第87話 お試しで

その日も僕はゆっくりと覚醒して目が覚めていく。屋敷のベッドは寝心地も良く、疲れがよく取れる。さっぱりと目覚めて、僕は居間の方へと移動する。


「おはよ、健太」


いつもの如く、僕より先にいるのは恵麻だった。ちゃんと寝てるのか不安になるくらい早起きだ。


「コーヒー淹れてるよ」

何も言わずにすでに僕の分のコーヒーを入れてくれていた。起きる時間、飲み物の好み、全て見透かされてるようで、不思議と嬉しかった。


コーヒーを飲んでまったりしてると、残りのメンバーも起きてくる。そうなるといつものように朝ご飯の話になった。


「パンがいいかな、バターたっぷり塗って食べたい」

「俺は鮭とご飯と味噌汁に一票」

「ヒマリはホットケーキ食べたい!」


いつもスッと決まるのだけど、今日はどういうわけか、みんな主張が強く、なかなか決まらなかった。


「よし、じゃんけんで決めるぞ」

「そうね、それがいいかも」


ということで、じゃんけんとなり、結果はヒマリのホットケーキが採用された。嫌いじゃないけど、出来れば他の提案が良かったなと少しだけ思ってしまった。


ホットケーキにはバターとメイプルシロップが定番だと個人的に思ってるけど、意外にみんな個性的な選択をする。朝陽はチョコレートをどっぷりと掛けて甘々に、ヒマリはそれにアイスを追加トッピング、そんな二人に対して、碧はベーコンにバターと、あくまでホットケーキを食事ととらえているようだ。理央と恵麻はフルーツ多めにトッピングと鮮やかに見た目重視となった。


「やっぱ、ホットケーキじゃ食った気しねえ」

「そんなチョコレートばっかし掛けてるからでしょ、もっとバランス考えないと」

「ホットケーキなんざ、甘きゃいいんだよ、甘きゃ」

「おい、それは偏見だぞ。最近はおかず系のホットケーキも見直されていてな」


少しもめても和気あいあいと朝食を楽しんだ。このPTの最大の武器は、こうやって何気ない生活の中で、絆を深めていけていることなんじゃないだろうかと、ふと思う。



朝食を終えると、すぐにレベル上げ特化エリアへと向かった。ここでジョブアップグレードの強化を確認する。


「どうする、ひっぱってこないで、みんなで少し奥まで行ってみるか?」

「そうね、少しくらい冒険しないと、どれくらい実力がアップしてるかわからないものね」


ということで、昨日のように朝陽がモンスターを引っ張ってくるのじゃなく、みんなでエリアへと入っていった。


すぐにモンスターが現れる。それも三体の西洋甲冑だ。一体でも苦戦した相手、三体相手にどう戦えるかパワーアップを試すには丁度良いかもしれない。


「碧、ゴン、俺と三人で一人一体を抑えるぞ! 健太たちは後衛から一体ずつ確実にしとめてくれ」


「ザコガ、オレニメイレイスルナ」

「面倒くさいな、健太、頼む」

「ゴン、朝陽の言うとおりにして」

「フンッ、シカタナイ、ヤッテヤルヨ」


ゴンは僕の命令しか聞かないのがちょっと面倒くさいけど、頼りになるのは間違いない。一人で、西洋甲冑の一体を難なく抑えた。


ジョブアップグレードの結果を確認する意味では、この時点ですでに達成してしまったかもしれない。なんと、抑えるだけの目的だった前衛たちの戦闘だけど、碧が渾身切り三発で西洋甲冑を倒してしまったのだ。あまりのパワーアップにみんなちょっと驚いて唖然としてしまった。


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