聞こえる足音 1話

 僕がいつも使っている通学路。ここ最近、通学路のある場所を通ると、背後から足音が聞こえてくる。

 その足音は決まって帰宅時にだけ聞こえてくる。単なる足音だけならよかったものの、足音をよく聞いていると、途中までついて来ているように聞こえていた。初め気がついた時は怖かったけど、勝手に近くを歩いている人の足音が響いているだけだと決めつけていた。そうでないと、怖くて通れなくなるから。まあ長いことついて来られているわけではないから、自転車で走り去ってしまえば一瞬だ。

 そんなことを続けているうちに、次第に音が聞こえてもいつもの時のように感じ、自転車を飛ばさなくもなった。

 

 そんある日。この日は珍しく塾で居眠りをしてしまって、帰る時間が遅くなってしまっていた。

 高校生が外出ててもいい時間を超えている。あまり遅くなりすぎたら警察に補導されたりするから、早く帰らないと。

 こんな時間にあの道を通るのは嫌だけど、あの道なら警察も通ることはない。見つからずに且つ家に最短で着くためにはあの道を通るしかない。

 こんな遅い時間に通るのは初めてだけど、今までも暗い中通ることはよくあった。いつも何も起きずに通り越すことができていたから、今回もできるだろうと思った。

 結論から言って、恐怖に苛まれていた僕がバカだった。やはり、足音はただの足音。少し遠くを歩いている人の足音だったみたいだ。

 ここ最近聞こえていた足音がこの日は聞こえなかったのだ。

 同じ時間を共にしている誰かがいるんだ。と思いながら眠りにつくと、16年生きてきて、人生で初めて金縛りを経験した。

 噂程度には聞いていたけど、本当に何もできない。声も出ないし、身体を動かそうとしてもベッドに張り付いているように動かない。無理やり腕を上げようとしたら、肉が骨から分離しそうでこれ以上は動かせない。それなのに、目と首だけは動く。不思議な感覚だ。

 目を閉じようにも、目が覚醒した時のようにぱっちりと目開いてしまっているから、閉じるよりも開けていた方が楽だ。このまま時間が過ぎるのを待つしかないのか。初めの方は金縛りに初めてあったから興奮していたけど、何もないからとてつもなく暇だ。天井に、こんな時でも勉強ができるように、英単語の紙でも貼り付けておくべきだった。

 それは突然現れた。何の前触れもなく本当に突然だ。

 ズシッズシッ。っと音が聞こえたのだった。僕の家はよく音が鳴る。いわゆる家鳴りというものだ。だけど、ここまで足音様に聞こえたのは初めてだった。いつもは、ギシッって音が数回聞こえるだけで、ここまでの音は鳴ったことがない。

 足音様の音は、徐々に僕の方へと歩いて来ている様だった。

 これはやばいのではないか、と思いながらも眠気が全くないから眠れそうにない。

 足音は扉の前で立ち止まったのか、聞こえなくなっていた。ここでことが終わればそうれでよかったのだけど。そう簡単にはいかないようだ。

 扉の方に目を向けると、足だけのものが僕の部屋に入り込んできていた。それは本当に足だけ。よく見ると靴みたいなものを履いているけど、下半身だけしかなかった。

 これは夢だ。これは夢だ。頭の中で言い聞かせながら目を強く瞑った。誰にも起こされないように強く……。気がつけば眠っていて、朝は何もなく起きられた。

 昨日のことは夢にでも思いたいけど、現実だった可能性の方が高い。夢ではない意識があった気がしたから。

 その日の夜も9時過ぎにあの場所を通った。普段よりも1時間くらい遅かったが、足音は全く聞こえなかった。ただ、いつもよりも自転車に重さを感じていた。身体的疲労が溜まっているだけだと言い聞かせて、この日はいつもよりも早めに眠った。

 なのに……また金縛りにあった。合わせて廊下を歩く足音も聞こえていて、また足だけの存在が僕の部屋を彷徨うろついていた。その足はしばらく僕の部屋を彷徨いてから僕の頭元に足先を向け立ち止まった。

 もしこの足だけの存在に顔がついていたのなら、僕を見下ろしていたに違いない。

 怖くなった僕はまた、全力で目を瞑ってことなきを得た。

 2日連続の金縛り。経験などしたこともなく、身体的にも精神的にも疲労が溜まっていた。授業中の居眠りに始まり、集中力が低下しているのが身に染みてわかった。このままでは学力の低下だけでは終わらないと悟った僕は、この日から帰る道を変えた。

 少し遠回りになるけど、何も気にせず帰れることが優先だ。

 それから、雨の日でも風の強い日でも、折れることなく毎日遠回りをしながら帰った。たまに疲れてあの道を通りそうになっていたけど、手前で気がついて引き返した。

 道を変えてから、金縛りにあうこともなくなって、前までと同じような生活を取り戻していた。

 そんな生活を1ヶ月も続けていると、次第に恐怖心は薄れていき、あの道を通ってももう大丈夫なんじゃないかと思っていた。自分でそう疑問を持ちながらも1人で首を横に振って、あの道を通ることを拒否した。もう金縛りだけは2度とあいたくないから。

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