第8話 シークレットエリア
「ごめん、シークレットアイテムを鑑定しようとしたんだけど、間違って起動しちゃったみたい」
どうやら恵麻が間違ってシークレットアイテムを使ったようだ。罠じゃなかっただけよかったかもしれないけど、こんな知らない場所に飛ばされるってどんなアイテムなのかわからない。
「それにしてもここはどこ? 雰囲気が全然違うよね」
「ヒマリ、妙な気配もするし、怖いんだけど……」
みんな不安な声が自然とでてくる。ここがどこだがわからない……それに対して、僕は良いアイテムを持っていることを思い出した。通販で購入した物で、便利アイテムとして冒険者サイトの広告に乗っていたのが気になって購入していたものだ。
「ちょっと待って、マジックコンパス使ってみるから」
「おっ、健太、準備がいいな」
「僕は方向音痴だから心配で買っといたんだ」
マジックコンパスは現在位置情報を表示してくれて、さらにダンジョン内で使えば出口も表示してくれる便利なアイテムだ。僕はすぐに使って、みんなに現在の位置を伝えた。
「えっ、どういうこと? あきる野ダンジョンの22階層だって」
「22階層!? ちょっと待て、あきる野ダンジョンは12階層までのはずだぞ!」
「嘘でしょう……もしそれが本当だったら22階層なんて場所からどうやって帰るのよ」
初ダンジョン、しかも日帰り予定なので、僕たちは十分な探索の準備をしてきたわけではない。回復アイテムどころか食料すら準備不足で、長期にダンジョン内に滞在するなんて不可能だった。
「とにかく、どういうわけかわからないが、ここがあきる野ダンジョンはの22階層って言うなら、すぐにでも脱出することを考えないと危険だ。まずは上の階層へ行くルートを探そう」
「そうだな、うじうじ考えてもしかたねえからな。とにかく探索しようぜ」
碧と朝陽はこの状況でも冷静だった。それにくらべて僕は……先に進むという選択すら思いつかなかった自分を心の中で攻めた。
「そういえば
「あっ、そうだ。ロングソードなんだけど、凄いよこれ、普通に攻撃力が340でものすごく高いうえに、七つの付与が付いている」
「なんだと!! どんな付与効果だ!」
「えっと、30%攻撃アップに、全ステータス10アップ、火属性攻撃120%アップに、体力20アップ、火属性耐性大アップ、氷結耐性大アップ、それに120追加延焼ダメージと、死に付与無しの神補正よ」
「すげー! それ売ったらいくらになるんだ!」
「ちょっと待て、確かに売ったら結構な値段になるだろうけど、仲間内で装備できるんならPTで使った方が後々良い」
「確かにそうね。探索が楽になるだろうし、これだけ強いと格上の敵とも渡り合えるようになるから、レベリングにも使えるわね」
「うんじゃ、ロングソードだし、碧が使えばいいんじゃねえ」
「そうね、適正はPT内では一番高いと思う」
「いいのか?」
「賛成!」
「僕も賛成だよ」
反対する者は誰もいなかった。売れば安くても数百万円はするだろう一品だけど、使った方がPTの利益になるとみんな共通の認識だった。
22階層だと言われると、よけいに不気味に思えてくるから不思議だ。褐色の壁の色が、さらに恐怖を演出する。そんな恐怖と戦いながら、僕たちは上へいくルートを探した。
「ちょっと不謹慎かもしれないけど、早くモンスターでないかなって思ってしまっている」
「わかるわかる。そいつ早く使ってみたいんだろ?」
URのロングソードの性能を試したいという気持ちは僕にもすごくわかる。しかし、通常のエリアとは違うこの場所で、どんなモンスターが湧き出すか不明な状況では怖さの方が勝った。
だけど、そんな僕の恐怖は完全に無視される。民主主義の大原則に乗っ取ったのか、多数派の意見にそった現実が現れた。目の前にモンスター出現を現すエフェクトが発生すると、その中から巨大な影が躍り出てきた。
「き、きたぞ!! 敵だ!」
「うわっ、エウロザウロ! レベル70オーバーの強敵よ!」
「虫だ、虫! 気持ち悪りいい!」
エウロザウロは体長10メートルほどの巨大なカマキリのようなモンスターで、威圧感だけで、初心者PTの僕らを倒しそうな勢いだ。まともに戦っては間違いなく全滅すると思われた。
「碧! 俺が気を引いている隙に攻撃しろ! お前のそのロングソードだけが頼りだ! 他のメンバーは俺たちをサポートしてくれ!」
朝陽は高レベルのモンスターにも怯むことなく前に躍り出た。碧もすぐにその言葉に反応する。剣を構えて攻撃態勢にはいる。
エウロザウロは虫らしい素早い動きで朝陽に襲い掛かる。大きな鎌のような腕を振るって朝陽の胴体を斜め上から切り裂こうと振り下ろす。それを寸前のところで転がるように避けた。
他のメンバーはサポートしてくれと言われても、わーわー周りで騒ぐことくらいしかできないのが現実である。しかし、これはこれでエウロザウロの気を散らしているようで、攻撃の頻度をさげさせる効果くらいはあるようだった。
三度ほどの奇跡の回避により、エウロザウロの攻撃を避けきった朝陽が決定的な隙を作った。それは僕でもわかるほどの隙で、それを状況を読める碧が見逃すはずはなかった。
碧は一気に間合いを詰めると、UR武器のロングソードの一撃をエウロザウロの胴体にくらわせた。強力なロングソードの切れ味に、固い骨格もスパッと綺麗に斬られる。痛みを感じたのか、エウロザウロは甲高い声を出して叫び声をあげる。
しかし、URロングソードの本領はここからだった。斬りつけられた傷口から炎が噴き出す。それが渦巻くようにエウロザウロの体を包み込み燃え上がる。
エウロザウロは炎を纏いながら大きな声を出して暴れまわる。それと同時にステータス画面に、エウロザウロへのダメージ表示として赤文字で、631、655、621……と立て続けに六百台のダメージが表示される。
「これって追加延焼ダメージてやつじゃねえか、すげーな」
「ちょっと、このまま倒せるんじゃない?」
「わかんねえ、追加延焼ダメージっていつまで続くんだ?」
「そんなのわからないわよ。でも、もうエウロザウロのHP表示が赤になってるからそろそろ倒せそう」
理央の言うように、エウロザウロはそのまま延焼ダメージにより、包み込まれた炎に燃やし尽くされ、やがて消し炭になり消えた。それと同時に、レベルアップを知らせる軽快な音が鳴り響き、表示には、
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