第10話 対立ルール

そのあと、話し合いがおこなわれ、レベルを50まであげるということで話は決まってしまった。どっちみちここから抜け出すにはレベルをあげて悪いことはないとの判断だけど、用意もなく長くダンジョンにいられるか、みんなの一番の懸念点だった。それを一気に僕の一言が解決してしまったのだ。


「少しだけど、食料とか僕がインベントリに用意しているよ」


インベントリ内の食品とかは腐らない。それをいいことに冷蔵庫代わりに普段使いしていたのが幸いした。さらに他の仲間たちも似たように、インベントリに食料や日用品を持ってることがわかり、少しならダンジョン内でキャンプしながらやっていけそうだった。


「それにしても冷蔵庫代わりとはみんな考えることは一緒だな」

「シーカーあるあるらしいですよ、何気に都民にとって、東京変異の一番の収穫はインベントリだとも言われているくらいですから」


確かに腐らない、大容量でかさばらない、それを軽々持ち運べるなど、最高の機能であるとは僕も思う。


「さて、食料が多少あるとわかったことだしよ、レベル上げする前にちょっと飯休憩しねえか」

「そうだな、空腹では集中力もおちるだろうし、一度リラックスする為にも食べた方がいいかもしれない」

「賛成! ヒマリ、おなかすいたよ」


「でも、こんなところで悠長に食事なんかして大丈夫かしら」

「セキュアスポットを探しましょう。食事中に鍋の下からモンスターが沸いたりしたら、たまったもんじゃないしね」


セキュアスポットとは、モンスターの沸くポイントが周囲に無い比較的安全な場所のことだ。シーカー講習で教えられる冒険者としての基本知識になる。時には長期になるダンジョン探索にとっては必須の知識といってよかった。


僕たちはとりあえずセキュアスポット探して辺りを見回った。とうぜんのことだけど、その間もモンスターと遭遇する可能性はある。警戒しながら行動した。


「この辺なんか大丈夫そうじゃない」

「いや、見てみろ、壁に何かこすった跡が多数ある。モンスターが頻繁に行動している証拠だ。もしかしたら徘徊ルートになってるかもしれないからやめておこう」


碧の鋭い指摘に、朝陽が面倒くさそうにこう言う。

「いきなり沸かなきゃいいんじゃねえか? 徘徊してくるモンスターなら対応できるだろう」

「危険は最小限にするのが基本だ。少しでも懸念点があるなら無視できない」

「たくっ、これじゃいつまでたっても飯食えねえじゃねえか」

「少し手間でも安全第一に考えた方がいい」

「そりゃわかるけどよ、妥協するってのも大事なんじゃねえか?」

「大事な妥協なんてものはない」

「なんだと! てめー喧嘩売ってるのかよ!」


お腹がすいているのが原因か、ちょっとみんな気が立ってるようだ。ここはまだ冷静な僕がなんとかしないとと思う。


「ちょっと待って、こんなとこで揉めてもしかたないよ。しかも、どっちの言い分も間違っていないから不毛な争いにしかならないよ」


「どっちの言い分もあってるって、ずるいぞお前! どっちにつくかはっきり決めろよ」


本当にどっちが正しいのか僕にはわからなかった。碧の言うように安全を考えるのも間違っちゃいないし、朝陽の言い分である時には妥協することも必要に思う。


「いい機会だし、こういう場合の意見が割れた時の対処を決めない? これから先、必ず同じように揉めることがあるはずだし、その度にこんなに状況になるんじゃやってられないわよ」


「よし、多数決だ! それで決めよう!」

「同数だったらどうするんだ?」

確かに僕たちは六人と同数になる可能性はある。


「そんなのじゃんけんに決まってるだろ」

「まあ、それしかないないわね。だけど、これだけは約束して、どんな結果になっても、どちらもそれを受け入れて遺恨は残さないって」

「わかってる」

「おうよ」


多数決では、このままもっと安全な場所を探して探索するに、碧と恵麻と僕が票を入れ、妥協してここでランチを済ますに朝陽と理央とヒマリが票を入れた。


「それじゃ、じゃんけんだ!」

「よし、受けてたとう!」


結果は朝陽が勝ち、ようやくPTは遅い昼食と相成った。

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