第5話 初探索
「大人げないわね」
順番待ちをしていた間、ずっと睨み合いをしていた碧と朝陽に向かって、呆れたように理央が言う。
「大人げないのはあっちじゃねえか、何が俺たちは特別だ、だよ」
「でも、あの翠って呼ばれた女の人はちゃんとした常識人だったじゃないか、あの人に免じてこっちが大人の対応しても良かったと思うよ」
「ははん~ なんだ健太、お前ああいうのがタイプなのかよ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「いやいや、わかってるって、俺も嫌いじゃねえし、気持ちはわかるぜ」
「どんな気持ちだよ……とにかく、もうここはダンジョンなんだから気を引き締めようよ」
僕の意見に同意するように碧がこう言葉を続ける。
「確かにそうだな、すでにモンスターが湧き出てもおかしくないからな、警戒して進もう」
ダンジョン内は淡い藍色の岩壁で、なぜか壁が発光しているのかある程度の視界を確保できるくらいには明るい。モンスターの姿はまだ確認できないけど、話では、光のエフェクトが発生して、そこから出現してくることもあるそうで、周りにいないからと言って安心はできなかった。
「モンスター早く出てこねえかな、戦闘してみたいんだけど」
「そうだな、研修で戦闘訓練は受けてるけど、実戦は初めてだからな、ちょっと楽しみだよ」
「ヒマリはちょっと怖いかも……」
「私も楽しみって感じまではいかないかも、自分が弱いのもあるけど、不安の方が大きい」
そんな僕も戦闘はちょっと怖い。しかし、稼がないといけないので、モンスターからのドロップには期待している。
「おい、あれみろよ、壁に魔元石が張り付いてるぜ」
「うほー量はすくないけど収入源ゲットだな」
魔元石は、クリーンで安全なエネルギーを作り出すことから世界で注目されている東京ダンジョンでしか手に入らないレアメタルである。明確な相場が決まっている堅い収入源で、シーカーの稼ぎの柱になるアイテムだ。
手に入ったのは100グラムほどの魔元石で、この量で一万くらいで都政府に売れる。噂では秋葉原ダンジョンの下層とかに行けば、数十キロ単位で手に入るそうで、高ランク高レベルシーカーが儲かるのはそれが理由であった。
「よし、幸先いいな」
「それに魔元石にはモンスターが寄ってくるからね、もしかしたら初戦闘もそろそろかもよ」
さすがはメルティライナーのプレイヤーだった恵麻だ。よく仕様を知っている。そして恵麻の知識は正しいとすぐに証明された。周りに殺気が漂い始め、赤の光のエフェクトが発生して、そこからモンスターが飛び出してきた。
「うわっ! 敵だ! 戦闘準備だ!」
「どどど、どうするの?」
「ま、魔法撃てばいいの? 誰か指示して!」
「いやー!!」
小さなモンスターが出現しただけで、最低ランクPTの僕らは完全に混乱した。唯一、まともな、碧が体勢を立て直す声を上げる。
「あ、焦るな敵はポッチナンだ。最弱のモンスターで俺たちでも倒せる!」
「そうだ、魔法も必要ねえ、武器で集中攻撃するぞ!」
それに従い、みんな持ってる武器で成人男性の胴回りくらいの大きさの饅頭型のモンスターを攻撃した。
僕も買ったばかりのメイスで思いっきり叩いた。覚醒者の共通能力であるステータス画面にポッチナンへのダメージが3だと表示される。このステータス画面、他のPTメンバーのダメージも表示されるんだけど、ショートソードを持っている碧のダメージが22、槍の朝陽が15ダメージ、小柄な体系なのにショートアックスを使っているヒマリが11、そして魔法使いが持っているような杖で殴った理央が8のダメージ、挙句の果てにただの棒で叩いただけの恵麻の攻撃が6と、僕が最低ランクPTの中でもダントツで非力なのがわかって、ちょっとショックだった。
最弱モンスターは最低ランクPTの一斉攻撃でも難なく倒すことができた。戦闘が終了するとステータス画面に勝利のメッセージが表示される。それとアイテムドロップの表示もされて、ドロップしたアイテムが自動的にインベントリに追加された。
インベントリも覚醒者の共通能力の一つで、アイテムをデジタルデータで管理できる便利な機能だ。自由に物質化して取り出すことができるし、アイテムをデータ化して保存して管理することもできる。この能力のおかげで、シーカーは重い装備や大量の素材を持ち帰ることができるのだ。
「おっ、いきなりレアドロップだぞ」
自分のインベントリを確認していた碧がそう報告する。
「うそ、ポッチナンって装備ドロップすら稀なのに、レア装備が出たの?」
メルティライナーの情報を知っている恵麻が驚いている。彼女が驚くくらいだから凄いことのようだ。
「未鑑定だから能力はわからないけどな、革製の小手みたいだから全員装備できるんじゃないか、恵麻、後で鑑定してくれ」
「うん、任せて」
PT内に鑑定士がいるとやっぱり便利だ。鑑定代も月単位で考えるとかなりの大金になるそうなので、節約できるのは大きい。
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