河村病院跡 第8話

 どこかも分からない住宅街の一角に車を止めて、警察に連絡した。

 

「もしもし、事件ですか、事故ですか?」

 

「あ、え、えっと……あの……友人を助けてください!」

 

 事件か事故かの2択で言われたから、焦ってしまい、要領をえない回答になってしまった。

 

「落ち着いてください。今はどこにいますか?」

 

「えっと……友達と、肝試しをするために河村病院跡まで行って、今麓まで降りて来ています」

 

「ご友人は一緒ではないのですか?」

 

「1人はいるのですが、もう1人の友達がまだ地下に残ったままで……お願いします助けてください」

 

「落ち着いてください。警察官を派遣するので、今いる場所を詳しくお話しできますか?」

 

「は、はい……えっと……」

 

 僕が言葉に詰まっていると、警察の人は、近くにどんなものがあるかや、どんな店や建物があるか。近くにある電柱に書いてある住所はどこかなど、たくさんの質問をしてくれた。聞かれたことを答えるだけは楽だった。

 しばらく大和を見守りながら待っていると、赤色灯を光らせながら一台のパトカーが近づいて来ていた。電話をした人が呼んでくれたパトカーだと思って、手を振って呼び止めると、どうやらたまたまここを通っただけのパトカーだった。パトカーには1人の警察官が乗っていて、粗方の事情は聞いていると、話を聞いてくれた。

 

「ところで、君たち若いみたいだけど、高校生ではないよね?」

 

 パトカーに乗っていた警察官の男が僕らに言った。

 

「いません。みんな大学生です。ちゃんと身分証もあります」

 

 質問をした警察官も僕らと同じぐらいだった。何なら僕らの方が年上かもしれなかった。

 

「みんな一人暮らし?」

 

「はい……どうしてですか?」

 

「息子が帰って来ないって連絡を受けていないから。そうかも、と思っただけ。知らぬがってやつかな。それじゃあ、目的の所まで案内してもらってもいいかな?」

 

「は、はい……」

 

 立ったまま書類を書いていた警察官に、そう言われて、僕は眠った大和を乗せたまま、もう一度、河村病院跡に向かった。

 来た道を戻るだけなのに、道中冷や汗が止まらなかった。それでも戻ろうと思えたのは、優馬が河村病院に残ったままになっているからだ。

 優馬、待ってて。今迎えに行くから。

 時間を気にすることなく山道を登っていくと、あの不気味な3階建ての建物は現れた。さっき来た時と同じ場所に車を止めて、車から降りた。その様子を見て、警察官の人も僕の真後ろに車を止めて、車から降りてきた。大和は眠ったままだからそのままにしておこう。

 警察官の人と合流し、不気味な3階建ての建物を指差して言った。

 

「ここです……ここの地下に……」

 

 月明かりに照らされて、気味の悪さが一層に増していた。

 

「分かった。とりあえず、案内してもらってもいいかな。もちろん先頭は歩くから、進む方向だけ教えてくれない」

 

「はい、分かりました」

 

 警察官の人の陰に隠れながら、河村病院の中に入った。中はさっきと何も変わっていなくて、相変わらず紙やガラスの瓦礫が散乱していた。あの時は慌てて出てきたから、非常扉がどこにあり、どっちの方向に進むべきなのか分からなかった。階段の方向ということだけは分かっていたから、案内図を見つつ、階段を目指した。

 目的だった階段に着いたけど、優馬が見つけた非常扉はどこにもなかった。

 

「非常扉ね……どこらにあったか覚えていない?」

 

「確か、ここだったはずなんですけど……」

 

「でも、ここはただの壁だね。別の場所だったとかは?」

 

「かもしれません……」

 

 何が起きているのか分からなかった。この階段は優馬を下ろしたところで間違いはなかった。なのに、非常扉はなかった。あの時は確かにあったのに……。

 警察官の提案で、僕らは案内図に表記されている非常扉を一つ一つ回ってみることにした。この病院は、昔に立てられただけあって、非常扉の数は今の建物と比べると格段に少ない。1階には合計5つ。そのどれを見ても、地下に通じる道はなかった。

 

「本当にあったの?」

 

 警察官がそう言うのも無理はない。僕も本当にあったのか自分を疑いたい気分だ。

 諦めきれない僕は、警察官に2階も3階も全部の部屋を探してほしいと頼んだ。警察官は快く引き受けてくれたが、どこに行っても優馬はいなかった。非常扉もどれだけ開けてもあるのは壁ばかりだった。

 

「長居は無用だし、もう帰ろうか」

 

「はい……」

 

 警察官に言われて、僕は河村病院跡を後にした。車に乗り込む直前、警察官は僕に言った。

 

「その友人本当にいたの? 肝試しをしたのは2人だけではなかったの?」

 

 そんなことはない。優馬は確実にいた。

 

「はい、優馬は確実にいました。中学から一緒だったので……」

 

 帰りの車で、他に探していない部屋があったのかもと、優馬を諦めきれない気持ちが込み上げてきていた。できればもう2度とここには来たくないが、友人を置いたままなんて気分が悪いし、行方不明になったなんて家族が知ったら大問題になる。そう報告をしなければならなく前に優馬を見つけないと。最悪の報告だけは避けたい。

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