藍色の月 第十章 告白…そして変化

 自分でも釈然としないまま、どうやら都子との『お付き合い』……とやらが始まったようだった。

 オトナっぽくて魅力的で、しかも清楚な感じの都子は……ウチの両親にも受けがよく、来る度に歓迎されていた。

 母の態度は明らかに、めぐみさんと比べていたのが見え見えだった。勿論、めぐみさんには会わせた事もウチに招いた事も無いが、あからさまに反対はしないまでも……『年上の女性の部屋に入り浸っている』ということ自体、快く思っていなかったはずだから。

 あからさまな反対をしなかった理由は唯一つ……めぐみさんから数学を教えてもらっていた事は母へも伝えてあり……その後、僕の数学の成績が少しは向上したから。

 因みに母の職業は、中学校の英語の教師である。高校生同士の、高校生らしいお付き合いが嬉しいらしい。


 もう……遅いよ。


 ただ、当の僕はと言えば……「周りで勝手に盛り上がっている」という感覚が拭い切れず、どこか現実感が無かった。

 しかし都子は、僕のそんな態度の理由を見抜いており……ことあるごとに、それらしい探りを入れてくる。が……『嫉妬』とかは全く感じなかった。いくらかわそうとしても、僕の心にストレートでヒットすることを言う。でも……優しい。


 都子は『年上』ではなかったが、間違いなく……『格上』だった。


 そんなある日の電話で僕はとうとう、めぐみさんの事を打ち明けてしまう。

 大好きだった事……年末、二人きりで彼女の誕生日を祝った事。その夜、何がどこまであったかまでは言わなかったが、さすが都子……大方察しがついたらしい。

 年が明けて、何も告げられずにいなくなり、引っ越してしまった事までは伝えられたが……今でも好きで、すぐにでも逢いたいと思っている事は、なぜか言えなかった。

 だが……言わずともその件も、都子にはわかってしまったらしい。それ故、なのか……『今でも想い続けているかどうか』については尋ねてこない。本当に優しい。自分がそんな質問をしたら、僕がどんなに困るか……わかっているんだね。

 そして、相変わらず感受性が強く……「黙って消えるなんて酷い……」と泣いてくれた。

 最後に彼女は……

「話してくれて嬉しいよ。まだ話したいことがあったら、構わず言うのよ。私は突然消えたりしないからね」


 こんなに優しくて可愛い都子に……僕はまたも、はっきりしてあげられない。その期間が長ければ長いほど、最後に刻まれる傷は……深く、大きくなってしまうにも拘わらず。

 その電話を境にだろうか……同い年の都子は、だんだんお姉さんのような態度と仕草になって行く。会った事もないめぐみさんと、どこか張り合っていたのだろうか?


 結局都子はバンドには加入せず、そんな関係を続けていた。ボーカリストの募集も、女の人はもう断っており、敏郎さんという二つ年上の男性ボーカリストが内定。

 第二期黄金期のメンバーで再結成したヴァイオレット・ムーンの来日公演は5月に控えており、敏郎さんと一緒に武道館ライヴへ行く事になり、一緒にチケットを買いに出かける。

 当時はネット予約注文など無く、二子玉川のチケットペアへ早朝から二人で行った。ところが……情報が違っていてそこでは買えず(正解は、チケットペアへ電話注文)。

 途方に暮れて……その状況を都子へ電話。すると……

「今から私が電話しまくって取ってあげるよ!」

 そして無事、チケットは取ってもらえた。敏郎さんも喜んで……

「助かるなあ! すんげぇ良い彼女じゃん!」

「はい。とてもいい子です。でも、彼女じゃありません」

 と、ムキになって否定してしまった。

 但し、もしも……もしも都子がその場に居合わせたとしたら……同じように、ムキになって否定できただろうか? 多分……できなかったと思う。

 この頃既に、僕の心の中で都子の存在は……少しずつだが、大きくなっていたんだ。


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