第43話 気配
集落にはモンスターの気配もなく、比較的安全だとは思われたけど、やはり就寝時には見張りはいるだろうと、また交代で見張りをすることになった。
今回もクジで決め、僕は最初の見張りに選ばれる。僕と一緒に見張りをするのは朝陽だった。
「健太、そういやお前、どこに住んでるんだ」
「高円寺だよ。トイレ共同、風呂無しの築52年のボロアパート」
「実家じゃねえのか?」
「実家は埼玉で、東京の外なんだ」
「そっか、高校がこっちだったのか」
「全寮制の学校に行ってる時に、あのハクスラ爆発があったから帰れなくなったんだよ」
「なるほどな、そういうパターンもあるか」
「朝陽はどうなの、実家は東京なの?」
「いや、俺の実家は山口、16で東京に一人で出てきてたんだ」
「高校にはいかなかったの?」
「その頃は高校なんて意味ねえと思ってたんだよ。なんせ芸人を目指してたからな」
「わっ、そうなんだ。なんかそういう夢いいよね」
「よかねえよ、そういう世界はな、才能の無い人間にはやたらと冷たいし、結果も一番しか評価されねえ、努力なんてもんが何の意味も無いってのも辛いもんだぞ」
朝陽の言葉には気持ちがこもっていた。たぶん色々辛いことがあったんだと思う。
そんな話をしている時、朝陽が何かの気配に気が付いた。会話を口に指を添えて止めてきた。
「なんか匂うな、妙な気配もする」
確かに何か香ばしい香りがしてきた。さらにガサゴソと何かが動く音まで聞こえてくる。
「これはただごとじゃない、みんなを起こすぞ」
「わかった」
見張りの役目として何か異変があった時はとりあえず全員を起こすという取り決めがあった。なので寝ているみんなを起こしにいったのだけど、理央の露出度の高い寝相に思わず心臓が止まるかと思った。
「り、理央、なんて格好で寝てるんだよ」
「えっ、何、夜這い?」
「違うって、異変があったから起こしにきたんだよ」
「あっそう。それはご苦労さん」
そう言うと、僕のことなど気にする様子もなく、理央は服を着替え始めた。わっわっと恥ずかしくなり、すぐに顔を背けて見ないようにした。
続けて、寝相の悪いヒマリを起こす。
「ヒマリ、まだ眠いよ~」
「いや、異変が起こったから起きてよヒマリ」
「やだ」
「やだ、じゃないだろ。起きないとみんなに怒られるよ」
「怒られるのもやだ」
「じゃあ、ちゃんと起きて、ほら、何もなかったらまた寝ればいいし」
「もう、わかったよ」
嫌々ヒマリは起き始めた。
理央やヒマリと違って、恵麻はかなり寝相がよかった。絵にかいたように布団を綺麗にかぶり、天井に顔をまっすぐ向けて寝ている。
「恵麻、異変が起きた、ちょっと起きてくれるか」
「えっ、あ……うん、わかった」
聞き分けも良く、置きあがると、すぐに用意を始めてくれた。
全員を起こすと、碧を起こしに行った朝陽と合流する。
「みんな起きたか」
「うん、なんとかね」
少しして、起こしたみんながゾロゾロと集まってくる。
「もう、ヒマリ眠いよ~」
「何があったの?」
「集落全体に気配がする。明らかに何かおかしい」
「確かに匂いや音がするな、誰か帰ってきたのか?」
「帰ってきたというより現れたって感じだな、いきなりぽっと気配が沸いた感じだ」
そんな会話をしている時、不意に声をかけられた。予想もしない声掛けに全員が驚く。
「なんじゃ、あんたたち、いつの間にわしの家におるんじゃ?」
そこにいたのは高齢のおばあさんだった。さっきまで誰もいなかったはずなのに、急に現れたように感じる。そんないきなりのおばあさんに朝陽がすぐに対応する。
「すまねえ、ばあさん、誰もいないからちょっと休憩させてもらってた」
「何を言っておる、わしはずっとここにおったぞ。お前たちは今しがたポッと現れたんじゃ」
「へっ?」
どうも話がかみ合わない。あちらからは僕たちがいきなり現れたとように見えたようだ。どういう事か、意味がわからないけど僕たちの理解を超えた何かが起こっているのは間違いなかった。
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