藍色の月 第十二章 不測の躊躇い
春休みに入り、都子と逢う頻度は更にアップした。
春休み前の平日は、学校が終わって横浜から都立大学まで来てくれる都子。当時は携帯電話など無く、待ち合わせは今の時代よりもかなり慎重。それからウチに来てとなると、また駅へ送って行く時間が来るまで1時間か2時間。故に二人の時間……特に平日は、大事に大切に過ごしてきた。
それが春休みともなれば……その気になれば、それこそ『朝から晩まで』一緒に居られる日だって作れたし、実際に可能な限り一緒にいた。
正月明けのあの日からずっと、喪失感と共に暮らして来て……誰かに好かれても、現実感が持てず……結局傷付けてしまった罪悪感に苛まれ……そこから逃げるように人を避け、孤独感に怯え……耐え切れずにまた誰かを……そんな繰り返しだった。
そうした悪循環を断ち切ってくれた都子……否、真っ向からチカラ技でブッタ切るのではなく、決してソンナコトには付き合わず、足を踏み入れることなく……丸ごと包み込んで、溶かしてしまった。
あの時期の苦しさに比べれば、どんなに安定している事か。だからこそ、この現状の安心感を失いたくなくて……これ以上の関係に突き進むのを避けていたのかもしれない。
それでも二人は……少しずつ少しずつ、関係を深めて行く。
その頃にはもう、お互いに理由をつけては結構ベタベタしていた。フラッシュバックも起きない。
そんな二人にしてみれば、充分『極端な』進展なのだろうか?こんなに慈しみ合っていて何も無いはずはなく、そのうち……くっついている時、ちょっとキス……くらいはするようになっていった。
初めてのキスの時も、そんなにドラマチックでもなく……なんとなく当たり前のように、以前からしていたかのような、自然なキスだった。
もちろん心はドキドキだったが……「そこまで関係が進んだ」という感覚ではなかったんだ。それよりも、その時の空気がとても心地よく…キスをした途端、ドキドキがストンと心に納まったような感覚? 以降も気負う事なく自然にキス……するようになっていた。
進めないというのは、そこから先の話だったが……遂に、その一幕が訪れる。
その日、どんな経緯でそのような体制になっていたのかどうかは覚えていない。気が付いたら、二人して床へ横になっていたんだ。
そのまま……いつもなら自然にするはずのキス……も、できずに見つめ合い……1分……2分……それ以上?
やがて……二人のいつもより確実に昂ぶった吐息は、どちらからともなく接近し……接触し……交差し……絡み合う。
いつもより明らかに深いくちづけに、戸惑いながらもお互いを交換し合い……溢れ零れ落ちそうな愛を飲み干す二人。
子供でもない……大人でもない……二人が交わした精一杯の契り。
名残惜しさで張り裂けそうな想いに耐え、やっと少し離せた唇。
瞳を静かに開き、こちらを見つめる彼女。ウットリとしている瞳の中に、強く何かを訴えたそうな光。それを悟られた事を感じとりそして、恥じらうように目を伏せる。
彼女はそのまま両手を差し延べ、僕の顔を抱き寄せ……唇を耳元へ近付ける。
そこで都子が囁いた言葉……
「私は……いいけど……キミは……本当にもう……いいの……?」
「!!!」
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