藍色の月 第十四章 未来を示している星は…
4月……3年生になる新学期を目前に控え、二人は新たな局面を迎える。
これが映画やドラマであれば、ここまでの経緯からしても、さぞかしドラマチックで素敵な春の恋物語が展開され続けていたことだろう。しかし、実際にはそうは行かなかった。
せめてあと少しでも『現実』を把握した行動を取っていれば、あんなにも呆気ない結末にはならなかったのだろうか。
普段からさほど背伸びした様子も無く、それでいていつもオトナっぽい都子。その姿を、もう当然のように受け止めている僕。
と……それは言い方の問題で、結局は幼いままの僕を懸命に受け止めてくれていたのは彼女の方だったんだ。そんな甘ったれの僕が、その夜の彼女の意外な背伸びに気付かず……あの時、その事に気付いて止めてさえいれば……いや、そもそも普段から彼女に、彼女自身さえ気付いていない『無理』をさせていたのかもしれない。普段から……。
4月に入り春休みも残り僅か。だからその日は珍しく……否、初めて……夜、食事に行こうかという事になり、二人で出かけた。しかも……アルコールあり。
80年代当時は高校生の飲酒なんて、社会的に厳しい話でも珍しい事でもなく、クラスのみんなで居酒屋……なんて1年生の頃から普通にあったりした。お店の側も、高校生と判っていても平気で店に入れた。
しかしこれまで、夜は必ず帰るという健全な(?)二人……都子がお酒を飲めるのかどうか、どれくらい大丈夫なのか、全く未知数。口頭で「飲めるには飲める」と聞いていた以外、実は何も知らなかった。
いつもは横浜からこちらに……都立大学まで来てくれる彼女。だからその夜は、僕が出向いた。
お洒落なお薦めのお店があると言う、日吉駅で待ち合わせ。改札から出て来る僕を見つけ、無邪気に大きく手を振る都子……え? 都子……だよな。なんか……いつもより綺麗……。
その夜はどこか、いつもと違う美しさが漂っていた都子。それに比べて僕ときたら、ダサダサの男子高校生。私服だから個人差が現れる……なんてレベルの話ではない。
都子の美しさをどう褒め讃えたら良いかわからず、言葉を探しているうちに彼女の方から……
「ふ~ん。お洒落して来たわね!」
と、お褒めのお言葉。
「そ……そう? ありがと」
春、4月とはいえ、夜はまだまだ冷える。冷たい風が二人の距離を、照れずに縮めてくれた。なんて詩的な表現をすれば素敵かもしれないが……駅前だからと照れているのは、実は僕だけ。一方、もう習慣のように、さっと腕を絡ませて歩き出す彼女。
「まだちょっと寒いねぇ!」
なんて台詞も、言い訳には聞こえないほどさりげなく。
しかしこの絵……なんか僕ってカッコ悪い。
「あの……僕って都子よりも低くてごめん」
「えぇー? キミってそんなこと気にする人だったっけ?」
「今だけ少し……ね。今夜は特に、その……綺麗だから」
「私が? わー、ありがとう! でも、別にいいんじゃない? 上から目線、好きなんでしょ? ほ~れほれ!」
お見通し……もういいです。
「ホントはねー」
「んっ?」
「ホントは私、こんなふうに夜、出歩いちゃいけないんだ」
「? でも今夜のこと、言い出したのは……」
「うん。学校とか色々あるから、ちょっと遅くなるくらいは怒られないけどね」
「今夜は……どうして?」
「お母さんが出掛ける日で、お父さんもお仕事遅くなりそうなんだって。今夜は私、不良娘!」
いつも清楚な君が、今夜は煽情的な美しさに見えるのは……それで?
「でも私、信用あるから大丈夫! れいくんのお陰だよ」
「僕の?」
「そ。いつも都立大学の駅まで送ってくれるから、寄り道しないでまっすぐ帰るし……お父さん、キミのこと褒めてたよ」
「お父さんに僕のこと話してんの⁉」
「大丈夫よぉ。あのことまでは言ってないから。そんなこと話せるわけないでしょ……エッチ!」
「そりゃ……そうだけど。で、なんて?」
「キミと付き合い始めてから……あ、お店着いたよ!」
「あ! こらっ! 始めてからなんだって⁉」
「やっぱり内緒!」
それまで絡ませていた腕をほどいて、先に二階のお店へ駆け上がって行く彼女。
解き放たれた、美しい水鳥のようだった。
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