河村病院跡 第1話

 これは僕が大学2年の時の話だ。

 夏休みに暇を持て余していた僕らは、県内でも3本の指に入る心霊スポット河村病院跡に肝試しに行こうと言う話になった。肝試しの参加メンバーは、僕に中学からの友人である、室井優馬と三河大和である。この三河大和が、河村病院跡に行こうと言い出した張本人だった。

 河村病院跡に肝試しに向かう前に、ネット上にある肝試しに行った人のブログや噂や伝承を纏めてあるサイトを3人で調べ上げた。噂や伝承を纏めているサイトには、診察室のカルテを持って帰ると夜中に病院から電話がかかってくるや、手術中に亡くなった患者の霊が手術室に取り憑いているや、夜な夜な病院に勤務していた看護婦が廊下や病室を徘徊していると言うことが書かれていた。実際に肝試しに言った人のブログは、肝試しというより廃墟探索がメインであって、心霊現象を実際に体験している人は見つからなかった。

 だから、何も起きない。そう思い込んでしまっていた。

 話し合いの結果、決行日時は夏休み真っ只中の8月15日。夜中に行くのは怖いからと、夜の10時から1時間くらいを予定していた。河村病院跡は山の上にあり、古く廃れた道を通らないと行けないのでじゃんけんで負けた僕が代表して車を出した。

 

「本当にこの道で合っているの?」

 

「俺のスマホのナビがこの先にあるって言っているから大丈夫だ」

 

「大和が自信持って言っている時って大抵間違いだから怖いよ」

 

「そんなことはない。ちゃんと大学受かっていただろ」

 

「それはそうだけど、僕はいまだに忘れてないからね。大和が自主勉ノートしなくていいって言ってたのに、本当はしなくちゃいけなかったこと。あの時の居残り地獄だったんだから」

 

「それはちゃんと話を聞かなかった渉が悪いだろ」

 

「仕方ないだろ。あの時熱出して途中で帰ったんだから。大和に宿題のこと聞くのじゃなかったってめっちゃ後悔したわ」

 

「あれそうだったけ?」

 

「自分の都合のいいように記憶を改変しないでよ」

 

「まあまあ、いいじゃないか」

 

「ちっとも良くない! 優馬も何か言ってくれよ」

 

「俺は初めから信用なんてしてなかったから、困ったことはないかな」

 

「ひっど、何それ。初めて聞いたんだけど」

 

「初めて言ったから当然じゃん」

 

「え? 優馬ずっと俺のこと信用してなかったの?」

 

「ああ、そうだよ。だって練習メニューの改変何度もしてたじゃんか。あれは信用無くすよ」

 

「あれは違うんだって! 初めはちゃんと覚えているんだよ。走ってみんなの所へ行っているうちに記憶がなくなるんだよ」

 

「まあ、そのお陰で練習メニューの伝達は紙を使われるようになったから、楽になったよな」

 

「確かに。僕も何回か忘れたことあって、必死に思い出していたのが楽になったよ」

 

「それなら2人共もっと俺を崇めろよ」

 

「それはできないな」

 

 優馬がそう言った。

 

「なんでだよ」

 

「なんでかって言うとだな、大和が練習メニュー忘れるたびに外周3周増やされていたんだから、恨みしかないよ」

 

「あーあ、確かにそんなこともあったな」

 

「しらばっくれるな」

 

「ごめんごめん。いやーほんとに悪かったよ。まあ、今となってはいい思い出だよな」

 

「何にも良くないんだが」

 

「本当だよ」

 

「もう昔のことだからいいだろ。それよりも今に集中しようぜ」

 

「本当都合のいいやつ」

 

「まあ、大和らしいちゃ大和らしいよ」

 

「なんか馬鹿にされている気がする」

 

「全くもってその通りだよ」

 

「それよりも大和。この道まっすぐでいいんだよな?」

 

「ああ、俺のスマホのナビによれば、もう少しで目的地に着くらしい」

 

「それ本当か?」

 

「本当だって!」

 

「でもずっと同じ道を走らされている気分だよ」

 

「そうだよ。景色何にも変わってないぞ」

 

「仕方ないだろ。河村病院は山奥にあるんだから」

 

「それにしても山奥すぎない? 結構走っていると思うんだけどな……こんなに遠くにあるのだったら人も来ないんじゃないの?」

 

「本当だよ。別の場所に向かっているんじゃないのか?」

 

「昨日調べた時にだけど、昔はこんな山奥にでも人がたくさん住んでいて、河村病院も町で1番大きな病院だったって書いてあったぞ」

 

「大和が言えば信憑性が薄れる」

 

「なんだって!」

 

「まあまあ、2人とも落ち着いて。と言うか、この狭い車内で大声を出さないでよ」

 

 僕が運転している車は軽自動車なのだ。だから、車内で騒がれたらうるさくてたまらない。

 

「それもそうだな。まだかかるのだったら少し仮眠を取るから、着いたら起こしてくれ」

 

「おい、優馬まじかよ」

 

「まあいいよ。優馬は初めから乗り気じゃなかったし、休ませてあげようよ」

 

「相変わらずのお人よしだな、渉は」

 

「言うてそれぐらいしか取り柄がないからね」

 

「そうでもないと思うぞ」

 

「大和くせに、たまにはいいこと言ってくれるじゃん」

 

「たまにはってことないだろ」

 

「ははっ、大和だからね」

 

 そんな会話を続けながら山道を登って、開けた場所に出てきたと思えば、草木が生い茂った荒れた土地にポツンと1軒、廃れて草に覆われたコンクリート製で作られた3階建ての建物が突然現れた。

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