第73話 カオス

暴れまわる黒い巨人に対して、防戦一方となってしまった。なんとか対応を考えるけど、状況はもっと悪くなる。なんと、黒い巨人の登場で委縮して襲撃が止まっていた他のモンスターたちが、再度こちらに襲い掛かってきたのだ。


「黒い巨人は俺と、健太と理央でなんとかする! 碧、恵麻、ヒマリは後から来たモンスターの処理を頼む!」


朝陽の意図はすぐに全員が理解した。碧の盾でも防げないほどのパワー、恵麻のスリープタクトは効果なく、ヒマリのライトニングボウガンは多数への殲滅向きと、三人は黒の巨人と相性が悪い。それならば他のモンスターへの対処をお願いした方が効率も良いし安全である。


「ポンコツ、お前も働け!」

「フンッ、マスターノシジガナケレバ、オレハウゴカナイゾ」

「健太! 悪いが、このポンコツを働かしてくれ!」

「ゴン、すまないけど、僕たちを助けてくれ」

「シカタナイ、タタカッテヤル」


忙しい中ボーとしていたゴンがここで参戦してくれた。ああ見えてもゴンは高性能のゴーレムで戦闘力もかなり高い。今の状況を打開できる要因にはなりそうだった。


いきなり走り出したゴンは、黒い巨人に頭から突っ込んだ。かなりのスピードだったこともあり、衝突した瞬間、黒い巨人は衝撃で仰け反る。この攻撃により、物理ダメージで20万が表示される。かなりの高威力だけど、まだまだ黒い巨人は平気そうだった。


黒い巨人はターゲットを朝陽からゴンに移し、攻撃を繰り出す。ゴンはその攻撃をヒョイと避けると、間髪入れずに跳躍して、黒い巨人の顔面に蹴りを入れた。それは黒い巨人の頭部が外れるように見えるほどの威力で、あまりの衝撃に、黒い巨人は横にぶっ飛んだ。


「ポンコツのくせに強ええな」


朝陽がそう呟いてしまうほど、本当にゴンは強かった。高性能ってのも、あながち大袈裟な表現じゃないかもしれない。


ゴンの圧倒的な物理攻撃によって、朝陽は回避タンクだけではなく、アタッカーとしても動けるようになっていた。朝陽の新武器のショートソードのスキル【八手連撃】は強力だし、攻撃に専念した時にはその本領が発揮される。


敏捷力の補正がある八回多段ヒット、さらにヒット毎に風属性追加ダメージがあるのも強かった。スキル発動時のダメージ表示は、53200、26431、68990、23920……と数万ダメージが16連続で表示された。


さらに朝陽は攻撃速度も速く、手数が恐ろしく多かった。もう、メッセージ表示は朝陽の攻撃ダメージで埋め尽くされる勢いになっていた。


それから理央の魔法や僕の神撃の数珠、そしてゴンの物理ダメージにより、恐ろしいほどのダメージが蓄積され、やがて無限とも思われた黒い巨人の耐久力も限界が訪れる。


「倒れるぞ!」


その言葉通り、黒い巨人はゆっくりと前のめりに倒れる。そして黒い粒子のように分解して消滅した。


「やった……倒した」


それ以外の敵を掃討していたメンバーたちも、それを見て喜んでいる。


「よし、ダンジョンボス級の黒い巨人も、なんとか倒せたな」

「うん、今のレベルでも戦えそうだね」


心底、そう思ったけど、それは甘い考えであった。すぐにそんな甘い僕たちに、ゴンが現実を告げる。


「ナニイッテル、ダンジョンボスガ、アンナヨワイワケネエダロ、アイツノニヒャクバイハツヨイゾ」


「二百倍!!」


黒い巨人の二百倍強いダンジョンボス……僕たちは少しだけ絶望を感じていた。

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