第22話 クレハ様は偽名名乗る

〈クレハ〉


 普通であっては駄目だ。そうクレハ様が敬われないと駄目だ。そこを大前提にしてもう一度。


 普通であっては駄目だ。


「グレファス教皇より本日の神託はお城の清掃です」

「「「畏まりましたパラシフィリア様へ感謝を」」」


 口パクだけしておいて済ますけど、なんだここは。正気を疑いたくなるほど修道女も神父も頭がいかれてる。


「ロザリー。君はまたそんな修道服を着てるのかね?」

「はっ!このロザリーはあえてこうすることでパラシフィリア様へ忠実な下僕であることを強く見せたいと思っております!かのパラシフィリア様はまさにこのロザリーの憧れであり尊ぶべき最高到達点!日々精進しなければ追いつけることなど微塵もおもえ――」

「もういい!分かったから…しかし皆の示しにつかないから城からは出ないように」

「はっ!」


 適当な偽名にしてロザリーとか名乗ってるけど、このクレハが教会探してたらあれよあれよと教会を聞くたびに城を指さされて、来たらこの有様だ。


 修道女と一緒にヴォルグハイエンが壊した城を清掃して、恨み言でも言ってやりたいがブレスを吹けと命じたのもこのクレハなので何とも言えない。


 しかしまたなんでお城に教会が住んでるんだ?


「ロザリーはどこから来たの?肌綺麗よね髪もだけど」

「このロザリーは神の道導に従ってパラシフィリア様を追いかけていたらついこの地にたどり着いてしまったのです!まさに神の意思を感じました!」

「あ、あはは…うん。そうねー」


 とりあえず追い払ってなんとかこの場を誤魔化すけど、パラシフィリアを褒めてるのにあんまり仲良くなれないのはなんでだ?

 一応パラシフィリア教会のはずなのに全員信仰心が薄い気がする。


 このクレハがグランディアの田舎にいた時の方が信仰深いのだが…やっぱり薄々と予想はしてたけどこのクレハと同じ考えでパラシフィリアを敬うより自分をって誇示した奴がいるんだろうか。


 ただそれに会いたいとは思ってもそれらしい姿をこの城で見かけない。


「ちょっとそこのお方、このロザリーは聞きたいことがあります」

「え?わ、私ですか…?」


 出来る限り気の弱そうな子を選んで話しかけるとすごい目線があちこちにいって挙動不審…まるでこのクレハがいじめているみたいじゃないか。


「教会に来て間もない迷えるこのロザリーに教会の事を教えてください」

「え、えぇ…あの、えと…」


 どうにも歯切れが悪いな。もしかしてやましいことでもあるのか?仕方ないので小声で話すか。


「ここでは話せないことですか?」


 聞けば首を縦に振るからやましいことなのだろう。仕方ないので休憩時間になるまでは清掃に力を入れるか。浄化使いたいけどみんな手作業なんだよなぁ…目立たない程度に使っておくか。


     ***


「それでどうなのですか?」


 休憩時間になって手を掴んで無理やり部屋に連れ込んで聞くのだけどおどおどしてて小動物みたいに怯えてる気がする。あぁ…名乗りてえ。名乗ったらこの子も跪いてクレハ様と懇願するんだろうなあ。


「その…ここではパラシフィリア様を一番上にあまり…言わない方が良いです…」

「何故ですか?パラシフィリア様を疑うのは万死に値するのでは?」

「…グレファス教皇のみがパラシフィリア様と話せるお方だからです…」


 はて?神託ってパラシフィリアが修道女を選んでやってるんじゃないのか?あれかな?巫女的な?いやそれなら聖女が本来その役割だよな?まぁいっか。どうせ適当抜かして仕切ってる奴なんだろ。


