第56話 ゴンと

「オレドウシタ、ナンカヘンダ、イヤデイヤデコワレソウダ」

「それは悲しいということだよ」

「カナシイ……」


しばらくゴンはマスターの亡骸を見つめて動かなかった。そして何かに踏ん切りをつけたのかこう僕に話を切り出した。


「オイ、オマエ、ジユウニイキルヲ、オシエロ」

「えっ! いや、そんなこと言われても……」


「オマエハ、マスター二、ソウ、メイレイサレタンダ、シタガエ」

「いや、あれは命令じゃなくてお願いだから」

「ナニガチガウ」

「命令は上から強い権限で実行させること、お願いは対等の立場で行動するかの選択をしてもらうことだよ」

「ナンダト、オマエハ、マスタート、タイトウトイウコトカ」

「まあ、そういう立場でお願いされたってだけだよ」

「ワカッタ、ソレデハ、オマエヲアタラシイマスタート、ニンシキシヨウ」

「えっ!? どういうこと?」


「オイ、マスター、ジユウニイキルヲオシエロ」


理由はわからないけど、どうやらゴンは僕をマスターとしてみたいようだ。僕も自由に生きるを教えてあげたいけど、どう説明すればいいかわからなかった。とりあえず当たり障りのない簡単な説明をする。


「自由に生きるとは君の好きなようにするってことだよ。ゴンのやりたいようにして、誰からの命令も受けないってことだよ」


「……ソウカ、ソレ、ナカナカムズカシイ」

「どこが難しいんだ」

「ダレノメイレイモ、ウケナイハムリダ、マスターノメイレイハゼッタイダ」

「いや、そのマスターがもう亡くなったから命令も聞く必要ないだろ?」

「アタラシイマスター、デキタカラ、ムリダ、オマエノメイレイニシタガウ」

「……えええっ!! いや僕はゴンのマスターじゃないから」

「イヤ、ダメダ、オマエハオレノマスターダ」


それから何度も説得しようとしたけど、ゴンは全く聞き入れようとしなかった。


冷静に考えると、現状、僕は一人遭難中である。とりあえず、ゴンのことをどうするかは後にして、みんなとの合流を考えることにした。


そこで僕はマジックコンパスを持っていることを思い出す。これで大雑把な自分の位置がわかる、迷わず使用した。


「あきる野ダンジョン24階層、やっぱり階層の移動はしていないみたいだ。ということはみんなともそんなに離れていないはず」

「オイ、マスター」

「あっ、僕は健太だから、そう呼んでくれるかい」

「……ソレハコトワル」

「えっ! どうして!?」

「マスターハ、マスターダ」


ちょっと面倒くさいな……。


「あっ、そうだ、ゴン、この階層の事詳しいかい?」

「カイソウトハナンダ」

「えっと、この屋敷の外とか行ったことある?」

「アル、マスタートイッショニウロウロシテイタ」

「だったら僕を案内してよ、仲間と合流したいんだ」

「イイダロウ、ツイテコイ」


そう言って、ゴンは歩き出した。僕はそれについていく。


「ホラ、ココカラデレル」


屋敷からの出口はツボの中にあるスイッチで開かれた。これは一人だったらしばらくわからなかったかもしれない。


ダンジョン管理人の屋敷から出ると、そこは殺風景な何もない部屋だった。


「モドルトキハココヲオス」


ゴンは一応、戻る方法も教えてくれた。


「さて、どうやってみんなを探すかな……」

「アッチニダレカイルゾ」

「えっ、そんなのわかるの?」」

「タンチキヲナイゾウシテイル、オレハコウセイノウナンダゾ」


期待していなかったけど、そんな能力があるとは驚きだ。とりあえず、ゴンの言う方向へと向かうことにした。

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