藍色の月 第三十二章 尋問…そして情

 夜が明けて行くスピードに

 追い越されまいとすればするほど

 哀しいほどに短く感じてしまう一秒 一瞬

 時間だけが二人を取り残して過ぎ去ってくれれば

 有り得ない望みの儚さを

 一晩かけて思い知った二人


 現実を受け入れる覚悟と引き換えに約束された、束の間の穏やかな時間の中で感じたのは……めぐみさんの『情』の深さ。

 『罪悪感』からはすっかり解き放たれたような、落ち着いた表情。これが、心配させまいとする女優が演じている顔ではない事は、僕にも判った。


「応援……してくれるんでしょ? ロス行きも」

「うん。それはもちろん。でもやっぱりぃ……」


 それは、姉弟のような……都合の良いとこだけ12月以前の二人に戻っているかのような、そんな空気だった。


「なぁに? まだ、待ってるとか言うの?」


 明るく突っ込まれ、明るく答える。


「うん!」


 じぃ~っと……瞳の奥までも覗き込む彼女。そして……『お見通し』の時の笑顔で口を開く。


「うそ言いなさい」

「え……?」

「今まで言わないでおいてあげたけど、あれから誰か、彼女がいたんでしょ?」

「え⁉」

「で、ど~せキミのことだから、その子のことを死ぬほど愛した……そんなトコかな。どう? 当たり?」


 都子の……こと? な……なんで知ってんだ⁉


「アハハ! そんなにびっくりしなくても……見ていればそれくらいわかるわよ。あの頃の、12月までのキミと全然違うんだもん」

「そ……それは……その通り……だったけど……」

「さっきは怖がらせてごめんね」

「え? さっきって……どのさっき?」

「いじわるぅ。謝ってんでしょぉ」


 と……僕の顎に、親指の銃口を突き立ててみせるめぐみさん。


「ちょっとヤキモチ妬いたのよ。コイツ、私がいない間に……ってね」


 あの時の⁉ まだ部屋に入って、間もない時じゃないか。今すぐ赤プリへ行くなら、ダグ・ボンドに会わせてくれるって……でも、赤プリ行ってヴァイオレット・ムーンのメンバーに会わせてもらうより、あのままめぐみさんと二人きりで再会の儀式続行を選んだ直後の出来事……。

 あの時点で既に、都子の存在があったことは見抜かれていた? それで……「キミは……私の……れいくんよ」と言っていたのか。


「でもさ……来てくれたのだって、その子とはとっくに、ちゃんと別れてたからでしょ?」

「あ……うん。そう! あの……4月の頭のぉ……えーと……」

「いいよぉ、そんな細かいの。勝手に私がいなくな……そう、いなかったんだからぁ、別に疾しいことじゃないでしょ? そんなに焦るトコじゃないし……わっかりやす~い!」


 男としては焦るトコなんだよ! いきなりそんなこと当てられたら!


「おっかしい、なにそれ! アハハ!」


 やっぱりめぐみさんには、僕のこと全部お見通しだったんだな。『4ヶ月半という彼女の知らない時間』なんて……またも僕の思い上がりだったんだ。


「その子、いくつだったの?」

「気になる?」

「いいから! 答えなさい!」


 ひぇ~! 今、細かいことはいいと言ってませんでしたっけ?


「えと……タメ……」

「へ~、タメ!」

「でも……精神的には彼女の方が、格上というか、その……」

「あ、そこ詳しく」


 そんな流れで始まった『尋問』も、途中で話題から零れ落ち……結局は二人の……今回の『再会』の話題へと落ち着いたんだ。


 それは、貫けなかった恋を乗り越え……経過と共に意味合いを変えて行く……情。

 お互いに交わし合った……情。

 残し残された……情。

 それでも与え合う……情……だった。


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