第22話 夕食
夕食のメニューは、厳正なる話し合いによりカレーに決まった。理央が炊飯の準備をはじめ、ヒマリと恵麻が野菜を切る。そして碧は火の準備をしていた。僕はケガをした朝陽の治療をみることになった。
「うわっ、痛くないの朝陽」
「今、服を脱いで傷口を見たら痛くなってきた」
肩がざっくりと裂け、結構な深さまで見えていた。
「ポーションをかけるよ、もしかしたら沁みるかも」
「そっとやってくれよ、そっと!」
しかし、ポーションをかけても痛みはないようで、朝陽は平気な顔をしている。
「痛くねえ、それどころかほんわか気持ちいいかもしれん。それにほれ、もう傷口が塞がってきた」
「そうなの? これ通販で買った安物だよ?」
「安物でこれだけ効果があるんだ。高いポーションや高レベルのヒーラーのヒールなんてどんな感じなんだろうな」
ポーションなんて使われたこともないし、使うのも、これが初めてなのでちょっと感覚が新鮮で嬉しい。
「健太、バカの怪我見たらこっち手伝って」
理央が火の準備をしながらこっちに声をかけてくる。
「誰がバカだ誰が!」
「かなりの格上相手に無謀な対応するようなバカの事を言ってるのよ」
「しかたねえだろ。誰かが攻撃を受けとめなきゃいけねえんだからよ」
「タンクの自覚がでてきたんだ」
「うるせえ、そんな自覚いつまで待っても出てこねえよ」
ポーションのおかげで、朝陽の傷はかなりよくなったようだ。これだけ大きな声がでるならもう大丈夫だろう。これなら明日の探索には影響はないんじゃないだろうか。
待望のカレーは、順調に出来上がろうとしていた。しかし、仕上げの段階でひと悶着起こる。
「だ! か! ら! カレーはしゃばしゃばの方がいいに決まってるでしょ!」
「何言ってんだ! カレーはな、ドロドロに決まってんだろ! しゃばしゃばしてんのなんて、カレーじゃなくて、カレー汁だろ!」
「はぁ? わけわかないこと言ってんのよ。そもそもカレー汁ってなによ!」
「カレー風味の汁物だ」
「あっ、ちょっといい? それってスープカレーとは違うの?」
恵麻があまりに疑問に思ったのかそう朝陽に聞く。それに対して、朝陽は堂々とこう答えた。
「スープカレーは、汁物風のカレーだ」
その見解は正解なんだろうか……。
どっちにしろ、どちら派も説得材料がないようで、多数決での解決と相成った。僕は正直どっちでもよかったのだけど、どっちらかど言えばドロドロ派かなと思いそちらに一票を入れる。
「しゃばしゃば四票で勝ちよ!」
「くっ……碧! お前、野郎のくせに、なに女々しい好みしてんだよ!」
「あっ、朝陽、それは問題発言だぞ。それに遺恨は残さないだ」
「たくっ、わかったよ、しゃばしゃばでも、さらさらでも好きにしろよ」
こうして、僕らPTのカレーはしゃばしゃばと決まった。元々どっちでもよかった僕はなんとも思ってなかったけど、朝陽は相当悔しいようで、苦い顔をしていた。
「らっきょう、食べる?」
「大量にくれ、こんなしゃばしゃばじゃ食べた気がしねえぜ」
「根本的な質問になるけど、らっきょうってカレーに合うか?」
「合うに決まってんだろ。みんな大好きじゃねえか」
「いや、俺は福神漬け派なんだよ」
「はぁ!? あれこそカレーに合わねえだろ」
その意見に、理央が異議を申し立ててきた。
「ちょっと聞き捨てならないわね。あの独特の甘味にカレースパイスが合わないわけないでしょ。それよりあの嘘くさい、らっきょうと、至高の福神漬けを比べる方が間違ってるわ」
「はぁあああ!? らっきょうのどこが嘘くせえんだよ!」
「酸っぱいのか甘いのか、よくわからないとこよ!」
「ちゃんとわかんだろ! 味覚音痴かよ!」
「それじゃ、多数決で決めましょうか、どっちが味覚音痴か!」
「いいだろう。望むところだ!」
「ヒマリはどっちも好きだよ!」
「僕もどっちも好きだから」
「そんなの決めなくてよくない?」
「俺は福神漬け派だけど、それは好みでいいんじゃないか? 決める必要はないだろ」
らっきょうと福神漬けの論争に熱くなってるのは理央と朝陽だけで、他のメンバーにとってはどうでもいいことだった。確かにカレーのしゃばしゃばとドロドロと違って、付け合わせは好みで好きにすればいい問題なので、多数決をとるまでもないと僕も思う。
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