第17話 国民栄誉賞と特級冒険者

今から数か月まえ……






≪ロブレム視点≫


「第二皇女を、誘拐する?!」


「はい。それが一番成功率の高い作戦だと思います」



 俺が”悪魔さま”から力を授かってから直後のこと。

 屋敷へ直行しようと思った俺を止めたのは、フェアラートだった。



「屋敷には、ロストだけではありません。特に、姉のリリア・アルベルフ。彼女は【極級勇者】と【特級冒険者】の二つの称号を獲得した最強の魔法剣士です。そんな怪物とロストを同時に相手するのは無謀すぎます」


「だから、皇族パーティーに乗りこめと?」


「はい。ロストを限りなく孤立させた状態で戦うのです」


「……なるほど」



 正直、俺はこいつのことが嫌いだ。

 二度も俺の期待を裏切ったからな。


 だが、こいつのおかげで”悪魔さま”に出会うことができた。

 その恩は、ロストの生首を以て返上したいと思っている。



「悪くねぇ~話だ。だけどよ~どうやって第二皇女を誘拐するんだ? パーティーの渦中に突っ込むわけにもいかんだろ」


「そこは安心してください。僕が誘拐しますので」


「お前が?」


「全員の目を掻い潜って、僕がロブレムくんのもとへ第二皇女を連れてきます」



 やけに自信のある立ち振る舞いだ。

 なにか、方法でもあるんだろう。

 まぁ、こいつはロストと同様に”魔眼”持ちだからな。

 実力は本物だ。



「任せるわ……そうだ! その足で戦いに参加しないか? 二人でロストを追い込めば間違いなく勝てるぞ」


「ごめんなさい。それは……お断りさせて頂きますね」


「はっ?!」



 なんだ、こいつ?

 お前だって”魔眼”持ちなんだから戦えるだろ?



「いや戦えよ。どうして拒否する?」


「う~ん、正直……負ける気がするんですよね」


「はっ?」



 負ける?

 俺たちが?

 ……この俺がいるのにも関わらず!?


 怒りに身を任せた俺は、フェアラートとの襟元を掴む。



「お前なァァァアアアア!! 俺が負けるって言いたいのかよッ!?」


「ち、違います!」


「んあぁぁぁっぁ俺に口答えするんじゃねーよッ!!!」



 壁にフェアラートを突き飛ばす。



「ご、ごめんなさい……」


「俺はな! ”悪魔さま”のおかげで不死身になったんだァァァァ!!! それだけじゃないッッ!! いくつもの闇の魔法をマスターし、今の俺は最強なんだよッッ!!! 俺がロストに負ける訳がねぇぇぇぇぇぇだろッ!!!」


「わ、分かりました……ただ僕が言いたいのは、あの子には”適正”があると思うんです」


「——”適正”?」



 膨れ上がるほどに顔を殴ったタイミングで、俺は手を止めた。



「歴史上、最も魔族を葬り去った戦士を知ってますか?」


「知らん」


「その戦士は、北部高原で活躍した人でした。圧倒的なパワーとセンスで数多くの魔族を討ち取ったのです。ですが、銅像はおろか、名前すら語り継がれませんでした」


「なぜだ?」


「その戦士は元々、だったからです」


「はっ?」


「魔法はイメージを具現化する技術……つまり、敵を殺す明確なイメージを持って戦わないと絶対に勝てないのです。ですが技量を得れば得れるほど、人は相手との彼我の差を思い知り、勝利への想像力が欠乏します」



 チィ……耳の痛い話だ。

 以前の俺は、ロストに勝てる自分の誉れを想像できなかった。

 あいつと目が合うだけで、どれほどの速さで言葉を話せば見逃してくれるか……ばかり考えていた。



「だから戦士は、頭のネジが外れてないとダメなんです。頭がぶっ飛んでないと、バケモノに勝つ自分の未来を想像できない……」


「んでお前はロストに勝てる気がしないと……?」


「はい」



 クソがッッ!!!!

 そんなこと、とっくに分かってるわァァァァァ!!!

 不死身になった今だって、正直怖いッ!!

