相手しよう。終わったらオレとティータイムでもどうかね?」
「しれーっとデートのお誘いありがとう。それについては
瞳を閉じた輝光の背後、突如として空いた“穴”。そこから現れた機械の様な物体が翼などのカタチに変化し、腕や脚、背中へ装着される。そしてその眼が開くと黒かった両目は紫へと変化していた
「全身全霊を持って、討伐するつもりで相手してくれると助かる」
「……!これは、想像以上だな」
「レディ、失礼を詫びよう。私は君をみくびっていたようだ。少々、本気を出させてもらう」
オーディーンによる結界も張られ、全ての準備が整った。先手を取ったのは――大英雄。その屈強な容姿からは想像しがたい
「ぐっ、おっもっ。ただの拳でこれかよっ、大英雄って呼ばれるだけはあるな……!」
「ほう!その細い腕でこの一撃を防ぐのかっ。いや、失敬。君も神に連なるモノだったな。なれば、小僧っ!」
「小僧という歳ではないのだがなっ!!」
両手で刀を使いヘラクレスの拳を防いでいる状態へ迫る剣。下手に回避行動を取ればどちらかの追撃を受けてしまうだろう。その様子を大神は静かに視ていた。そして――鈍い金属音が響く
「ふ、ふははは!そう来なくてはな!我が拳を両手でしか防げぬようであれば、神とて打ち砕くのみよ!!」
「貴殿はそれで良いかも知れんが私は自慢の剣を小太刀で防がれた事に納得がいかないのだがなぁ!?」
「雑談楽しそうなとこ悪いけど――ぶっ飛べ」
「ぐぅ……!?」
「ぬおっ!!」
「うーわっ、結構マジな衝撃波だってのに10メートルくらいしか飛んでないの体幹良すぎてこわっ。やっぱ神話英雄ってのは……
「小僧、いやヤマトタケル。あの波動」
「あぁ、思っていたより凄まじいな。断片的な力でこれとなれば始源神とやらは相当に――まったく、神々が苦戦を強いられるのも納得だ。正直、八岐大蛇と真っ向勝負をする方がまだマシかも知れん」
「褒め言葉として受け取っておくぞー。じゃあ、今度はこっちからっ!!」
機械の翼をフル稼働させ、結界内をまるでゴムボールが弾むように不規則な動きで飛び回る。視界に捉えることすら困難なスピードで動き回られてはさすがの英雄も反撃は難しい――と、輝光は“考えなかった”
「ほう、移動しながら地形を操作するか。面白いことをする。しかし、これはあとで怒られるだろうな。私が……大神なんだけどなー?」
「あとで直すから今だけ許してくれなー!っと、これならどうおわっ!?」
「はーははははーーっ!!甘い、甘いぞレディ!地形を滅茶苦茶にされた程度で止まるのであれば、オレは“大英雄”などと呼ばれはしない!!」
「あーそうだな!そうですね!試練に対するある意味特攻みたいなの持ってるもんなそちらはー!」
恐るべき身体能力でヘラクレスは、ほんの一瞬空中で止まった輝光に飛びかかりそのまま変形した大地も砕きながら落下していき、最後にドゴォンと轟音を響かせた
「お、オーディーン殿。流石にやりすぎではないだろうか」
「いやこれで止まるようであれば彼女の神としての力はあまりにも弱い。だが、そうなると思ってはいないだろう?そら、来るぞ」
「がっはあぁっ!!」
「ヘラクレス殿っ!?一体なにが……」
「いっっっってぇなぁ!落っこちながら
「なんだ……彼女の手にある“ゆらぎ”は――?」
「ほう、レーヴァテイン――の模倣。いや、それに近しいモノか。面白いモノを見せてくれるではないか」
面白くなって来た。と、思った矢先。突如として黒音、濁闇両名の視界が暗くなると弾き出される感覚と共に元の空間へと戻された
「あれ。同調途切れ、た……?輝光ーーー!!?」
