第21話 クレハ様は心配してる
〈クレハ〉
「皆さん!サラザンドに向かう日が来ました!」
国王代理から魔王と連絡できる魔道具を用意してからそこからはトントン拍子で話しが進んだらしく。このクレハ達がいなくても魔王からサポートがもらえるらしい。
西は思い出がある分戦争の被害にあって欲しくない気持ちはあるけど、北も攻められたくはない…。
魔王と国王代理に温泉地帯の素晴らしさを伝えて霊峰としてこのクレハ様の教会を建てる予定だからだけど…まぁ優先順位は一応低くしておいた。
最悪魔王の領地から行けるようにしてくれればグランディアの住民全員温泉送りにしてそこに国を新しく構えれば良い。
「とうとう来たって感じか!俺らはいいとしてジャルダンとフェルメルはどうするんだ?」
「クレハ様の騎士だから連れて行きたいと思いましたが、山羊の方は戦闘力に欠けてるので馬騎士…ジャルダンだけは連れて行きます」
「おぉ!クレハ殿に名前を呼ばれたぞ!フェルメル!」
「私は…山羊のまんまですけどね…」
ごめん、フェルメルって噛みそうなんだもん。帰ったらちゃんと呂律を鍛えておくからそれまで我慢してほしい。
とにかく、サラザンドに行くのはこのクレハ、レオン、セナ、ギン、ジャルダンとヴォルグハイエンだ。
5人と1匹なのか4人と2匹なのかは定かではないが、6人もいれば十分だろう。
「それでも僕たちはパラシフィリア教会が企んでることを探るんだよね?それならこの人数じゃ足りないんじゃないの?戦闘になった時はサラザンド国そのものも敵になるかもしれないし」
「なるかもではなく、なるでしょうね。魔王ももう戦争は避けられない物として捉えていましたから。故に変装をしていきます」
さすがに無策で敵の懐に行けばこのクレハ間違いなく一番最初に死ぬ。ヒーラーは真っ先に狙われるだろうし。
なにより明らかな魔物と思われて仕方ない魔族たちは明らかに人外の見た目をしてるのだから変装は必要だろう。ヴォルグハイエンはそこら辺を散歩してもらうことになるけど…。
「とにかく!変装は大事です。それに南は暑いと聞きますし服装も今のままではだめでしょう?ただでさえグランディアでもこの季節は暑いのに更に暑いとなれば死にます!」
ギンには戦士として鎧がどうしても必要そうだから暑いのを我慢してもらうが、レオンとセナには新たなる服装を渡す。
「えっとクレハ?私の服露出多くない?」
「そういうものです。魔力が漏れないようにしたかったですが羽衣でなんとかする程度しかできなかったです。真面目に暑いので着た方が良いですよ」
「僕のも露出は多いけど、僕は鎧を脱ぐの?」
「レオンは神託で名指しされたので顔もこのターバンで隠します。このクレハも髪を纏めて修道服をアレンジしたものを着ます」
なんかギンが物欲しそうに見てるし余ってるターバンでもあげるか。ジャルダンにもその頭をどう隠すべきか悩んだが伝染しない持病で顔を見せられないとか言い訳を用意して行く。
「で、そのクレハはどんな修道服なんだ?はっきり言って一番目立つのお前だろ」
「ふっふっふ!あーはっはっは!今着替えるから待ってなさい!」
そう、このクレハは兼ねてより修道服のデザインは一種のブランドと思っていて大事だとは思っているのだがワンパターンすぎるのもつまらないと無駄に作らせてはいたのだ。何着か。
その中でも暑い場所に行くならこれだろうという修道服に着替えて再度みんなのいるところに出てみればレオンが鼻血を出しながら見てくる。
「見なさい!この日焼け防止用に備えた見事な衣装を!スカートから先はスリットを入れて足が出るようになっているがぱっと見は修道服!肩や腕を空気が入って涼しむために用意した露出はしてるけどちゃんと袖はあるし清楚さが保たれた一品です!」
「え、私もそっちの方がいいな。私も修道服の変装にしてくれない?こっちよりは恥ずかしくないし」
「そうですか?たしかにへそ出しはセナじゃ厳しいですかね?この世界あまりそう言うファッションないですし」
サイズは仕立て直さないとできないがセナがそう言うなら仕方ないか?
