第86話 現状

全員のジョブアップグレードが終わり、PTの戦力が桁違いにアップした。これでダンジョンボスも倒せるだろうと、みんな思っていたけど、それを否定する存在がいた。


「ナニイッテルンダ、ソンナテイドデ、ダンジョンボスヲ、タオスナンテムリニキマッテルダロ」

「まだ、倒せないって言うのか!?」

「アタリマエダ、レベルガチガウ」


「まあ、今の俺たちの実力を知らねえから、そんなことが言えんだよ。明日はレベル上げの特殊エリアで、成長した俺たちを見せてやろうぜ」


「いいわね、自分の実力の確認にもなるし、新しい力に慣れないと」


僕もこれには賛成だった。みんな、新しい力に慣れる時間も必要だし、どれくらいの事ができるか確認は大事だと思った。


「よし、そうと決まれば今日は腹いっぱい飯食ってさっさと寝るぞ」

「そうね、ジョブアップグレードしたし、お祝いしましょう」

「理央は飲みたいだけだろ」

「あら、いいじゃないの、飲めるって幸せなことよ」


その言葉は、未成年の自分には理解すらできないけど、理央は本気で言っているようだ。


その日の夕食は、材料もあったので、お祝いということで豪勢にすき焼きと決まった。すき焼きを嫌いな人間などいない。そう豪語するのは朝陽だった。


「朝陽って、コーラとかすき焼きとか分かりやすい味が好きよね」

「わかりやすくていいじゃねえか、美味いもんは美味い、それだけだろ」


よく意味は分からないセリフだけど、妙に説得力はあった。僕もわかりやすく美味い物は好きで、すき焼きも嬉しかった。


「いい肉だな、ここの元主人はかなりの美食家だったみたいだな」

「そうね、豆腐やしらたきもあるし、食にこだわりがあったのは間違いなさそうね」

「ねえ、ねえ、まだ食べれないの?」

「もうちょいだ」

「野菜はいけるんじゃない」

「そうだな、白菜とかなら食べれるぞ」

「え~お肉がいいよ」

「じゃーもうちょい待て」


朝陽の仕切りで、すき焼きは管理されており、僕たちは卵を持って朝陽の号令を待った。


「よし、肉いいぞ」


その言葉を待ってましたとばかりに、みんな肉に箸を伸ばす。肉は十分あるんだけど、鍋の大きさから同時に煮れるのは限られている。待たされた分、みんな最初の一つを望んだ。


「ちょっと待て、俺の分の肉は?」

見ると、一瞬で肉は無くなっていた。他の食材の火の通りを見ていた朝陽は乗り遅れ、肉を取り逃してしまう。

「肉はたくさんあるんだから、入れればいいでしょ?」

「最初に人数分入れていたはずだぞ。誰か二つ食った奴いねえか」

「……」


自白するものはいなかった。朝陽は諦めたように話を進める。


「たくっ、次は一人一個だからな、俺の分取るなよ」


そう言って、朝陽は追加の肉を鍋に入れる。肉が煮える間に、ほかの食材にも手を伸ばし始めた。


「豆腐はすき焼きで食べるのが一番美味しいよね」

「そうか? 俺は冷奴も好きだぞ」

「いや、豆腐なら絶対、麻婆豆腐でしょ?」


そんな会話をしている間に新たな肉が煮えた。


「よし、肉、もういいぞ」

他の食材も美味しいけど、やはりすき焼きの主役は肉である。みんな一斉に肉に箸を伸ばす。


「ちょっと待て! もう肉ねえじゃねえか! そのまま動くなよ!」

朝陽はみんなの動きを止めると全員の取り皿を見回る。そして犯人を見つけた。

「やっぱりてめえかヒマリ!」

「違うよ! 間違って二つ取れただけだよ!」

「言い訳はきかねえ! 最初の分と合わせて二回休みだからな!」

「え~~ヒマリが二個取ったの今回だけだよ」

「え~、じゃねえ、そんなの信じるバカはいない!」


ヒマリは納得いかないようで、ずっと抗議してる。なんだかんだ言って、最後は休みを一回にまけてやるとろが朝陽の優しいところじゃないだろうか。

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