河村病院跡 第2話
「間違いないよ。これが河村病院跡だよ」
「本当に合っていたのか……」
「驚くのそっち?」
「それはそうと、優馬を起こそうか」
「そうだな」
優馬はこの短時間で熟睡していた。声をかけ、体を軽く揺らすくらいじゃびくともしなかった。
何が仮眠だ。1人だけ悠々としあがって。
「おい、優馬起きろ!」
「ん? 何だ? もう朝か?」
この期に及んで優馬は寝ぼけていた。
「朝な訳ないだろ! 河村病院についたんだよ!」
「ああ、そうか……」
まだ寝ぼけているのかじっと固まっていた。
「早く行って早く済ませよう。ここまで時間がかかるとは思っていなかったから、早くしないと日付が変わってしまう」
「もうそんなに時間が経っているのか?」
「スマホ見てみろよ。もう午後10時半超えているだろ」
「本当だ。10時から始める予定だったのに、探索の時間がなくなるな早く行こうか」
呑気に欠伸をしている優馬を無理やり車から引きずり下ろして河村病院の敷地に入った。
「おお、何か趣があるな……」
「何十年も昔の建物だから当然だろ。それより草木が多すぎてこれ本当に中に入られるのか?」
「踏み潰していけば何とかなるだろ」
大和はそう言ったが、177センチの僕の腹あたりまである草を踏み潰しながら進んで行くのは時間がかかるし効率が悪いなと思った。そんな大和を先頭に河村病院へ近づいて行った。遠くからでは草のせいで見えていなかったが、簡単に越えられそうな小さな壁があった。先頭を歩いている大和はそれに気付かずに足を引っ掛けて転んだ。
「いでっ!」
「大和大丈夫か?」
大和が倒れ込んだ先も叢々に草が生えていて、盛大に転んだ割には傷は少なくすんだ。
「何でこんなところに壁があるんだよ。しかも低い。もっと高かったら気づいたのに!」
「ここはちゃんとした入口じゃなかったってことだね」
「大和気を付けろよ」
「そんなに言うのなら、優馬が先頭を歩いてよ」
大和の強い要望で建物までは目と鼻の先なのに先頭を優馬と変わることになった。
「俺は大和みたいなヘマはしないから大丈夫だぞ」
「くそー。もう1回段差こねえかな」
「2人ともまだ入ってもないのに言い争わないでよ」
「優馬が悪いだろ」
「大和がヘマするからだろ」
「何だって!」
「もう2人とものその辺にして。肝試しに来てまで喧嘩しないでよ」
この2人とはよくつるんでいるのだが、犬猿の仲でもないのに大抵いつも言い争いが生まれる。そしていつも僕が言い争う2人の仲介役だ。毎度毎度、本当に疲れる役だ。
「着いたね」
優馬が河村病院の扉の前で立ち止まってそう言った。
「中に入る?」
扉についてあるガラスから中が少しだけ覗けたが、中はひどく荒らされていて僕は怖気ついていた。
「ここまできて入らないとかないだろ」
大和は乗り気だった。
「まあ、俺も嫌々だったけど、せっかくここまで来たのに入らないなんて選択肢はないな」
「だよな!」
こう言う時は何故か、いつもは言い争っている大和と優馬が意気投合をするんだ。そんなお陰でこの2人は、今の関係を続けられている。僕にとっては迷惑な話だ。だが、嫌なことばかりではない。2人とは学力も部活も同じで話が合うのだ。中学時代に友達が少なかった僕に話しかけてくれた大和は親友と言ってもいい存在なのだ。そんな大和の友達が優馬で、優馬とは話しているうちに勝手に仲良くなったのだ。今となってはいい思い出だ。
「それじゃあ入ろうか」
優馬がゆっくりと扉を開けて1番に中へ入って行った。僕も優馬に続いて中に入った。大和が中に入ると、扉が勝手に閉まり大きな音を立てた。
「大和、ゆっくり閉めてよ」
「ごめんって。勝手に閉まるとは思っていなかったから……」
「壊れてないのが不幸中の幸いかな」
「その時はどこかの窓を割って帰ればいいじゃん」
「普通に開けて帰ることはできないの?」
「開かないかもしれないだろ」
「そうかもしれないけど……」
「そんなことより先に進もう。時間がなくなってしまう」
「そうだな」
優馬が先頭を歩いてまずは1階の捜索を行うことにした。
「見ろ。ここの案内図だ」
「2階までしか載ってないってことは、3階は住居とかだったのかな」
「そうかもしれないけど、とりあえずは1階の捜索だな。この先に噂の診察室があるらしいから、まずはそこに行ってみようか」
「いきなりだけど、そうだね」
僕らは診察室に向かった。道中、何の紙かは分からないけど無数の紙が床に散らばっていた。それを踏むのも気が引けるけど、この道しかないから致し方ない。
診察室に到着し、優馬が丸いドアノブを捻って扉を押して開けた。
「うわっ。ベッドがある」
僕も中に入ると、そこには「うわっ」と確かに言いたくなるくらい錆びてボロボロになったベッドが置かれてあった。
「このベッド、寝たら壊れそうだな」
「変なことはしないでくれよ、大和」
「んなことしねえよ。単なる感想だよ」
「そうかそれならいいんだが……絶対に乗るなよ」
「乗らないって! 俺ってそんなに信用ないか?」
僕は優馬と目を合わせた。
「うん」
「ない」
「8年も付き合いのある友人の言葉がそれか」
「逆に8年の付き合いがあるからこその言葉だよ。大和いいとこも悪いとこも知っているから出る言葉だよ」
「渉〜。いいこと言ってくれるじゃん!」
「全然褒めてはいないんだけど……」
楽しく会話を続けていると、突然大きな物音がした。
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