「いや、俺はセナはそのままでいいと思うぜ?修道女二人も連れて戦士三人だと変な目で見られないか?」
「うっ…じゃあ私はこの下着みたいな服装で過ごすべきなのね…」
「だ、大丈夫ですよ!羽衣をつけたことで清楚ですから」
ギンの言うことも一理あるので、一緒に説得して納得してもらう。それはそうとレオンはさっきからどうした?血の量が尋常じゃないぞ。
「ク、クレハは本当にそれでいいの?」
「はっはー?さてはこのクレハがチラリズムするかと不安なんですね!安心しなさい!見た目的にがっかりさせてしまうかもしれませんがホットパンツを履いてます!」
そうしてスリットから見せてやれば気のせいじゃなければ鼻血の量が増えた気がする。
でもなぁ、なんかダサいよなぁ修道服の下がホットパンツって…まぁ仕方ないけどさ。
「クレハ殿の言うことはわかるのだが、結局ヴォルグハイエン殿に乗せてもらうなら目立つのではないか?」
「はい。なのでヴォルグハイエンにはサラザンドを襲ってもらいます」
「「「「は?」」」」
「そしてその混乱に乗じて入国したのちに二か月後にヴォルグハイエンが再度迎えに来るようにしてもらいます。緊急事態でこのクレハ達がいなければそのまま北上して帰り道にいないか探してもらうつもりですが。まぁそれはなんとかなるでしょう」
『二か月の間は帰省してもいいのか?』
「はい、奥さんにも悪いですしそろそろ卵も心配です。一度帰ってあげてください」
そういえばドラゴンてどうやって交尾するんだろう?なんて思ったけど、深く考えたらロマンが消えそうだし、コウノトリが卵を運んできたとでも思おう。
「作戦は以上!解散です!」
「いや解散したらだめじゃない」
みんなでよいしょよいしょとヴォルグハイエンに乗って久しぶりの空へ飛び立つ。
***
南に進めば、そこは中央より食生態系が違うのか暑くなるのに順応してるのか自然が多い。
自然と言えばこの世界って建築物西洋風なのが多いけど和風の建築物をメインに魔王に計画書に書いたけどちゃんと伝わっているだろうか?このクレハは西洋でももちろん良いのだが旅館はせめて和風でお願いしたい。
まぁ…イラスト書いてるし上手く伝わってくれ!
『いつもの町巡りはどうするのだ?』
「さすがに敵にばれるかもしれないですし、さっさと行ってさっさと解決しちゃいましょう」
ただパラシフィリア教会がサラザンドから広まったとしても総本山は別の場所なんてなったら意味無いけどな。
教会にいる時はどこにでもあるイメージくらいしかなかったけど、どういうシステムなのかそんな深いところは神父にでも聞かないと分からないかもしれない…いや地方神父でも分からないか。
「皆さんはパラシフィリア教会について知ってることはないんですか?」
「僕はない…というか魔王が一番詳しいはずだから実際それ以上のことは知らないかなジャルダンは知らないの?」
「うぅむ…そこまで長く生きたわけではないが、教会が関わると戦争が長引いて脅威ということは感じいるところはあったが。やはり魔王様の情報頼りではなかろうか?」
まぁセナが胡散臭いってずっと言ってたし、悪い噂とか程度くらいしかないのだろう。
それにしたってパラシフィリアを信奉して人々に奉仕活動をしてるってだけ聞けばぱっと聞きは良い印象しか持たないと思うんだけどな。
「悪い噂とか、人間的におかしいみたいなものとかはないんですか?」
「私はそもそもお金とかもらって何に使ってるのか分からないところが怪しいとは思ってたわ。だってグランディアに限らず人間のいるところからお金貰ってるし教会建ててるしどれくらいのお金がいってるか分からないんだもの」
「それはまぁ…おかしいですね!怪しいです!」
ちょっと自責の念というか、ちょろまかしてきた今までのお布施がセナにばれたら冷たい目で見られるかもしれない。良かったレオンにだけお金持ってるのバレて…あとで喋らないようにしてもらわなければ。
そういえば国境を隔てる壁とかなかったけど攻められたらやばいんじゃないのかな?逆にも言えることだろうけどグランディアって魔王と最前線で戦ってただけなんだよね?
鬼婆にもう少し聞いとけば良かったな。孤児院で悪印象しかなかったけどなにかと聞けば答えてくれてたし雑な扱いはされたと思うがそれなりに良い人だったのかもしれない。霊峰クレハ教会が出来たら迎えてやろう。
『クレハ、一つ言っておくことがあるが。我が襲ったとしても降りる場所は選べぬぞ?』
「大丈夫ですよ、死なない限りは治せますから」
このクレハがそう言うと後ろから生唾を飲み込むような音が聞こえた気がするけど気のせいだよね。
***
〈ギン〉
正直クレハの作戦がそんなに上手くいくとは思ってないが。教会に関してだけ言えばクレハの言う通り上手くいくかもしれないとも思う。
つまり問題はクレハ以外の俺たちがどうやって情報を集めるかなんだが…レオに関してはもしかしたらクレハについて行くかと思ったがちゃんと別行動するらしい。
セナは一人にしておくと危険ということでジャルダンと共に。俺は酒場巡りかねえ?
