藍色の月 第十六章 誇り高き君と…
都子が明かしてくれた、不良少女だったと言う自らの過去。
それも、さほど遠い過去でもなく、その「不良」をやめたのは……僕と付き合いだした頃だったと言う。
そのあとも会話に夢中になっていて、自分も都子も何杯飲んだかなんていちいち数えてはいなかった。僕は大丈夫だったが、彼女……様子が違う事に、もっと早く気が付くべきだったんだ。
確かに目の前の都子、ちょっといつもと違うような? 良く言えば……お酒が入って、一層オトナっぽい、色っぽいというか……つい、うっとりと見惚れていて……そして気がついた。以前より、明らかに目ヂカラが増している。
と……突然、彼女の静かな声。
「こらぁ……目を逸らすな……」
その夜は、いつもにも増して言いたい放題の彼女だったが、これは……明らかに酔っ払っている? しかも、何か怒っている?
それは……普段、彼女自身も知らず知らずに抑えていた本音への、タガが外れたような瞬間だった。
「いつも……そんな、そんなにぃ……何を……怖がってんのよ!」
怖がっている? 僕が?
「キミは……わかんないのかなぁ……私……私はぁ……突然いなくなったりぃ……しないって……言ってるのにぃ……」
「……‼」
流れ出す涙を拭おうともせず、一層力強い視線で……何か回答を求めている様子だった。
「ごめん……わかってるから、ね。とても感謝してるんだから……」
そんな僕の言葉を遮るように……
「感謝じゃない! 私が欲しいのは、感謝なんかじゃない!」
「……⁉」
「やっぱりキミ……わかってないよ。私だって、いつまでもお姉さんみたいにしてられない!」
「えっ⁉」
それは……12月にめぐみさんに言われた言葉と、ほぼ同じ意味?
「ねぇ……いつまでも『おとうと』ではいられないのよ!」
ある意味警告文であり、事後にその通りだったと思い知らされた……あのひと言。
そんな……女の人は、みんな同じようなことを言うものなのか?
その時はそう思ったが、ちょっと考えれば……言う相手が同じ僕で、その僕はダメダメの子供っぽさだったからだろう。
いずれにせよ……都子がここまで感情を露わにしたのは初めてだった。僕は自らの幼さを恥じた。
いつも、ありのままの僕でいさせてくれた都子……それをいいことに僕は、知らず知らずのうちに、彼女にいつも甘えていたんだ。これをきっかけに自分が変らなければ、今後もまた彼女を苦しめてしまう。
「本当に……ごめんね。僕、今すぐに変身はできないけど、約束するよ」
「約束って……何を?」
そこで僕は、何の保証もない……しかし、精一杯の気持ちを言葉にして伝えた。
「これからもずーっと、都子と一緒に生きて行きたい」
「ずーっとって……いつまでずっと?」
「ずーっとは……いつまでとかじゃなくて、ずーっとでしょ」
「ホントに?」
「うん。本当だよ。それと、都子が大好き。都子は僕が守るから……だからこれからはずっと、同じ季節を一緒に、急がずに歩んで行きたい。それ以外は……今は、うまく言えない」
「ありが……とう。そんなことまで……言ってもらえると思ってなかった」
「あ、あとあの……この際だから言うけど……この前決めた、あのヘンな制限みたいな……あれも取りやめにする? あの、決してエッチな意味じゃなくて」
「え~? それは……エッチな意味だわぁ」
やっと笑ってくれた都子……想いは、言葉にしてちゃんと伝えないといけないんだね。だから、胸に手を当てて伝えた。
「もう本当に、都子以外ここには誰もいない。大好きだから……ね。今夜はこれで、許してくれる?」
「どーしよーかなー? なーんかホッとしちゃって……よくわかんないなぁ」
酔っているとは言えこんな反応になるのは、いつもの明るい都子に戻った証拠だ。但し、彼女がかなり酔っ払っている状態なのは変らず……とにかく、その夜は帰ることにした。
「時間も時間だし、今夜はもう帰ろうか」
「……」
また、じっとこちらを覗き込んでいる都子。
「どうしたの?」
「……はい」
と、右手を差し出す彼女。
レディが席を立つのだから、手を添えろという事か。了解です、お嬢様。さあどうぞ。
彼女のこんなに甘えた表情、初めて見る。なんて可愛いんだろう。
そして手を添え……立ち上がった、次の瞬間! グラッとこちらに倒れこんで来た。
「ちょっと! 大丈夫⁉」
呼びかけるが……抱きかかえられたまま、どうやら意識がはっきりしていない。
水面下で進行していた『手遅れ』になる事態が、浮上し姿を現した第一段階は……きっとこの時だったのだろう。
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