1話 再びの日常



「ふわぁ、姉ちゃんおはよー」


朝6時。自室のある2階から階段を降り、リビングに向かうと姉・黒音くろねが朝食を作っていた。ケモミミがやけに動いていて楽しそうである


「おはおはー。おん?なにやら眠そうだねぇ。それに髪もぼさぼさぞ。ここなんか特に」

「このアホ毛はどうにもならんのですが。でもまぁ睡眠不足は否めないかなぁ」


曲がりなりにも神に属する者が睡眠不足というのも変な話ではあるが、事実そうなのだ。俺達七姉妹、その内俺、輝光ひかるを含めた3人は先の戦いで消えた4人の思いを胸に過去の世界へと飛び、来たる1年後の始源之神はじまりのカミ襲来に備えていた。その結果がこの寝不足である――


「ていっ」

「んえっ?姉ちゃっ、黒姉ぇっ。いきなりなにすんのさ?」

「何と申すか輝光ちゃんっ。そりゃあ、みんなから託されて気合い入ってるのは私もわかるさ。でーも気合い入れすぎて普段が疎かになってちゃー、いざという時万全に動けないぜぃ?そんなんじゃ、あの子達に顔向けできないよ。おーけー?」

「うぐっ」


全くもって仰る通りである。この姉いつもはおちゃらけているが、時折こういうちゃんとしたことも言ってくれるのは、耳が痛いと同時にとてもありがたく感じている。いやほんと日頃からそうであってくれ


「んー?なーんか失礼なこと考えてるなー。そんな子は頬もちもちしたるー⭐︎」

「にゃんで、そー、なんのっっ?!ってか料理っ。料理はいいのかよっ」

「おっとそうだったそうだった。今お焦げを作る予定はなかってんにゃ〜。とりあえず歯磨きしといで。その間に朝ご飯ならべとくよー」


1つ返事をし洗面台へと向かう。まだまどろみの残る中でふと鏡に写る自分の顔を見ると、なんともひどく疲れ切った顔をしていた。仮にも神に連なる者としてヤバいだろこれ


「いささかハードワークしすぎたか……他の神々先輩方にも休めって言われてたしなぁ」

「よーやく気づいたか阿保」


突然の声に振り向くと元・宿敵にして現・相棒が眠そうに目をこすりながら立っていた


濁闇だくあ。お前気づいてたなら言ってくれれ、ば……いや待て。まさかお前」

「ふわぁ〜。ハードワーク、いやオーバーワークすんのはいいけどよ。自分てめぇの体ん悲鳴ぐらいは自分で気づいてやれ〜。おかげでこちとらこの1週間毎晩8時間睡眠の健康優良児で夜中の偵察する暇もねえってもんだ」

「……すまん。あと、ありがとう」


疲労を肩代わりしてくれていた事と忠告に対する謝罪と感謝。自然と頭も下がる。そういえば、過去に戻ってからゆっくり寝たのっていつ頃だっただろうか


「おう。とりあえず飯食ったら寝ろ。つーか寝てくれ。姉貴のヤツもいつも通りに振る舞っちゃいるが――」

「いつまで歯磨きしてんのー?ご飯冷めるよ〜」

「……まぁ、その〜なんだ。1人で背負い込むなよってことっ。神々連中にも話は通ってるんだ、ヤツへの対策練るのも大事、あいつらを忘れねえことも大事。でも休める時には休め」