 六年前のトラウマが、心臓を握り潰してくるんだァァァ!!


 あの日以来、俺の人生は完全に狂ったッ!!


 あの怪物と同じ世界に住んでいるという事実が、怖くて仕方が無いんだッ!!


 だけどよ!



「フェアラート、でも俺たちは負けちゃいけないんだッ!!」


「…………ッ!」


「俺たちは、みんなを護る”戦士”なんだから!」



 勝てる相手にしか挑まないのはヘタレのすることッ!

 自分が敵わない相手にも立ち向かうから戦士なんだッ!!!


 英雄譚の主人公は、みんなそうだ!!


 だから、俺は、


 全力で戦士を全うするッ!!!



 誰がどう言おうと、俺はみんなを救う”ヒーロー”だッ!!



「俺は、絶対にあきらめない!!」





*     *     *


現代





≪ロスト視点≫



「あ、痛い。もう、痛いのムリ。こ、殺して、ください。アアアァァ、苦しい。ごめんなさい、すみませんでした……喧嘩売ってごめんなさい。早く、殺してください……これが、俺の魂です……」


 弱音を吐くロブレム。

 こいつは、地べたに寝そべっていた。


 ふぅ~もう終わりか?


 まだま~だ、これからなのにぃぃぃ!?


 血液だって、まだペットボトル三十本ぐらいじゃない。

 せめてお風呂一個分は流して欲しいのに。


 腕、四十本。

 足、三十六本。

 同じ顔をした頭部が、え~と……七十二個あって。


 えっとアレは……胃?

 いや、膵臓だった気がするんだけどな~暗くて見えないな~。



「もっと声を出していこうぜ♪

 内臓がない♪血がない♪骨がない♪でも痩せたい♪だから動きたい♪汗出したい♪デブは絶対♪認めたくない♪」



 せっかく俺が盛り上げようと唄っているのに、ロブレムが悲鳴を出してくれない。

 声があるから、もっと興奮できるのにな……音声なしAVに価値なんてないのに。



「お前が俺に斬られていっぱい内臓出して! それをぜ~んぶ俺が国王に献上すれば! 皇女を誘拐した盗賊の数も偽り増やせて報酬アップ! からのぉ~俺は出世街道まっしぐら!! ”国民栄誉賞”と”特級冒険者”のダブル受賞も夢じゃないぜぇぇぇぇ!!! 

アザベルッ!! 俺、パーティーに来てよかったぜェェェェェェ!!!」



 てことで、拷問を続行をしていくぅ~!


 これ、お前の足!

 これ、お前の腕!

 これ、お前の心臓!

 これ、お前の目ん玉!

 目の前で目ん玉飲んでやろ!



「ころ、して、くだ……さい」


「ん~ノリが悪いなぁ~おにいちゃぁぁぁん!!」



 流石にノリが悪すぎる。


 最初はあんなに叫んでいたのに……。


 お前の声帯は飾りか?


 声帯筋と横隔膜さ~ん、ちゃんと仕事してくださ~い!



「はぁ……もう、飽きちゃった」



 俺は、地面に落ちた小さな石ころを拾う。


 【死魂眼しこんがん】を通すと、石のなかにロブレムの魂を見つけた。


 これが、こいつの霊魂か。



「もう終わりか~せっかく楽しかったのになぁ!!」



 石を真上に振り上げる。

 宙を舞った状態で、横一文字に抜刀。


 ロブレムの霊魂は絶ち切られ、奴は絶命した。



「ふぅ~討伐完了!」



 ロブレムが死んだことで、周囲を囲っていた結界が消滅する。

 晴れて自由の身だ~やったね!






「ロストくん———!」


「おっと?」



 結界の外で待機(?)していたメルシェアが、突然大きな声を出して抱き着いてきた。

 今の俺は、血生臭いぞ?

 そんなことを危惧しながら後ろを振り返る。


 すると彼女は、今まで見たこともないくらい素敵な明るい笑顔で言った。



「結婚してください……わたしの、お・う・じ様!」



 ……ん?


 



 

 


 


 



 


 

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