「このロザリーは不思議なのですけど、パラシフィリア様を尊重するとその教皇は怒るんですか?」

「その、勝手な妄想を立てるなと…怒鳴ってきます…」


 これはあれか独裁国家みたいに独裁宗教を立てようとしてるのか?別に誰が誰を信じようが自由だろうに。


 でもあれだな。この調子で行くとこのクレハが神託が来たと言っても信じないかもしれない連中しかいない。いつものノリで行けば牢獄行きか…なんかグランディアでも同じようなことがあった気がする。


「ロザリーさんはどうするつもりなんですか…?ここに来てもパラシフィリア様は何も答えてくれませんよ…?」

「このク…ロザリー!が全てを解決しなければならないのです。貴方だけには伝えておきましょうか、実は神託がこのロザリーにはあったのです。真の光の大聖女クレハ様こそ絶対にして唯一の聖女オブ聖女だと」

「え、あれ?聖女ってセシリア様じゃないんですか…?」

「あぁ、知ってるなら早いです。その人も今ではクレハ様の見習いとして雇われました」

「えぇ…」


 これだけは真実なのになぜか反応が薄いな。しかしあの見習いが聖女扱いされてるのにここにはクレハの威光が届いてないのか。それともその教皇が煩わしいから噂そのものを消したのか?


 どっちにしても許し難い行為だな。人間の所業じゃねえ!


 暴動を起こすことも考えたけど、ここまで他勢力の新興宗教が絡んでるとなるとクレハ様を布教できないし…あぁ!考えるのが面倒くさいから名乗り上げたい!


「その、ロザリーさん…もういいですか?」

「あ、大丈夫ですよ。ただ今後聞きたいことできたらまた声をかけますね」

「ひぇっ…は、はい」


 そんなに怯えなくてもいいだろうに。このクレハ何もしてないぞ?


 しかしまぁきな臭いとは思っていたが真面目に怪しい宗教団体になってしまったな。他の人の話しも聞きたいし、合流もしたいが。どちらにしても教皇とやらがせめて見た目だけでも知りたい。


 普段どこにいるんだ?もう少しここで暮らせばいいかとも考えるがそしたらレオンたちが早々に合流して行動するかもしれない。


 一応このクレハが先導する役割ではあるけど、せめて無事だと合図できればいいんだけど。まさか教会じゃなくて城に住んでるなんて予想外だしなぁ…。


 ん?城なら国王がどこかにいるのか?探してみるか。


     ***


 適当にぶらついても構造は分かってもさすがにそれらしい部屋にいきなり入ると怪しまれるので神父か修道女を見つけたら聞いてみて進んだら城の離れまで来て、小さい小屋があるところまで来てしまった。


 国王はあれか。ミニマリストというかこじんまりしたところが好きだからここにいるのか?


 こんなところに住んでるなら世話をする人間もいるだろうし、このクレハが来ても違和感はそこまではないだろうと思いノックをしてみればしゃがれた声が中から聞こえる。


「どちらさんだい?」

「このク…ロザリーは修道女なので国王がちゃんと健康に過ごしてるか確認しに来ました」

「さっき別の子が来たから不要だよ」

「この目で確かめなければならないこともあるのです!そう!例えばこのロザリーが見ることによって元気になるとかイマジナリーフレンドが出来るとか色んなご利益があります!」


 もっと何か壮絶なことを話そうと思ったら案外素直に出てきて。お婆ちゃんがいる。


「貴方が国王ですか。女王制だったんですねサラザンドは」

「そんなことも知らないで来たのかい…?坊ちゃんは、サラザンド14代国王は昼寝中だよ」

「なんでまた昼寝してるんですか?国王なのだから忙しいでしょう?」

「…新人かなにかかい?それにしたってこの国を知らないなんておかしいね」


 なにこのクレハに訝しんだ目を向けてきやがる怖いだろうが。普通に怖いだろうが!