「――あぁ。しかしまぁ、“にごった闇”を自称してたお前からそんなこと言われるとはなぁ」

「ハッ、だーれかさんにほだされたせいかもなー。なんてな」


談笑しながらやることを済ませて食卓へ。カレーの良い匂いが漂っている


「さてさて今回はカレーライスなのでござるが〜」

「朝カレーでござるか」

「まぁまぁ重めでござるな」

「真似やめて。おねーちゃん恥ずかちい」

「は?」

「はぁ?」

「えっ、なにその“意味わからん”って顔。いや確かにお姉ちゃん普段からスキンシップ激しいのは自覚してるけど」

「俺オメーにしょっちゅう襲われかけてんだけどどの口で恥ずかしいと???」

「姉妹総出で止めてたんだがマジで何言っとるんだこの輝光特化ドシスコン???」

「えへ〜、褒めてもなにも出ないって〜」


この姉。平常運転すぎる。そう思った瞬間、先ほどの濁闇の言葉がぎる


「ったく、輝光もなんか言ってやれ……なんで笑ってんだお前」

「えっ。俺今笑ってた?」

「ぬぉっ、マジか。久々に輝光の笑顔だとぅっ!?くぅ〜、撮影タイム逃したぁっ!」

「はいはいそーですねー。つーかよ、聞こう聞こうと思ってたんだがカレーの横に色々置いてあるのなに」

「タマゴ、ソース、ガーリックチップ……他にもまぁまぁあるな。黒姉ぇさてはこれって」

「お好みのヤツかけて♪ってやつでーす。私はガーリックチップ……と行きたいけど、今日は人と会う用事があるのでタマゴかな」


朝食にカレーと重めなだけでなくトッピングバイキング仕込んでくるとか大食い番組ごっこでもしているのかこの姉はとツッコミたいのをグッと堪え、物は試しにガーリックチップを選んでみた


「あ、気になってたの取られた」

「おっ先ぃ〜。おっわ、香りすごっ。カレーラーメンみたい」

「食欲そそる香りでいいよね〜。実は私、それ結構好きだったりするのでっす。ん〜!タマゴはタマゴでまろやかさが増すわぁ〜」

「ふ〜む……んじゃオレはソースにするか。被るのなんやヤダし。にしてもカレーにコショウとか唐辛子とか入れるヤツいるのか?」

「意外といたよ。リサーチしてから選んだからね」

「姉ちゃんはどこにりき入れてんだよ。うっわ、香りだけでなく風味もラーメンスープ感が出てるうまっ」

「むっ、気になること言ってくれやがるな。輝光、こっちのちょいやるからそっちのくれよ」


提案を承諾しょうだくしてから気づいたが濁闇ってこの味食べた事あったはずなんだけど――まぁ、いいか。うん?


「――――――」

「姉貴が昇天してる」

「なんでぇ?!」

「妹達が、食べさせ合いっこ――さいこう、てぇてぇ、ちぬ」

「食事中に逝かないでもらっていいか??」

「ほんっと平常運転だなぁ?」


その後、主に姉・黒音がボケ倒しまくったもので食事が終わったのは席についてから30分後だった。カレー冷めるって、ベースが美味いからなんとかなるけどっ。食器を片し、自室に戻る。ベッドに横になってみた。ふかふかしている。思えば――


「始源之神との闘いが始まる前から、ずっと気を張りっぱなしでちゃんと寝てなかったな」


蘇る記憶。かつて談笑した人間の友はあの闘いで無残な最期を、手を貸してくれた神々せんぱいがたは相手にもされず、そして妹達は――


「………………いや、それだけじゃないだろ」


そう、じゃない。彼ら彼女らはただ散っただけではない。みなに共通していた想い


『あとは、頼むぜ。ひか、る……』

『行け、不動輝光っ。貴殿に勝利があらんことを……!』

『ねーちゃん、愛してる。これからも、ずっと。だから――勝ってね』


その信頼に次こそ、今度こそ。応えて勝ってみせるさ


「したら今度はみんなで大団円!だ、な……」


あぁもう。食後ってのはどうしてこうも、眠気が襲ってくるんだろうな――


「――布団くらいはちゃんとかけないと体に悪いですよーっと。えぇっと、持ってく書類は〜これか。んじゃ、おねーちゃん行ってくるねー」


まどろみの中、撫でられた感触が残る。そういえば以前にもこんなことがあったような気がする



始源之神 降臨まで 358日

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