河村病院跡 第9話

 次の日の朝になり、目を覚ました大和とともに、優馬を探すべく、作戦を立てた。

 優馬の捜索決行は、今日の昼。昼間に行けば、明るいし、探しやすい。それに幽霊の出る心配も少ない。都合のいいことに今は夏だから日が出ている時間が長い。捜索にはもってこいだ。

 僕は昨日、長時間運転したからと大和に掛け合うと、大和は何も言わずに車を出してくれた。

 大和の車に乗って山道を登っている最中、僕のスマホに知らない番号からの電話がかかってきていた。基本的には知らない番号からの電話は取らないようにしているが、優馬かもしれないと思って、意を決して電話に出た。

 

「もしもし……」

 

 相手は警察の人だった。

 

「もしもし。私、吉野川警察署の山根と申します。羽田渉様のお電話でお間違いないでしょうか?」

 

「は、はい……」

 

 この時点で嫌な予感しかしていなかった。事態は最悪の結末を迎えるんだと、そう思っていた。

 

「お探しになっていました友人は見つかりましたか?」

 

 全く予想もしていないことを訊かれて、僕の頭は真っ白になっていた。

 

「い、いえ……まだです……」

 

「そうでしたか……」

 

 僕の頭はまだ止まっていた。何がどうなっているか、理解が追いつかなかった。

 優馬が見つかったからの電話じゃなくて、優馬が見つかったのかの確認の電話……。昨日警察官の人と一緒に河村病院跡まで行って、優馬がいないことを確認したのに、警察官の人が報告をし忘れた?

 そんなことあり得るか?

 僕はないと思う。もしそうなら割と問題に発展しそうだし、報告をしていれば違う警察官の人が、わざわざ僕に連絡をよこさなくて済んだ。どう言うことだろう。

 電話の警察官は、話を終えて電話を切ろうとしていた。それを僕は留めた。

 

「あの!」

 

 僕が急に大きな声を出すから、横で運転している大和が驚いていた。それを横目に見ながら僕は言った。

 

「どうして僕に電話をくれたのですか?」

 

 電話の警察官は、僕に電話を掛けるに至った事情を話してくれた。この警察官の話によると、僕が電話をして警察官を派遣したが、言われた場所には誰もいなかったそうだ。対応した警察官の話によると、僕がいかにも懸命に訴えるから、本当にあった出来事だろうと要請をしたらしい。だが、現場には誰もいなくて、いたずら電話として処理されたそうだ。申し送りがあり、それをこの電話の警察官が変に思い、僕の連絡先を調べて電話を掛けて今に至ると。

 僕の頭は余計に混乱していた。だって、僕は確かに警察官の男の人と河村病院跡まで行ったのだから。

 

「その警察官は本当にパトカーに乗っていましたか?」


「はい。赤色灯を光らせていたので、間違い無いです。セダンタイプで、車の横にもしっかりと黒いラインが引いてあって、登久島県警察と書いていました」

 

「どれだけ調べていても、通報をくれた時間にその辺りを巡回しているパトカーがいないんですよね」

 

 僕は戦慄していた。一体何がどうなっているか分からずに、頭が混乱していた。

 

「ど、どう言うことですか? 僕は確かに警察官の人と一緒に河村病院跡まで行って、中まで捜索しました……」

 

 昨日僕が見ていたものはなんだったのだろう。見た目は完全に人の姿で、警察官の格好をしていて、パトカーに乗っていて、肝試しなんて悪いことをしている僕らを、叱ることなく優馬を一緒に探してくれた。

 

「その警察官の服装とか覚えています?」

 

 電話の警察官が言った。

 

「はい。制服を着ていました。階級章もしっかりついていましたので間違いはないです」

 

 僕はそう答えた。

 警察官。小さい頃は憧れていて、姿を見かけると、必ず階級章を確認していた。

 確か、対応してくてた警察官は年齢の割に階級が高かった気が……。

 

「階級章……制服であったことは、確かみたいですね。流石に番号までは覚えてないですよね……」

 

 警察官の階級章の上には、小さな文字のローマ字と数字が記載されている。その番号が分かれば、誰が対応をしてくれたのかがはっきりするが、遠目からでは見えないし、暗闇だったから見えなかった。

 

「すみません、流石にそこまでは……で、でも、階級は覚えています。下地が銀で葉っぱが金色で、金の棒は4本あったので、警部だったと思います」

 

「詳しいのですね。それは、2人とも同じ階級でしたか?」

 

 その言葉を聞いて、僕は固まった。

 だって昨日対応してくれた警察官は、1人だったから。

 

「え……いえ、1人でした……」

 

「パトカーに1人で乗っていたのですか?」

 

「は、はい……」

 

 そう言った途端、まるで別人になったように電話の警察官は口調を変えた。

 その警察官の話によると、パトカーで巡回中の警察官は基本的に2人体制らしい。1人が運転、もう1人は目を凝らして異常がないかを確認する。大まかにそんな役割があるそうだ。だから、1人でパトカーに乗っていることはまずないそうだ。

 電話の警察官は、こちらでも一応調べてみると言って、電話を切った。

 

「青白い顔してどうしたんだ?」

 

 電話を切った途端に、車を運転してくれている大和が僕に言った。大和は昨日の出来事を知らない。大和にも話しておくべきだろうか。いや、こんな話信じるわけがない。僕だって、そんなことを言われても信じれない自信がある。大和にはこのことは黙っておこう。

 

「なんでもないよ。昨日あまり眠れなかったから、その影響かも……」

 

「へえー。まあ、運転を頼むくらいだもんな。嫌な夢でも見ていたのか?」

 

「まあ、そんなところ……」


その後は何も追求されることはなく、僕らは再び河村病院跡に着いた。

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