「安心してください。このロザリーは口が固いことで有名です。どんなことをされようと何も話さずそして永遠に!たとえ墓に入った後でも口外しないほどに口が固いのです」

「むしろあたしがあんたのことを他国の間者だと言えば困るのはあんただろうに…」

「そ、そんなことを優しい貴方がするわけないじゃないですか!このロザリーの愛くるしさに少しでも情が動かないんですか!このロザリーの!熱意を信じてください!」

「まず口外して困ることなんてないよ…まぁ、中に入りな」


 なんだちゃんと入れてくれるんじゃん。無駄に話して損した。


 中に入れば個室があるであろうドアが三か所と居間、キッチンまであるなんて食事も作って食べて城に行くことが無くても言い様にされてあるのかな?


 それなら三部屋の内一部屋はトイレか風呂か?昼寝してるのは残り二部屋のどっちかになるな。


 案内されてテーブルの椅子に着席してお婆ちゃんがお茶を入れてくれるのでありがたくもらう。


「それで何しに来たんだい?」

「いや国王なら教皇のこと知ってるかなと思ってきたんですけど」

「…よそ者って開き直ったのかい?」

「元々否定はしてませんよ。どうせこの服装してる時点で大半の人はよそ者って知ってますし」

「まぁそうさね。そこまで目立つ服装してる修道女なんて見たことないからね」


 ここの国の修道女も暑いだろうに揃いも揃って黒い厚手の修道服を汗を掻きながら着てるから驚きだ。

 一応変装用にこのクレハも目立たないように黒に金糸や赤色を混ぜた修道服で地味にしたつもりなんだけど案外オシャレみんなしないんだな。


「教皇の何が知りたいんだい?」

「全部ですかね?そもそもなんでお城に住んでるんですか?パラシフィリア様が聞いたら嘆きますよ?」

「そのパラシフィリア様とやらが神託を授けてグレファスの野郎が今では実質国のトップだからだよ。先代王は不明の病で倒れそれもまた神託で予言されたことだとさ」

「へー。じゃあ今は新しい王様なんですね。あ、ちなみに神託で予言とか普通に無理なんでそいつ嘘つきですよ」

「んなことは知ってるよ。ただ先代王があまりにもグレファスの神託が当たるもんだからかなりの待遇で扱われてたのさ」

「それで野心持っちゃった系ですか。中々教皇は頭が回るんですね、普通に神罰の対象ですけど」


 さっきからわざと教皇嫌いアピールしてるからか中々にお婆ちゃんの口が回って話してくれる。


 そもそも元から愚痴りたかっただけかもしれないけど。


「神罰なんてものがあるんならとっくにきてるだろうさ。先代が亡くなってからはこの14年は教会とサラザンドの権力を好きに使って遊んでるんだから」

「ちなみに14代国王ってことはちゃんと王位継承してるんじゃないんですか?今の国王は何も言わないんですか?」

「元々当時はまだ生まれたばかりの赤ん坊だったからね。それに今でもあたしが教育しちゃいるが、グレファスの圧力で飾りだけの名ばかりの王だよ…」


 てことは14歳か15歳なのか。どっちにしても思春期だろうし、野心なんか芽生えてもおかしくないと思うけど大人しい子なのかな?


 しかしなるほど。歴で言ったらこのクレハが聖女を名乗り出してからよりも随分前から行動してたみたいだ。


「ちなみに教皇は何歳ですか?」

「知らんよ。ただ60は過ぎてるだろうね」

「それじゃ権力を好きに使ってると言うのはどんな風な横暴をしてきたんですか?」

「見て分かんないのかい?正式な国王をこんなところに住まわせて、サラザンドを手にしたと思えば税を無くす代わりにお布施を半強制的に貪る寄生虫だよ」


 税と言えば国のために使わなければいけないから?どっちの言葉でもいいような気はするが。


「どっちも同じような物じゃないですか?」

「違うよ、税なら正当な所有者は国を治める者に渡る。つまりは国王と大臣が采配して貴族や領地を授かってる者、兵士なんかも雇ったりと秩序を保たなきゃいけない。それをしないで自分の私兵を集めるがためにお布施という自分の資金を集めて大半の貴族もあいつの…教会の回復魔法にあやかりたいがために言う通りにする木偶の坊どもさね…」


