第94話 そこにいたのは

僕たちは朝食を済ませると、すぐにダンジョンボスの部屋へと向かった。向かう道中でも話をしながら、強敵であるダンジョンボスの戦いに備えた。


「まずは様子見だな、俺が先行して攻めてみるから、他のメンバーはボスの動きを見て、対策とか練ってくれ」

「いや、それは危なくないか、いくら朝陽でも一人で戦うのは危険だ」

「僕もそう思う。最初から全員で全力で戦った方がいいよ」


「大丈夫、無理はしねえし、危なくなったらちゃんと退くから気にするな」

「バカ、あんたがやられたら全滅の危機になるじゃない。やるんならやってもいいけど、絶対に死なないでよね」


碧と朝陽は前衛の要である。二人のうち一人でもやられるとPTは崩壊の危機に陥るだろう。理央の注意はPTの安全を思ってのこともあるだろうけど、無茶する朝陽を心配して出た言葉でもあるように思った。


他に作戦もないことから朝陽の案で最初は様子見となった。ダンジョンボスの部屋に到着すると、朝陽が気合を入れて最初に中に入る準備をする。


「それじゃ、いくからな、よく見とけよ」


扉は僕と碧で開く。大きな扉だけど、グイッと押すと、それほど力をかけなくてもスーと開いていった。


開いた扉を、朝陽はゆっくり進む。

「気を付けろよ、朝陽」

「わかってる」


ダンジョンボスの部屋の中は、真っ暗だった。様子もわからないし、ボスの姿も見えない。朝陽は警戒しながら進んだ。


ある地点までくると、部屋が一気に明るくなる。そして、ダンジョンボスがその姿を見せた。


「ふんっ、現れたか」


ダンジョンボスは人型の巨大な石像みたいなモンスターだった。かなり強そうには見えるけど、ゴンが言っていたようなバグ級の強敵感は無い。やっぱりゴンが大袈裟に言っていただけのようだ。


石像は、こちらの思惑通り朝陽にターゲットを向けた。拳を振り上げて、頭上から朝陽に向けて叩き下ろす。それを朝陽はヒョイと避ける。そして石像の後ろを取るように回り込んで走った。


「かなりパワーはありそうだけど、動きは思ったより早くはないな、あれなら朝陽に命中することもないだろ」


碧の言うように、ダンジョンボスの動きは、それほど早くはなかった。朝陽は余裕ある感じで攻撃を避けている。


だけど、それは僕たちの最初の誤りだった。ダンジョンボスがこの程度のはずがなかったのだ。


何度も朝陽に攻撃を避けられた石像が声をあげた。いや、実際に声を発したわけじゃなかったけど、上を向いて図太い音を立てる。それはかなりの音量で、みんな耳を抑えた。


その声をあげた後、石像は動きを止めた。そしてぶるぶると体を振動させる。すると、石像の皮膚、いや、表面にひびが入り始める。そのひびはどんどん広がっていき、やがて石像の体中を覆う。最終的には石像は脱皮するように古いひび割れた皮膚をやぶり、中から新たな体を生み出した。


光の巨人、そう表現するのがいいかもしれない。石像の中から現れたそれは、朝陽だけではなく、後方から様子を見ていた僕たちにも、ギロリと死の視線を送った。


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