第74話 一度撤退
黒い巨人をなんとか倒した僕たちは、一気にレベルアップしていた。まだ100には遠いけど、取得経験値だけみると、かなりいい感じではある。よし、この調子でもう少しレベル上げしようと思ったのだけど……。
「ちょっと、あれ見て!」
「うわっ、ダメダメ、逃げよう!」
信じられない光景だった。見ると、奥からついさっきやっとこ倒した黒い巨人が五体も、こちらに向かってきていたのだ。
「ありゃ、無理だな。一度撤退するぞ」
さすがにあんなのを一度に五体と戦うなんて無理な話である。僕らはすぐに戦闘を中断して撤退した。
「屋敷までもどるぞ。今日はここまでにしよう」
「それがいいわね、疲れてるし、今日はゆっくり休みましょう」
それから一時間ほどかけて、屋敷まで撤退した。ゴンの案内で抜け道などを使い、モンスターと戦うこともなく、安全に屋敷まで帰ってこれた。
屋敷はこれ以上ないくらいの安全地帯なので、みんな気を緩めて各々リラックスして、ソファーに座ったり床にそのまま座り込んだ。
「飯、風呂、寝る、とゆっくり休んだら明日で一気にレベル100まで上げるぞ」
「一日で上がるかな?」
「さっき恵麻にレベルを見てもらったんだけど、すでにレベル80後半になっていた。この調子ならいけそうだ」
「いや、経験値の問題より、今日より厳しい戦いになった時に耐えれるかどうか微妙だぞ」
「碧の言う通りよ、あの五体の黒い巨人、見たでしょ? あんなのに一斉に襲われたら一巻の終わりよ」
「まあ、危なかったら逃げればいい。戦略ははっきりしているわけだから、なんとかなんだろ」
軽く考えてるみたいだけど、ゴンの情報では、あの黒い巨人より強いモンスターも出るって話だ。逃げることもできないくらいの状況になったらどうするつもりなんだろう。
「とにかくまずは飯だな、食材もたっぷりあるし、今日はぱ~っとやるか」
「そうね、お酒もあるし、ちょっと飲んじゃおうかな」
「おいおい、ほどほどにしておけよ、明日に影響がでないほどにな」
「わかってるわよ、嗜む程度にしておくって」
僕自身、未成年なこともあってお酒の量の適性などわからないのだけど、理央の嗜む程度はあきらかに程度を超えていた。
「仕事の後のこの一杯がたまらないわね」
「一杯じゃねえだろ、いっぱいの間違いじゃねえのか」
「一桁杯までは一杯目でしょ?」
「意味わかんねえこと言ってんじゃねえ」
理央の酒豪ぶりは別として、碧や朝陽の大人組はお酒を嗜み、僕と恵麻とヒマリのおこちゃま組はジュースやお茶を飲んで、食事を楽しんだ。実際の食事のメニューは、最近の質素なご飯の反動からか、肉、魚などをふんだんに使った贅沢なメニューが並び、つまみにもおかずにも贅沢な食事となる。
「やっぱ肉だな」
朝陽が焼いた骨付き鶏を豪快にかじった後に、しみじみとそう言う。
「肉もいいが、この焼き魚も美味しいぞ」
「ヒマリ、魚食べる!」
「みんな野菜もちゃんと食べた方がいいよ」
「まあ、今日はいいじゃねえか、好きなもん食って飲んで休もうぜ」
「なんかお祝いみたいになってるけど、なにも達成してないんだよね僕たち」
「前祝いってのがあるだろうが、ちょっと英気を養って明日に備える為の準備の一環だ」
まあ、それに反論するつもりはないけど、どうも、安全地帯に大量の食糧とお風呂やお酒で、必要以上にテンションがあがって浮かれてるだけのようにも見えるのでちょっと不安だった。
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