④
「もう、信じられない!」
私は少しだけ大きな声を出してしまう。
「あの人は石頭過ぎる!」
昨日の火事は、結局調査中をとしか公表されず、噂の広がりに拍車を掛けた。私も、あれから情報を集めたり、カメラで写真を撮ったりしたのだが、色々としていたのだが、やはり出火の原因は終ぞ判らず、ただただ火事現場を写真に収めただけだった。
そして、会社に戻った私は、さっそく上司にこの事を伝えて、特集を組むべきではと打診したのだが、返ってきたのは、不要の漢字二文字だった。いいのか、このタウン誌が終わっても!
抗議をする私に、それよりも特集の進捗はどうだと聞かれ、取材してきた内容を説明した。そして、一言。
「それで、肝心の写真はどこにある?」
そうだった。火事現場を撮る際に、運悪く容量がいっぱいになってしまったので適当に消したんだった。あの時無我夢中だったから、チャーハンの写真も消しちゃったんだ。
その結果、どうでもいい事に時間を割く必要はない。もう一度しっかりと取材を
してこいとのお叱りを受けてしまった。
そして、昨日の今日ではあるが、こうして二度目の取材と相成ったわけである。本当に麺やべぇの大将には、世話になってばかりである。
「まあまあ、霧子ちゃん。はい、ご所望の品だよ」
「大将。本当にありがとうございます」
目の前には、昨日食べたチャーハンが皿に盛られていた。うん、匂いだけで判ってしまう、この美味しさを。
「いただきます……の前にと」
今度は容量をしっかりと確保してきたので、大丈夫だ。私は写真を何枚か別の角度
から撮る。
そして、蓮華を手に取ると、手を合わせ、チャーハンを掬い、口に運ぶ。
ああ、やっぱり美味しい!
「そういえば、昨日の火事聞いたよ。店は全焼みたいだったけど、幸い誰も店に居なくて良かった」
チャーハンに舌鼓を打っていた私に、大将が話を振ってくる。
「本当に良かったです」
「しかし、俺も他人事じゃないから、気を付けないとな」
「そうですよ、大将。明日は我が身なんてこともあるから、気を付けてくださいね!」
「はは、判っているよ」
軽快に笑っているが、本当に気を付けて欲しい。昨日の現場を直接見たけど、あんな姿にこの店はなって欲しくない。
それに、今まで火事で怪我をした人がいないのが、奇跡的ではあるけれど、本来なら被害に遭う人が居てもおかしくないのだから。
「ご馳走様でした!」
私は空にした皿を大将へと返すと、席を立つ。
「お粗末様。あれ、もう帰るのかい?」
「はい。写真も撮れましたし、大将へのインタビューも出来ましたから」
リュックを背負い、帰り支度を済ませると、私は大将へ挨拶をする。
「それじゃあ、大将また来ます。楽しみにしていてください!」
「ああ、気をつけてな!」
私は、扉を閉め、麺やべぇを後にした。
麺やべえから離れた私は、またここに来ていた。この町を見下ろせる場所、高台に来てしまっていた。
先日と同じように、この雉見町を見下ろしながら考える。何かを考える時は、必ずここに来てしまうのが私の癖だ。
考える事………それは、当然、この町で起きている事件についてだった。上司からは、止めろと言われているが、私はどうしても気になってしまっていた。記事にしたいという気持ちも嘘ではない。
しかし、それだけではない。それは、どうしてなのか、なぜなのか……。
「ここは見晴らしがいいね」
そんな事を考えている私は、急に話掛けられた。そして、その声に訊き覚えがあった。
横を見ると、そこに居たのは、全身黒コーデに身を包んだ、昨日の中二……ゲフンゲフン。特徴的なコーデをした人物が立って居た。
返事をしようとした私を、頭の中のもう一人が止める。ちょっと、待てと。
もしかしたら、今のは私に声を掛けたわけでなく、ただの独り言というかの可能性はないだろうか。そう、ここから見下ろす事の出来る町の眺望を見て、思わず声を出してしまった。そう考える事も出来る。
「あれ、お姉さんはそう思わないのかい?」
前言撤回。完璧に私に対しての言葉だったみたいだ。そうと判れば、
「それについては、同感」
「だよね」
その人物は、微笑む。人形みたいに整った容姿。人形みたいだなんて、初めて思った。てっきり本とかだけの世界の表現だと思っていたけど、この子にはそれがぴったりと合う。
そんな子が、どうしてあの火事現場に居たのだろう? そんな疑問を私は持ってしまった。
「さてと、いい景色も見れて事だし、ボクはそろそろ行くよ。またね」
その子は、そう言って立ち去ろうとする。あっ。
「ちょ、ちょっと待って!」
気が付けば、私はその子を呼び止めていた。急に呼び止められたその子は、不思議そうに私の方を向く。
「どうかしたのかい?」
「え、え、えーと……」
呼び止めたのはいいものの、何も考えていなかった。単刀直入に訊いてしまうか? いや、いきなり初対面の人間にそんな事を訊かれても困ってしまうだろう。しかし、せっかくのチャンスを棒に振るなんて事は私には出来ない。
「ちょっと、そこでお茶しない?」
悩んだ末に、そんなナンパするかのような意味の判らない誘い文句を言ってしまっ
た。
「そこでて、そのベンチでかい?」
私がかっこつけて誘ったのは、自販機横のベンチだった。ダセー! きっと、今の私は顔面が赤面している事間違いない。
「ふふ、面白いお姉さんだね。いいよ」
そんな私の誘いに、快く承諾してくれる。ありがとうなのだが、それはそれとして、見知らぬ人の誘いにほいほいと付いて行っては行けないわよ。
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