第6話 宝箱
ポッチナンを倒して、勢いに乗った僕たちはさらにダンジョンの奥へと向かった。
代り映えしない風景を進んでいると、唐突に、壁に扉がある場所へと出た。先頭を歩いていた朝陽が無警戒に扉のドアノブに手をかける。
「ちょっと! 朝陽、罠があるかもしれないから気を付けて!」
理央が無防備な朝陽に注意を促す。
「えっ! 扉に罠なんてあるのか!?」
「ここをどこだと思ってるのよ、ダンジョンに罠はつきものでしょ」
「面倒くせええな……──」
そう言ったはいいが、朝陽の動きがドアノブを持ったまま停止した。そして五秒ほどの沈黙の後にこう言う。
「気を付けるってどうしたらいいんだ?」
何かあったのかと緊張が広がっていた後のオチに一同、脱力する。
「罠の感知はシーフスキルか感知魔法でするのが一般的ですけど……」
「シーフ系のジョブはいねえからな、理央、感知の魔法って知ってるのか?」
「残念、私のマジックリストにはそんなの無いわ」
その答えを聞くと、朝陽はだったら仕方ないとばかりにドアノブを回した。罠は無かったようだけど、朝陽は碧と理央にしこたま怒られた。
「みろ、アタリだぜ」
扉の向こうは四畳ほどの小部屋だった。小部屋の真ん中には、小さな宝箱が置かれていた。それを無警戒に開けようとする朝陽を、碧が止める。
「待て、罠があったら大変だ。この中では体力が高い俺が開ける」
「確かに低レベルの罠の定番はいしつぶてとか、物理的なものが多いから、体力の高い人間が開けるのが定番ね」
恵麻の助言もあり、宝箱は碧が開けることになった。高レベルの罠箱には即死するような凶悪なものもあるそうだけど、あきる野ダンジョンでそれはありえない。せいぜい、石が勢いよく飛び出るくらいのものなので、みんなそれほど緊張はしていないようだった。
宝箱には罠は仕掛けてなかったようだ。何も起こることなく宝箱の上部が開閉される。
「なんか石だな、ルーンストーンか何かかな」
「どれどれちょっと見せて」
石は飛び出てこなかったけど、皮肉なことに中に石が入っていたようだ。碧は装備品が入っているのを期待していたようで、露骨に残念がっている。
「マジックアイテムだね。ちょっと鑑定してみる」
恵麻はそう言うと、宝箱に入っていた石を自分のインベントリに入れた。鑑定スキルを使うにはそうする必要があうようだ。
「わかったよ、やっぱりルーンストーンだね。しかも”探知スキルの紋印”付きで、シーフ職がいない私たちのPTには丁度いいアイテムよ」
「おっ、それって適当な装備に付ければ探知スキルが使えるようになるってことだよな、まさに今欲しいアイテムじゃねえか」
「うちには都合のいいことにエンチェンターもいるし、付与代を支払う必要もないからかなり節約できるわね」
付与代も一回数万はするらしいから確かにかなりの節約だった。うちには鑑定代も付与代もかからないのが唯一の強みなんじゃないのかと思う。僕みたいにお金目的のシーカーにとってはなんともピッタリのPTだと改めて認識した。
普通は危険なこともありダンジョン内では付与作業などは行わないのだけど、すぐに使いたいとのみんなの意見が一致し、その場で付与を実行することになった。付加するのに丁度いいと、理央の持っていたペンダントが選択され、それとルーンストーンを朝陽に渡した。
「付与中は完全に無防備になるから、わるいけど周りを警戒しててくれるか」
付与を実施するのは宝箱のある小部屋だ。こういう狭い空間ではモンスターは出現しにくいときいたことあるけど、ほんとうかどうかわからない。僕らは周りをキョロキョロみながら、不測の事態に備えた。
「よし、できたぞ、これどうする、理央に返せばいいのか?」
「いや、女性に罠の探知とか危険なことはさせたくない。男メンバーの誰かにしよう」
碧の提案に僕が手を上げた。戦闘面では役に立ちそうにないので、少しでも貢献したいと思ってのことだ。
「そうだな、健太がいいだろう」
戦闘面で貢献できないと碧も思ったのかどうかはわからないけど、僕の立候補はすぐに受理された。探知スキルが付与されたペンダントが渡されたのですぐに装備する。ステータス画面を確認すると、スキル項目にちゃんと探知スキルが表示された。
「よかった、これで罠におびえなくて済むよね」
一番罠に怯えていたヒマリが嬉しそうに言ってくるのが微笑ましい。
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