「すまん……疲労、厳しいの……忘れてた」
「おんまえ限界近ぇなら先に言え!とりあえず湯船浸かって――いや、やっぱオレが洗ってやる。姉貴に任せたら性的な方のエナジードレインとかされかねん」
「それはわかるが過ぎるんで頼んでいいか」
「やだ妹たちからの絶対的な信頼におねーちゃん昂りそう」
「だーまーれーー?」
「姉ちゃんはいっぺん隕石にでもぶつかっといで?」
2人が風呂場へと向かったすぐ後。黒音がテーブルで足をぶらぶらさせながらくつろいでいると空間に穴が空き、1人の青年が現れる
「あら、ヤマトタケルじゃないの。どしたぁ?」
「おぉ、黒音殿。お元気そうでなにより。して、輝光殿にこれを渡しておいてもらえるだろうか。私とヘラクレス殿からの試合の礼と、派手にやりすぎた詫びの印だ」
手さげの中にはヤマトタケルの選んだと思われる
「ところでなんだけど」
「はい」
「あの子、今回“枷”外した?」
「――私に問わずとも、貴女は分かるのでは?その眼、他者の心を見透かす目であろう」
「まぁね。でもその人の口から聞く方が良いってこともあるでしょ。少なくとも私はそう考える。で、どうなの?枷外すほどに追い込めた?」
「……まったく、変に人間臭いというか。そこも魅力なのでしょうけど。結論から言えば――外しました、両手首のを。おかげでヘラクレスは全治2週間。オーディーン殿は訓練場を直すのに3日かかるとのことですよ」
「うっわ、大英雄の全快に週またぐだけでなく最高神に3日使わせるか!さっすがうちの妹内最強!やってくれるねぇ」
「いや万一あった時に戦力としてトップクラスの方々が動けなくなっているのマズいでしょっ!?」
「にゃっはははは!そいつはごもっとも!ま、代行くらいは私がやるよ。訓練のお礼と詫びとしてね。あ、そういえばこの羊羹って冷蔵?爆速で冷やした方がいい?」
その後、ヤマトタケルが帰るのと入れ替わりで風呂場から出て来た2人と共に3人でお土産を頂いたのは言うまでもなく
「羊羹食べてたら
「あー、それ前に家電屋のゲームコーナーで見たぞ。自販機に入ってた」
「ん、私も欲しい。今後みんなでデートがてら行こ〜」
「ほーい」
「あいよー」
地球上の時間にして5分前ほどの神界。すでに回復の済んだヘラクレスの元に、ギリシャ最高神が現れる
「具合はどうだ。アルケイデース」
「これは我が大神ゼウス。ご心配痛み入ります。ですが我が肉体!最早万全と言っても過言ではないでしょう。それと、
「はっはっはっ!お前もまだ照れがあるか!愛いヤツめよ。っと、談笑していたいところだがお前に尋ねたいことがあるのだヘラクレス。不動輝光の枷を外させたそうだな。単刀直入に聞こう――今のヤツに勝てると思うか?」
大神ゼウスの目つき、そして声色。問いの意味に気づくのに時間はかからなかった
「……五分五分に持ち込めれば良い。と言った印象でしょうか。2つの枷を外した彼女に、私は“死”を感じました。であるのならば――」
「良い、それが分かれば十分だ。しかし、難しいことを問うてしまったな」
「いえ、いえ。我らが神よりの問いとあらばそれは誉れにございます」
「嬉しいことを言ってくれる。さて、不動輝光で五分五分となれば――久しぶりに鍛えるか。ヘラクレス、病み上がりですまぬが相手を頼めるか」
「私でよろしいのであればよろこんで承りましょう」
「うむ。これも始源之神を討ち、人々の未来を救う為」
ゆっくりと、少しずつ。世界が動き始めていた
「………ふどう、ひかる………わが……はんしん……」
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