第18話 野外プレイ

 ロブレムとの戦いが終わった。


 結果論でいえば、俺の圧勝。

 だが俺の予想を超えた術式が多々登場し、決して油断できるものではなかった。


 特に、悪魔とロブレムが関わっていたことは聞き捨てならない。

 出来ることなら詳細を聞き出したかったが、あいつが真実を吐き出す前に正気を失ってしまったので諦めた。


 まぁ、終わったことに目を向けるのは止めよう。

 取り敢えず、今やるべきことは——



「メ、メルシェア?」


「ロストくん、好きです! 私と付き合ってください!」


「それは無理な話だ。メルシェアは第二皇女、俺が手を出していい人ではない」


「……お父様は私が説得します!」


「というかさ……どうして俺と?」


「そんなの、言わなくても分かりますよね?」



 クッソ……めっちゃ可愛い。

 すぐにでも彼女の体を跳ねのけたいが、それを拒む自分がいる。

 ていうか、この女……十歳のくせに胸が大きすぎないか?


 やはり王家の血筋を引く者は、発育もよろしいのだな。



「ロスト君は私を助けてくれました。貧弱な私を命がけで護ってくれたのです」


「だから俺を好きになったと?」


「はい!」



 おいおい、いくら何でも短絡的すぎないか?



「あのな、お前の警護なんか沢山いるだろ?」


「ロストくんが一番かっこいいです!」


「意味わからん」


「私の愛読書、『突然婚約破棄された私が、敵国の騎士団長に愛され過ぎた件について~私を振った王子様が復縁を望んでも、今さら手遅れです~』のブレイブ様にそっくりなのです!」


「ん……? なにそれ?」


「知らないのですか? 最近王都で流行っていますよ。私のメイドもみ~んな読んでます! ページの途中に描かれた絵がロストくんに似てて……」


「——おいおいマジか」



 なるほどな。

 絵本の中に登場するキャラクターに俺を当てはめたってことか。


 第二皇女といえど、こいつはいま十歳。

 精神年齢は、至って普通のガキだ。

 現代で言うのところの、少女漫画大好き中学生って感じかな。



「悪い、お前みたいなのは趣味じゃね」


「えっ……」



 そう言って、彼女の腕を退ける。

 俺は体は十歳でも、中身はおっさんだ。


 さすがに十歳の幸せ少女に発情するつもりはない。


 とメルシェアに背中を向けたとき——。

 「待って」と言って彼女は俺の腕を引っ張った。


 そのまま、俺は押し倒される。




「わ、私たちだって、もう大人です」




 色気付いた彼女の顔が、俺の目の前にある。

 妖艶な雰囲気が俺たちの間を通り過ぎて、心臓がひどく高鳴った。

 心なしか、下半身が興奮してしまう。


 マ、マジか……。


 このマセガキ…………。


 いきなり野外プレイをするってか…………?



 この国の性教育はどうなってやがる!?

 王族の家系は欲深いって聞くから、性欲も平均以上なのか?

 いや、それともこのガキが狂ってんのか?



 ま、マズイ!


 勢いに抗えない。


 どこにでもいるような未熟な女の体に、どうしてここまで胸を締め付けられるのだろうか。


 大きなサファイヤの瞳。少し赤くなった頬や、可愛らしい桜色の唇と、長髪のブーゲンビリア。

 その全てが、俺の目には輝いて見えた。


 唇が、徐々に近づく。


 メルシェアは目を瞑っていた。


 そうか、そのつもりか……。


 もう、俺を止められるものは何もない。


 俺は覚悟を決め、メルシャアの唇に自分の唇を近づける。


 相手が誰であろうとどうでもいい……もうやるしかない!



「——メルシェアさま! そこにいるんですか?」



「「——ッ!」」



 キスをする寸前のタイミングで、誰かの声が聞こえる。

 王家の使者だ!

 そう思い、俺はすぐさまメルシェアの拘束から逃れた。オナニー中の部屋に母親のノックが聞こえてきて慌ててズボンを履くような、そんな焦燥感が俺のなかに広がる。

 熱を帯びていた脳みそが、少しづつ冷めていく。

 風が気持ちいい。土の感触が心地よい。

 世界を救いたい。

 難民孤児を助けたい。

 そうか……これが……十年ぶりの賢者タイム。



「帰ろっか?」


「は、はい」



 おぼろげな手つきで、俺の手を握るメルシェア。

 流石の彼女も落ち着いたようだ。


 夏祭りを終えた帰り道のような気分で、俺はメルシェアとともに歩き出す。上を見ると、海を彷徨う船の明かりのように、夜空に月が漂っていた。墓地を囲む木々の隙間から、懐中電灯のような弱々しい月光が夜道を照らている。気を紛らわすみたいな熱中ぶりで、俺はその光を見つめた。


 なにかが変わったような気がするけど、具体的には何も分からない。例えるなら、動くはずの無かった歯車が突然動き始めたような、そんな感覚。ただ王城に帰って、早く褒められたかった。功績を認められ、さらに魔物や人を殺したい。そんな欲求が心を埋め尽くす。

 だけど、それとは別のなにかが……俺のなかで生まれたような気がした。



「メルシェア様!」



 鎧を被った人間が、ちらほら見える。

 どうやら使者が来たようだ。


 俺はようやくホッとした気持ちになって、隣にいたメルシェアを彼らに引き渡した。



*      *     *



 王都の一角、居住区。

 平民たちが寝静まったあと、屋根の上で月を眺める一人の少年がいた。



「あ~あ、ロブレムくんが負けちゃった」



 ポケットに手を入れながら、呆れたように愚痴を吐く。


 そんな彼の後ろにいるのは、真っ黒な”ドス黒い影”。

 少年は、その影に向かって口を開く。



「”デューク”、契約は完了した?」


『おう! フェアラートの言う通りになったぞぉ~』


「そうか……これで、ロブレムくんのを回収できた」



 少年は満足そうな顔で、ポケットから林檎を取り出すと、ガブリと一口。

 食べかけの林檎を、背後の”影”に投げつける。



「あとはお前が食べていいぞ」


『へへへッ、ありがとさん』



 暗黒の中に、真っ赤な林檎が吸い込まれていく。


 少年は夜空を仰ぎ見ながら言った。



「ロスト・アルベルフ……君は、僕の作る作品に必要のない天才だ。だから消えてくれ」



 月明かりが、彼の目を射抜く。



 少年の名は——フェアラート・アルベルフ。




───────


あとがき


第一章終わりです!

『良かったな~』と思ってくれた人は、ぜひ☆とフォローとハートをよろしくお願いします!

これからも本作に遊びに来てください!


 


 

 







 

 



 


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