閑話 祝い事は大変
第10話 祝い事は大変
がらりとイマイの店を出て、待っていた皆に頭を下げる。
ちら、とマサヒデはカゲミツの顔を見て、
「申し訳ありません、イマイさんがあの様子でしたから。
注文も、中々耳に入らなくって・・・お待たせしました」
「うふふ。宜しいのですよ。
イマイさん、刀が大好きですものね」
マツがにっこりと笑う。
こほ、とカゲミツが目を逸して、小さく咳払いをした。
「マサヒデ」
「ん、母上、頼みます」
アキが笑顔で手を伸ばす。
早く早く、と、アキの目が呼んでいる。
マサヒデは笑って、アキにタマゴを手渡した。
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魔術師協会に向かって、職人街を歩きながら。
「父上、今、門弟は何人ほど残っていますか?」
「ん? んー、お前みたいに、祭にかなり出てったからな。
20人か・・・いや、弓とかの外の組も入れて、まあ30はいねえかな。
早い奴は、そろそろ祭から戻ってくると思うが・・・そのくらいかな」
マサヒデはクレールの方を向いて、
「クレールさん、80人を目安になんて言ってましたけど、足りるんですか?」
クレールは呆れた顔で、
「マサヒデ様・・・冒険者ギルドだけでも何人いると思っているのです。
マツ様は、この町の魔術師協会の長なんですよ?
商人ギルトに商工会、町議会にも声を掛けなければ。
役職の方には、お誘いを掛けなければ失礼でしょう」
「む、そんなにですか?」
「そうですとも。奉行所ともお付き合いがありますし。
むしろ絞るのに大変ですよ」
「ううん・・・」
「皆様お仕事がありますし、明日中には必ずご連絡致しませんと。
今夜は私達だけでお祝いを致しますが、明日は忙しいですよ。
書の配達はうちの者を動員しますが、お誘いする方を選ぶのは手伝って下さい。
内祝い(出産祝いのお返し)は、私の方で揃えておきます。
そうそう、魔王様と、国王陛下、私のお父様にも、書簡を送りませんと」
「はーははは! クレールさんは流石に分かってるな!
ほんと助かったな、クレールさんが嫁でよ。
マサヒデ、こういう付き合いも覚えとかないとな!
どうだ、祝い事って大変だろ?」
「いや、全くです」
「これが大人になるって奴のひとつよ!」
お、とカゲミツが足を止めて、
「そうだ。お前、アルマダの野郎にも、もう伝えたのか?」
「はい。あ、いや。パーティーの事はまだですが」
ほ、とカゲミツは安心して息をつき、
「そうか・・・助かったな。
あいつの所、結構でかい貴族だぞ。
この辺の貴族連中、呼んじまうかもしれねえ。
いや、あいつのことだ。浮かれて間違いなく呼ぶぞ」
満面の笑みで、輝くドレスを着た女性達に囲まれたアルマダの姿が目に浮かぶ。
「む・・・でしょうね」
「もし、あいつがパーティーの事を知ってたら、大変な所だったな」
「やはり貴族の方が一杯で、堅苦しいような」
「そうだよ。場所には限りがあるだろ?
付き合いある奴を皆はねて、貴族様だけのパーティーにするのか?
人がいっぱいだからお前は来るなーなんて、今のお前が貴族様に言えるか?
言えねえだろうが」
「う・・・確かに、それは大変です」
「まだだぞ。お前、ギルド長のオオタさんとか部長さんとかと仲良いんだろ?」
「まあ、お付き合いはさせて頂いておりますが」
「ち、バカ息子が。ああいう人らは、顔が広いのは知ってるだろ。
人が人を呼んで、際限なく増えてくぞ。
さっきの医者、ギルドのだろうが。
てことは、もうとっくにオオタさんは知ってるだろ?
パーティーの事、知らせてなくて良かったな」
「う、その通りです」
「おっとそうだ、トモヤも寺の坊様の所に居るんだろうが。
てことは、坊様も聞くだろ? 檀家の人らに喋っちまったらどうする?
マサヒデ、お前、随分と顔売れちまっただろ。
町中に広がって、我も我もと押し寄せてくるぞおー?」
「・・・」
「ははははは!
いいか、内々で場所も用意出来なかったから、他は誘わないように。
招待状が必要だ、としっかり書いて、そっちも用意するんだ。
どうしても誘いたい方がいるなら、連絡くれ、と必ず伝えるんだぞ。
ちゃんと誘える人数以内に抑えるんだ」
「はい」
「誘えない人への詫びの文も、失礼がないように、しっかり考えておけよ」
「分かりました。
父上、助かりました」
「まだあるぞ。俺らのパーティーはこれで済む。
だが、出産はもう知られちまっただろ?
ギルドの連中は知ってたな。てことは、すぐにそこら中に広まる。
祝の品やら、挨拶やらが、そのうち毎日来るようになるぞ。
お前、覚悟しとけよ」
「・・・」
「アルマダの野郎には、口止めしとけ。
貴族連中からパーティー開くぞ、なんて招待状がわんさか届くからな。
まあ、とっくに知られちまったから、遅かれ早かれだが・・・」
「私達に、貴族からそんなに招待状が届くでしょうか?」
カゲミツは呆れ顔で、
「お前なあ・・・マツさんは身分隠してるから、助かるかもしれねえよ。
でもよ、クレールさんはどこの出だ」
「あっ!」
「ホテル暮らしでお忍び生活だったから良いが、知ってる奴は居るだろ。
そこから、一気に貴族連中に話が広まるぜ。
この機会にお近付きに、なんて考える奴ばっかりだ」
魔の国で1、2を争う大貴族。
お忍び生活だったとはいえ、マツと違って特に身分は隠していない。
ホテルにも『レイシクラン』の名で泊まっている。
「貴族連中はごますりに、我も我もと招待状やら祝の品やら送り付けてくるぞ。
こっちにも、どうしても行けないって詫び状を考えとけ。
ちゃんと、どこの誘いは行かなきゃいけない、行かなくても良いって選ぶんだ。
大変だぞおー? しばらくしたら、毎日パーティー続きかもな」
にやにやしていたカゲミツが、む、と急に渋い顔になり、
「そうだ・・・そうだよ、陛下はマツさんの事は知ってるだろ?
祝の品を送ってくるだけなら良いが、呼ばれるかもしれねえな。
さすがにこれは断れねえぞ。俺も顔出さなきゃな・・・」
「国王陛下からですか・・・」
「そうだよ。マツさんの本当の身分は知ってるんだ。当然だろうが。
まあ、身分を隠してるって事も分かってるから、大丈夫だとは思うがよ。
思うが、クレールさんだって、本来なら国賓待遇でもおかしくないんだ。
ああくそ、呼ばれたら面倒くせえな! 祝の品で済みゃあいいがな。
それでも、ちゃんと報せは送らなきゃいけねえし・・・」
ばりばりとカゲミツが頭をかく。
ふう、と後ろで溜め息が聞こえた。
ちらりとマサヒデが振り向くと、のほほんとしているのはシズクだけ。
皆が頭を抱えている。
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