第7話 UR
しばらく敵との遭遇もなく奥へと進んだ。しかし、あまりに順調に進めた為に、今日の予定想定より奥へと来てしまったことに気が付いた。
「初ダンジョンなのに調子に乗りすぎたな。ちょっとこれ以上進むのはやめよう」
「だな、帰るの面倒くせえし、この辺で適当に探索、狩りして帰ろうぜ」
初心者ダンジョンのあきる野ダンジョンでも最下層は12階層まである。そこまで探索するとなると、日帰りは難しいのでキャンプしながら奥に進むことになるのだけど、最下層攻略を目的にする場合じゃない時は、ほとんどのPTは日帰りで探索を終える。僕たちみたいな弱小PTなんてそれこそ無理は禁物なので、入り口からそれほど離れてはいけなかった。
「よし、どうやら二戦目のようだぜ」
朝陽が言うように、モンスター出現のエフェクトが発生していた。個数は一つなので、また最初の戦いみたいに、みんなでタコ殴りにできると誰もが思っていた。
「えっ! なんだ、あのモンスター、図鑑でもみたことないぞ。恵麻、何か知ってるか?」
出現したモンスターは小さな龍のようなモンスターだった。碧の言うように事前知識として目を通したモンスター図鑑にも載っていなかったと思う。
「う~ん……ユニークモンスターかな……ちょっとわかんない」
「なんでもいいだろ、あきる野ダンジョンの一階層に出現するようなモンスターだ、たいしたことねえだろ」
僕はそれは危険な考えだと思った。すぐに朝陽にそれを伝えようとするが、モンスターの方がそれをさせてくれなかった。
なんと小さな竜は炎を吐いた。広範囲に炎を撒き散らす。僕らはあわあわと慌ててそれから逃げる。
「どうするのこれ! ポッチナンと比べて比較にならないくらい怖いんだけど!」
「いや~~ ヒマリこんなの嫌!」
「落ち着け! 朝陽、健太! 男子であの龍の気を引くぞ」
僕と朝陽は碧の提案に頷き、前に出る。
「俺たちが気を引いてる間に、女子は遠距離から魔法なんかで攻撃してくれ!」
「わかったわ、任せて!」
気を引くといっても、あんな炎をまともにうけたらかなり熱い。うまくターゲットを散らすように、僕たちは周りを取り囲むようにバラバラに動いて敵の気を引く。
小さな龍は、ちょろちょろと動く僕たちに翻弄されてターゲットを絞れない。誰に炎を放とうか迷っているところに、碧から指示がでた。
「おそらく炎を吐いてるくらいだから氷結系の魔法が有効だ! よく狙って撃て!」
「わかってるわよ! 今、詠唱してる!」
そんな理央より先に、恵麻から攻撃魔法が放たれた。鑑定士であり、攻撃魔法まで使えるのかと驚いたが、その魔法の威力は期待できるものではなかった。
恵麻の攻撃魔法は小さな石をぶつけるもので、”石つぶて”と呼ばれている魔法だ。威力は石の大きさとスピードに比例するのだけど、彼女の石つぶてはウズラの卵ほどの大きさで、スピードは草野球のピッチャーのストレートほどしかない。当たれば十分に痛いとは思うが、モンスターに与えるダメージとしては心もとない。
しかし恵麻の石つぶては小さな龍の気を引くには十分のものだった。最悪なことに、龍の気は完全に恵麻へと向いた。
「きゃ~~!」
凄い勢いで恵麻に向かって炎が吐かれる。僕は咄嗟にそれを邪魔する為にメイスで龍を攻撃した。ダメージは微々たるものだったけど、その攻撃は炎のブレスを邪魔するには十分で、龍は怒りの矛先を変えるか悩んでいるように見える。
追撃するように碧、ヒマリと朝陽も龍を攻撃してくれた。これでさらに龍は混乱する。ギュアギュアと甲高い声で鳴いて、何かの意思表示をしていた。
そこでようやく、理央の氷結魔法の詠唱が終わった。
放たれたのはF級氷結魔法のアイシクルアローだ。氷のオーラを纏った魔法の矢が小さな龍へと高速で放たれ命中する。ステータス画面のメッセージに弱点属性のダメージを示す、紫文字で230のダメージ表示がされた。
「よし! もう少しで倒せるぞ! 一斉攻撃で削り切ろう!」
碧の叫びと同時に全員が龍に攻撃を仕掛ける。
最後には朝陽が槍で突きダメージを与えてさらに弱らせると、ヒマリがショートアックスでとどめを刺して戦闘が終了した。
戦闘終了と同時にちょっと派手な音が鳴って、ドロップ情報にURドロップの表示が出た。それとシークレットアイテムのドロップも同時に表示される。
「なんかきた!!!」
「UR!」
「いや、そっちよりシークレットアイテムってのが気になる!」
「すぐに鑑定しようぜ! 恵麻、頼みむ!」
「任せて!」
ドロップしたアイテムは碧のインベントリに入っていた。それを恵麻に渡すと、すぐに鑑定にとりかかる。付与と同じで、本来ならダンジョン内で鑑定などおこなわないのだけど、シークレットアイテムとURはあまりに気になる。全員が警戒する中、恵麻の鑑定は続いた。
「あっ、ヤバっ」
恵麻のその声を聞いた瞬間、周りが真っ白になり視界が消えた。PT全員が同じ状況に陥ったようで、それぞれ驚きの声をあげる。何が起こったか理解できなく、どんどん怖くなってくる。だけどその状況は長くは続かなかった。すぐに視界は戻ってきて、周りの状況が見えてくる。
「ここどこだよ」
「ちょっと、何が起こったの!」
だけど、視界が戻り見えたその場所は、さっきまでいた場所とはあきらかに違っていた。雰囲気だけではなく、壁の色も違うし、床の質感にも変化があった。わけのわからない状況にどんどん不安な気持ちが大きくなっていった。
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