河村病院跡 第11話

「何かあったのか?」

 

 音を聞いて大和が慌てて近寄って、穴の中を覗いた。

 

「見た感じ、鉄の壁? のようなものがある」

 

「どうしてこんなところに鉄の壁があるんだ?」

 

「考えられるとしたら、防火扉とか?」

 

「昨日見てまわっている時は気にしていなかったが、そうかもしれないな」

 

「でも、問題はそこじゃなく、どうしてそれが埋められているのかってことだよ」

 

 それからまた30分くらい、鉄筋を使って壁を掘っていたが、ほとんど先に進まず、さらに、奧には鉄の壁があって、鉄筋だけでは壊せないしどうしようもなかった。

 

「渉。これ以上は無理だと思う」

 

「だな……鉄の壁がある以上、掘り進めることもできないね」

 

「……優馬はどうする?」

 

 大和が深刻そうな表情を浮かべながら言った。だけど、手がかりが何もない狀態だ。実はこっそり、ここから脫出して、もういないくて、家でゴロゴロしているなんてことがあったらと想像している。そうだったのなら、僕か大和のスマホに一報入って居ないとおかしい。山を下る際に、怪我とか野生動物に襲われたとか、遭難してしまったとか、マイナス方向には考えたくない。

 

「外から探そう」

 

「外から?」

 

「うん。大和が、昨日橫になっていた草むらあたりに、違う出口があるんじゃないかと思うんだよ」

 

「確かに。俺、階段を上がった記憶ないもん」

 

「逆にどこまで覚えているの?」

 

「えーっと確か。地下室に入って、適當に歩いていたら、急に変な音がして、振り返ったとこまでは覚えているな。それからは渉に起こされるまでは記憶にないんだよな」

 

 もし自分の足で外に出たのなら、空気の違いから、外に出たのだと認識できるだろう。たとえ無意識下だったとしても、大和ならそれは可能だと思う。つまり、大和は誰かに眠らされて、外に運ばれた可能性があるってことだ。大和は背の割に體重が軽い方ではあるが、70を超えている。そう簡単に軽々しく持つのは難しい。音も立てずとなると尚更だ。引き摺った音、階段を上がって行く足音。どれも聞いた覚えはない。僕らが入ったところと違う出口があるのなら、歩く音が聞こえなかったことには少しは納得できる。

 

「大和。どの辺で寢ていたのか覚えている?」

 

「いや、それが、渉に起こされた時、車の中だったから、外で寢ていた記憶もないんだよ」

 

「そっか」

 

 運ばれてきたとするならば、この辺に大和の足跡はないのだろうが、今は真夏で草木は青々と茂っていて、足跡の1つも地面には付いていなかった。

 

「俺、どの辺にいたの?」

 

「正面の入り口を出てすぐ左側で眠っていたんだよ。ちょうどこの辺。大の字で眠っていたんだよ」

 

 大和が眠っていた辺りは、誰かに踏まれたような跡が草に付いて折れ曲がっていた。

 

「じゃあ、この辺に地下室の扉があるかもしれないってことだよな」

 

「そうだね。早速、探そうか」

 

 地下室は、建物に入って右にある階段を正面に見て左側にある扉から入った。その記憶が正しければ、建物を正面に見たときに右側に當たる、この草むらのどこかに抜け道がると言うことになる。大和は地下室に降りてから、一目散に左側の方へ消えて行った。実際に地下室の階段がどのくらいの距離を進んでいるのかわからないが、大和の行った方に隠し通路があるのだとしたら、建物の裏手に當たる場所にある可能性だってある。捜索範囲は少し広がるが、建物の裏に行ってみるのも悪くはない。

 大和は自分が眠っていた辺りの草をつつが見えるくらいになるまで刈り取って、僕は建物裏手前の草を足で踏み潰しながら道を作っていた。

 

「渉ー! なんかあるぞ!」

 

 大和が叫んでいるから慌てて駆け寄ってみると、大和が見つけたのは下水であろう、汚物なんかを貯める穴を塞いでいる、鉄の蓋だった。錆びついて赤茶色に変色していて、踏んでしまえば落ちてしまいそうなくらいボロボロだった。

 

「ただの下水の穴じゃないかな?」

 

「それはそうだけど、これが実は隠し通路になっていたりしないかな?」

 

「確かにそれはありそうだけど、これを開けるのはちょっと気が引けるよな……」

 

「大丈夫。俺が開けるから、少し遠くから見ていて」

 

 大和がそう言うから、僕は大和から少し距離を置いて、いつでも逃げられる準備を整えてから、大和に合図した。

 

「いいよー」

 

「よっし! 開けるぞー」

 

 恐る恐る大和が蓋を開けると、穴は確かにあったんだろうけど、土に埋もれて十數センチの穴にしかなっていなかった。糞便の穴を想像していたから、とんでもない異臭が漂うんじゃないかと不安になっていたが、土のおかげでそれは免れた。代わりと言ってはなんだが、大量の蛇の巣窟になっていた。

 

「大和、閉めて!」

 

「え? 何で?」

 

「蛇! 蛇がめっちゃいる!」

 

 僕の驚きように動揺してからか、大和は鉄の蓋を投げるようにして閉めた。そのせいもあって、鉄の蓋は真っ二つに割れて、蛇の上にのりかかった。

 

「あ……」

 

 蛇には悪いけど、封ができているからこれでよしとさせていただきたい。

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