河村病院跡 第12話

 気を取り直して、地下室への扉の捜索を再開した。大和は相変わらず、建物横の草を抜いて、僕は建物の裏の草を踏みつぶいていた。そんな僕の目の前に、大和が見つけたものとよく似た穴を隠している鉄の蓋を見つけた。

 下水が2つあるなんて考えられないし、建物裏なら汚物の汲み取りが難しいだろ。どう考えても違和感しかないその蓋を、大和は呼ばずにそっと足を使ってずらした。見える範囲は真っ暗で、覗いてさっきみたいに蛇の巣窟になっているのなら危険だし、見たくもないから覗くことはしなかった。

 蓋を十センチくらいずらしてみると、ようやく全体像が見えて、穴の中は本当に階段のようになっていて、その階段の上に這い上がってこようとしているように人骨が置いてあった。

 そんな人骨を見て僕は叫んだ。ついでに、腰を抜かせて、その場にしゃがみ込んだ。

 僕の叫び声を聞いて、大和が慌てて来てくれた。

 

「渉! どうした?」

 

「や、大和……人の骨だ……」

 

 僕は見つけた穴を指差しながら、地面を這うように後退した。

 大和もようやく人骨を把握できたようで、僕に負けないくらいの、隣にいると、耳が裂けそうなくらい大きな声で叫んだ。

 

「わ、渉! 帰ろう!」

 

 大和は僕を肩に担いで、草むらを走り出した。草むらを抜け、大和の車に慌てて乗り込み、山を下った。

 優馬を探し出して、久しくスマホを触っていなかったから気づかなかったけど、もうすでに夕方と言われる時間帯になっていた。山を下っている道中、警察に通報しようかと思っていたが、やはりここいら辺一帯は電波が届かない。また麓の集落まで降りないと電話はかけられないようだ。

 

「大和。広い道で車を停めた」

 

「え? 何で?」

 

「警察に連絡する」

 

「ああ、そうか……分かった」

 

 麓の集落まで車を走らせて、昨日僕が止めたところと全く同じところに大和は車を停めた。

 

「そう言えば、渉は昨日も警察に通報したんだよな?」

 

「うん。それがどうかした?」

 

「だったら、俺がするよ。そっちの方が信憑性があるだろ」

 

「そうだね。じゃあお願いするよ」

 

 大和はそう言って、警察に連絡した。大和の言い方が悪いのか、電話を受け取った人が悪いのか、大和の声しか聞いていないのに噛み合っていないのがよく分かった。それでも何とか話は通じたみたいで、また警察の人が来てくれるよことになった。

 閑静な住宅街の片隅に車を停めて、10分くらい待っていると、僕らの元に1台のパトカーが現れてた。今回はしっかりと2人の警察官が乗っていた。

 

「君が通報をくれた子?」

 

 パトカーの運転席から女の警察官が顔を出して言った。

 

「はい、そうです」

 

「悪いけど、同行して欲しいから、この道をまっすぐ行って、交差点を左に曲がったところにある公園に車を停めて来てもらえないかな」

 

 言われた通り、車を公園まで大和が走らせ、さっきまで車を停めていたところまで歩いた。

 パトカーの後部座席に乗り込み、警察官の人の運転で、もう2度と行くまいと思っていた河村病院まで、また来てしまった。

 

「確認は私たちがしてくるから、君たちは車に乗っててね」

 

「はい」

 

 河村病院の裏手にある錆びた鉄の蓋。そんな説明しかできなかったけど、見つけられるのだろうか。まあ、錆びた鉄の蓋は草木が生い茂って、緑しかないあの場所では目立つからすぐ見つけられると思うけど……。

 女の警察官2人が河村病院の裏に行ってから10分が過ぎて、2人の女性は戻ってきた。

 

「確認が取れたから、君たちを麓まで送り届けるよ」

 

 そう言って、僕らはパトカーに乗ったまま麓の車を停めてある公園で降ろされた。

 その帰り。僕は大和と共に、優馬の実家を訪れた。謝罪ともしかしたら優馬が実家には連絡を入れていると思って。

 大和と2人で息を荒くしながら、緊張した雰囲気の中、優馬の実家の呼び鈴を鳴らした。どこかの窓が開いているのか、ピンポーンという音が、外で待っている僕たちにまで聞こえていた。その音が鳴り止むと、今度は慌てて歩いているような早足の足音が聞こえていた。その足音が消えたと同時に、玄関の扉が僕らに目掛けて開いた。

 

「はーい。どちら様? あー、渉君と大和君ね。今日はどうしたの?」

 

 優馬の母の優しい出迎えに、僕らは言葉を失ってしまった。長居なんてするつもりじゃなかったのに、中に上がって、お茶とお菓子を貰ってしまった。

 

「あの、優馬から何か聞いていますか?」

 

 どうやって言葉を繋いでいいのか分からず、突然そんなことを言われても、理解し難い文章になっていた。

 

「優馬? 誰かしら?」

 

 優馬の母は、優馬なんて名前初めて聞いたと言いたそうな顔を浮かべていた。その反応に僕らは驚いた。いや、驚いたなんて生半可のものじゃなくて、もう、驚きを通り越して何が何だかさっぱり分からなくなっていた。

 

「えっと、あの……僕らと同い年の優馬です……」

 

「そんな子いたかしらねえー」

 

 優馬の母とは合えば話す程度の仲だった。そんな人間が、僕らにそんな嘘をつく必要も理由もない。ましてや、優馬のことを知らないなんて、嘘をついて何の徳がある。顔も本気で言っているみたいだったし、何が起きているんだ。

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