第44話 朝食と事件
気が付くと、僕らの泊まった家以外にもいつの間にか人が現れたようで、あっちこっちで生活音が聞こえてくる。
「まあ、何もない家じゃが、いたいんならいればいい」
「すみません、ありがとうございます」
凄い寛容なおばあさんは、いきなり現れた僕らに寛大な言葉をくれた。僕らはその言葉に甘えて居座り、一室に集まって話をする。
「どうなってんだこりゃ」
「わかりません、そもそもここはダンジョンですよ、人がいるのが理解を超えています」
「それより、どうする、おばあさんはここにいていいと言ってくれてるけど、結構いずらいぞ」
確かに居心地の良い環境ではなかった。いていいとは言ってくれてるけど、おばあさんはチラチラとこっちを気にしているように見てくるので、落ち着かない。あまりに見てくるので、ここはいったん家を出ようという話になり、碧がおばあさんに話を切り出す。
「あの……やはり迷惑のようですので、この辺でお暇します」
「ふんっ、迷惑なもんか、いたいだけおればいい」
「しかし……」
「しかしもかかしもない! わしがいいと言っとるんじゃ、ちゃんと休んでいけ!」
とりあえず、おばあさんの勢いに押されて僕らはここに滞在することになった。なんともどうすることもできないので、ここは思い切って寝てしまおうという結論になる。
疲れていたこともあり、こんな状況にあってもみんな簡単に眠りについた。いつでもどこでも寝れるは冒険者にとって、重要な要素だと誰かがいっていたが、その話が本当なら僕らのPTの冒険者適正は最良と言っていいかもしれない。
交代で見張りはしていたけど、起きる時間の頃合いには全員が寝てしまっていた。最後の見張りだった理央とヒマリが朝陽にむちゃくちゃ怒られている。そんな中、おばあさんは声をかけてきた。
「飯ができるとる、食ってけ」
確かに家中にいい香りがしていた。美味しそうな匂いに引き寄せられるように僕らは用意されていた食事の前に集まった。頂きますと手を合わせると、なんの躊躇もなく、朝陽が食事に手を付ける。
「うまっ! ばあさん、うまいぞこれ!」
そんな朝陽にヒマリも続く。
「美味しい、ヒマリ、これ好き!」
「そりゃよかったの、おかわりもあるから食いたきゃ食え」
食事は、質素なものではあったけど、ご飯に味噌汁に漬物、そして焼き魚と、定番の日本の朝食といった感じで、今の僕らにとってはたまらないものだった。全員ががむしゃらに食べてあっという間に全部平らげてしまった。
その時、食事が終わるのを待っていたようなタイミングで、この家に、集落の男が飛び込んできた。その男は慌てた口調でこう言った。
「セツばあさん! 大変だ! おめえんとこの孫が洞窟の魔物につれてかれちまったぞ!」
大事件のようだった。しかし、おばあさんは慌てる様子がない。そして冷静な言葉で僕らにこう声をかける。
「そう言っとるがどうするんじゃ、お前たち」
「へぇ?」
「助けに行くのかと聞いとるんじゃ! ただ飯食って何もせんきか?」
「あっ、いや、僕らでよければ力になります」
思わずそう答えてしまった。
「じゃあ、ほら、飯も食ったんならさっさといかんか、洞窟は村の裏にあるわ」
「あっ、はい」
追い立てられるように僕らは家を出された。そして強制的に洞窟へおばあさんの孫の救出作戦が始まる。
「いきなりクエストかよ」
「とりあえず、洞窟にいくしかないけど、大丈夫かしら」
「まあ、やばそうだったら逃げりゃいいだろ」
なんとも急な話で準備も何もない。洞窟がどんなとこかもわからないし、どんなモンスターがでるかもわからなかった。
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