第35話 ボスは強し

いくら回避タンクの朝陽でも、ボスの驚異的な能力を相手に、圧倒することは難しいみたいで、何度も危ない場面が出てくる。時には攻撃がかすり、地面を転がる。


そんな時は碧がカバーした。盾でボスガニの足の攻撃を防ぎ、前衛の仕事をまっとうする。


「ライトニングボルト!」


理央は碧と朝陽の動きを見て、隙があれば魔法を放ってボスガニの体力を削っていく。しかし、魔法耐性も高いようで思うようなダメージを与えられない。


ヒマリもライトニングボウガンで攻撃しようとするけど、碧と朝陽がボスガニに密着している状況では攻撃するのが難しいようで、構えては下ろしを繰り返して攻撃を出せないでいた。


「ちょっと待って、様子がおかしいわ」


理央が指摘するように、ボスガニの様子が少しおかくしくなった。プルプルと小刻みに震え、背中部分が光り始めていた。


「気をつけて! 何か技をだすかもしれない!」


そう言った瞬間、ボスガニの背中からポコポコと丸い塊が噴出した。丸い塊は地面に落ちると、カシャカシャと変形して、小型のボスガニに変わった。


「うそっ、子供産んだわよ!」

「ダメだ! 数が多い! 防ぎきれねえ!」


ボスガニを抑えている朝陽と碧に、コガニを相手にする余裕はない。コガニは容赦なく、後衛の僕らに殺到してきた。


「カシャカシャ気持ち悪い!」


そう叫びながらヒマリがライトニングボウガンで攻撃する。コガニには雷撃は有効のようで、連鎖するチェインライトニングで一掃していく。さらに撃ち漏らした敵に、僕は落雷石を投げつけた。


だけど、予想外に落雷石は威力が強かった。コガニを複数体、一撃の落雷攻撃で消滅させるほどの攻撃力は、完全にオーバーキルのように見える。恵麻や理央もそれを感じたようで、もったいないと視線を送ってきた。


ケンタワンドにも低いけど物理攻撃力はある。こうなったら殴ってみようとケンタワンドを振った。ほとんどダメージを与えられないと思ったけど、意外や意外、ダメージは千近くを表示する。見た目に反して、コガニの防御力が低いのか、思ったよりケンタワンドの攻撃力が高いのか、それともレベルアップでのステータスアップの効果なのかわからないけど、これならなんとか戦えそうだ。


僕で千近いダメージを与えるほどだ、恵麻の一撃は千を超える。二発ほどタクトで殴るだけで、コガニを倒している。


コガニはそれほど強くないとわかったけど、いくら倒しても定期的にどんどん放出してくるのが厄介だった。やはり本体のボスガニどうにかしないと、この戦いには勝てない。


「健太、あと一分で私のスリープタクトのクールタイムが終わる。そのタイミングでボスガニにアタックかけるからフォローして」

「了解!」


恵麻のスリープタクトなら、もしかしたらボス相手でも決定打になるかもしれない。


「ヒマリ、理央、僕と恵麻でボスガニまで走るから援護よろしく」

「わかった、小さいのは私とヒマリに任せて」


理央とヒマリの殲滅力は圧倒的だ。僕たちは、二人の作ったボスガニまでの道筋を走った。途中で襲ってくるコガニは二人で殴って退ける。


ボスガニの近くにくると、碧と朝陽に行動を伝えて連携を促す。

「朝陽! 碧! 恵麻がスリープを使うよ!」

「よし、隙を作るから後は任せた!」


朝陽と碧は恵麻がやりやすいように、ボスガニの気をさらに引き付けて、挑発するような動きで誘導する。僕は何かあった時に恵麻を守れるように、落雷石を持って構える。

「恵麻、今だ!」


「眠れ!!」


無効耐性があったらどうしょうかと思ったけど、それはいらぬ心配だった。ボスガニは恵麻のスリープタクトの効果で眠りにつく。


「よし、やったか!」

「このまま猛毒で……」


だけど、ここで予想外の事が起こる。眠り、猛毒状態になったボスガニだったけど、数秒のスリップダメージを受けた後、青い光に包まれると、なんと眠りから覚めた。さらにもう一度黄色く光ると、毒状態も解除される。


「なっなに!」

「状態異常が回復した!」


これで倒せたと思っただけに、全員がショックを受けていた。そしてすぐに次の攻撃パターンを思いつく者はいなかった。

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