もし分かれても集合場所はサラザンドの北にある道程で合流と言うが。クレハに関してはそのまま教会で寝泊まりするかもしれないので実質俺たちが全員合流できるのはクレハの合図頼みだ。
それらしい国も見えてきてそろそろかと身構える。
『もうすぐ着くが、全員無事を祈る』
「ヴォルグハイエンも気を付けるのですよ!反撃喰らったらブレスで抵抗していいですから!」
そもそも先制攻撃がヴォルグハイエンが行うわけだから向こうが反撃なのだけど、クレハからしたらブレスを受けた被害者がいれば治すつもりだろうからそんな気はないのだろう。
呼吸を一瞬止めるようにヴォルグハイエンが身を強張らせて、その後に近づく城下町に俺たちは飛び降りる。クレハはレオが。セナはジャルダンが抱えているから多分大丈夫だろうが骨は折れたら嫌だなと思いつつ地面に不時着すればくそいてえ。
そう思うのも一瞬でクレハが全員に回復魔法を飛ばして治り、ヴォルグハイエンを見ればわざわざ城に向かってブレスを吹いてる。周りでは民衆が阿鼻叫喚だがそんなことお構いなしと言わないばかりにクレハは全員に一言だけ言う。
「生きることだけ優先しなさい」
随分大事に扱われたものだ。以前ならもっと堂々としてるだろうに作戦が作戦なだけに名乗りも無ければ激励もない。心配だ。
「言われるまでもねえ、元より死んでたかもしれねえ命だ。大事にするぜ」
「むしろクレハの方が心配なのよね」
「僕たちもそろそろ分かれた方がいいよ」
ジャルダンは喋れば口先の部分が人間ではおかしい場所が動くから喋らず頷いて同意して全員で散り散りに分かれる。
***
「急に襲ってきたドラゴンがすぐさま飛んでいったんだよ!」
「あれはビビったな!町に炎を吐かれなくて本当に良かったよ!」
酒場に行けば基本的には今日の話題で持ち切りなのだが、俺としては別に原因だからそれは気にしてないんだが、むしろ飛び降りた奴を見てないかだけが気になる。
「お客さん他所からきたのかい?」
「ああ、俺は傭兵でね。グランディアがきな臭いってんで来たんだけどドラゴンが来たというから参ったぜ」
エールを一杯差し出されて応援の意味を込めてサービスだと言われた。どういう意味だ?
「サービスされることしちゃいねえと思うが?」
「知らずにここに来たのか?グランディアが魔王軍に落とされたから戦争って神託だよ」
「そうか…グランディアはそんなに弱かったのか?」
「分からないが勇者が裏切ったとかそういう話は聞いたかな?神託も当てにならないもんだよな」
こっちではそうなってるのか。だとしたらクレハの言う通りレオの顔を隠しておいて正解だったかもしれねえな。
「実は田舎から来たばっかでよ、サラザンドのことあんま知らねえんだわ。もう一杯貰うから教えてくれよ」
「田舎でも聞いたことある程度の事しかないと思うぞ?グレファス教皇が神託を授かって基本的にはその通りにしてるくらいだから田舎にも神官が出向いてるだろ?」
「ほとんど眠っちまっててよ。いざやる気出したらこうなってた感じだ」
「どんだけ眠ってたんだよ!おもしれえ奴だな。神託で魔王を討伐するための勇者が選ばれたのは知ってるか?」
ほかでもない俺たちのことだろう。そこは分かる。
「それが裏切ってグランディアが落ちたんだろ?その後か、そもそも神託が来る前はどうなんだろうなってな?」
「その後は神託で魔王の手に落ちたから徴兵してるとか、その前って言われてもグレファス教皇が神託受けるまで基本的に何も知らんよ」
なんだ?なにかおかしいぞ。
さっきからサラザンドの動きを聞きたいのに教皇というからには教会の動きしか教えてもらえない。
言い方が間違えたりでもしたのかと自分を疑うが。もう少しはっきり聞くべきか。
「サラザンドの国はどう言ってるんだ?」
「いつの話ししてんだよ、サラザンドはもう教会の物なんだから国王も今じゃお飾りだぞ」
「あぁ、いや…国王はどう考えてるのかなってな?気になるだろ?」
そんな話聞いたことねえぞ。てことはグランディアを手中に収めようとしてたのは初めてじゃないってことか?
「今じゃ顔も出さなくなったから分からんが。仕方ないだろうな、まだ赤ん坊の時に前の国王は死んだんだから」
「…今の歳はいくつだっけか?」
「まだ15のはずだぞ?」
そりゃあセナが胡散臭いって普段から言うもんだ。胡散臭いってレベルじゃないだろ。俺じゃ手に負えないし、これ以上聞いても教皇が国を動かしてるならここの国全体傀儡となってる状態だ。
「そういや傭兵さんはどこを攻めるつもりなんだい?」
「おん?グランディアだけじゃないのか?」
「グランディアと魔王国同時に攻めると聞いてるけど…まぁグランディアの方が安心か、魔王城を攻めて生きて帰れるとは思えないしね」
これ止めれるもんなのか?俺には分からんが聞けることは多分聞けただろう。
「もう一杯くれよ」
「腕が立つんだね。儲かってる証拠だ。あいよ」
グランディアと比べて若干苦みが増してるが、逆に苦さで目が覚めてちょうどいいかもな。
クレハはどう動いてるのかねえ。
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