 てことはお金に困ってる…?町の様子はあまり見てなかったけどそんな苦しそうにしてなかったっぽいいけど。ただそれは表で実際はスラム街みたいなものが出来てるならクレハ的には都合がいいのだけど。


 そうすれば恩を売れる。ただ権力がいまいちわからない。元々グランディアは風前の灯火だったところにこのクレハ達が駆け付けたという運が良かっただけの顛末だ。


 魔王に関してもそうだが、このクレハは運で生きてる。あとは神々しい可愛さか。

 何か付け入る隙全然ありそうなんだけどなー。


「その中でも王権復興派と反対派、中立と分かれていませんか?」

「そりゃ分かれるさ。それでも回復魔法の恩恵は大きいものだから大半は従うしかないのさ」

「回復魔法なんて誰でも覚えれるくないですか?」

「それも才能だろうね。あたしは分からなかったけど分かる人には分かるらしいさ。効果は人によって変わるし、それでもグレファス以上の回復魔法は見たことないから分からないけどね」


 つまりここでも実力至上主義みたいなところはあるのだろうか?それならこのクレハの独壇場で済むけど…ただこの国を統治とかが出来ない以上本来の王様を頼りたいのだけどお昼寝するくらいには政治に興味はないようだし。


「もし現状が打破されるようなことがあれば国王はグランディアと戦争しないですか?」

「…てことはそこから来たのかい?グランディアはもう滅亡したと聞いたよ」

「魔王軍と同盟を組んで世界平和を企む組織に変わりましたね。今では神聖グランディアを名乗ってます」

「グレファスはおかしいような未来も言い当ててくる…その話が本当だとしても魔王の手のひらの上じゃないのかい?」

「むしろグランディアに住む光の大聖女クレハ様に平伏してもう言うこと聞かざるを得ないと言った感じですね。大聖女クレハ様のために神殿を建てるとも言ってました」


 ちゃんと教えたつもりだけど満足しなかったのか溜息を吐きながら茶を飲んでる。


「それが本当だという証拠がないじゃないか?」

「それはつまり証拠があれば動く…ということですか…?」

「そうしたら多少はあたしからもサラザンド…ベルド・サラザンド陛下に口利きしてやるよ」

「もう!それならそうと言ってください!タイミングを見計らっていたこのクレハが馬鹿みたいではないですか!そう何を隠そう噂に名高く天よりも高いそれはパラシフィリアの化身とも言われている光の大聖女クレハ様とはこのクレハの事なんですよ!」


 すっきりしたしヒールでもかまして、部屋中浄化で綺麗にしてやろう。感謝しろよ。


「…魔王はどうやって説得したんだい?」

「友達になろう?って言ったらなってくれました」

「ふざけてんのかい?」

「大体そんな話でしたよ?あぁ多分パラシフィリアっておかしくね?って話したら乗り気で話してくれました」


 他にはなんだろうか?これと言って…あぁ計画書をドサッと出してあとは国王代理に任せたからあんまり記憶にないのか!


「あんたが何を企んでるか知らないけどグレファスは今じゃ神みたいな扱いだよ」

「独裁宗教なんてひどくないですか?別にこのクレハは対抗したいというより信仰は自由でできればこのクレハを信仰してほしいと思ってるくらいですよ」

「それじゃあ…まずは貴族共を懐柔するところかね。それがあんたに出来んのかい?」

「回復魔法を求めてるだけですよね?どこぞの教皇はこの国に14年間引き籠っていたみたいですけど、他国では普通にパラシフィリアを信仰してるのでやり方が中途半端だったことを後悔させてやりますよ」


 さっそく適当な人間に回復魔法をぶっかけ祭りしてくるかと思ったが待ったとばかりに首根っこを掴まれる。


「言ったろ?反対派もいるんだ。あんたが行動起こしたら打ち首だろう」

「ぐぇ…忘れてました。それじゃコンサート出来ないじゃないですか…」

「仕方ないからあたしがある程度手伝ってやるよ」

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