第16話 クレハ様は金を数える

〈クレハ〉


 魔王からは恐らく周辺諸国が戦争を確実に仕掛けてくると言われた。


「では四天王を二人ほど借りてもいいですか?」

「また。争う気なのか?」

「諸悪の根源を叩くしかないでしょう?」

「この戦いに義も悪も存在はしない。誰が仕掛けたわけでも…パラシフィリアか?」


 勇者の魔王討伐隊もよく分からない神託とかいうものによってできたことだ。それならパラシフィリア教会がなにかしら関わってるのだろうし、グランディアの領地を欲していたことも気掛かりだ。面倒くさいがここを潰さないと今後も難癖付けてくるだろう。


「しかしどうやって戦うつもりだ?相手は存在してるかも怪しい神だぞ?」

「そこが不思議なんですよ。今までパラシフィリア教会がやってきたことと今回魔王を討伐しろだなんてことおかしくないですか?それも最前線で戦ってるところに都合良く勇者もいて聖女も同じ領土にいる」

「パラシフィリアを騙って神託を行った者がいると?」

「やり方がこのクレハに心当たりがあるんですよね。なので神託の聖女に事情を聞いて行ってそこから情報源に行けば本体がいるはずです」


 聖女を広めたこのクレハと同じようにパラシフィリアという女神を利用して自ら発言力を高めればやりたい放題できるだろう。


 そもそも回復魔法の覚えさせ方が自らの腕を切って治してそれを覚えろと言うやり方。これは別に回復魔法の師を仰げば教会じゃなくてもできるはずだ。パラシフィリア教会というブランドを保つためだけに信徒を利用して回復魔法を上手く扱えるのが教会という印象操作だと思う。


「クレハはパラシフィリア教会の者であったのではないのか?何故自らの信仰する神を疑える?」

「そんなの決まってるじゃないですか。このクレハに神託が来たのですよ、騙る者を滅せよと。そうでないならこのクレハが何故この世界にいるのか?という話になります」


 適当に言っておいて、これからのことを考えるが魔王国でも案外人気が出てるものでグランディアと比べると少ないがクレハ様を信奉する者がそこそこなんだよなぁ…。


 そもそもなんだけど魔族と人間て子供とかできるのかな?ハーフになるのかな?DNA配列とか大丈夫か?


「ふっ…そこまで言い切るのなら真の大聖女であるクレハならなんとかしてみせるのだろうな」


 なーにが”ふっ”だよ!このクレハ様も真似しよ、そういうの雰囲気出ていいじゃん!


「このクレハ長生きではなかったですからね魔王に聞きたいのですがパラシフィリアという言葉が出始めたのはいつごろでどこからとか聞いたことないんですか?」

「その時は龍と友となり、ようやく魔物…いや魔族と魔王軍の内乱を治めたところであったが、私の記憶では南にあるサラザンドという国から徐々に広がっていたはずだ」

「名前的に悪そうな感じがするので敵対すべき邪神が集まってるのはそこですね」

「じゃ、邪神とまで言うのだな…」


 邪神だろう。戦争大好きな神様がいたとしても人間の神様ならもっと力を寄こせって話だ。中途半端にしてるからこんなことになる。核爆弾とか持ってますよーってならないと人間争いが絶えないものだ。


「では魔王は神聖グランディアの国王代理と会談でもしておいてください。このクレハ達は一度グランディアに戻り代理に伝えた後は南に向かいます」

「分かった。そしてその資料の最後のやつなのだがこれはなんだ?」


 ちゃんと全部に目を通してたのか…チッ、怠いな。


「霊峰に教会を建てるために温泉を掘り当てるべきと書いてあるが…これはなんなのだ」

「魔王よ、このクレハの言葉を疑うつもりですか?それこそ最も必要なものなのです。でなければ魔族と人間の争いはより過激になります」

「な、そ、そうなのか?しかしなぁ…」


 実際温泉なんてそんな簡単に見つかると思ってないし、旅館みたいなものでも先に立ててそこでゆっくりするでもいいから温泉を見つけて欲しい。


「代理戦争とかよりも優先されるべきと書いてあるからよほど重要なのだろうが…温泉なら一応あるぞ?」

「あるんですか!?」

「グランディアとフラムナードの中間から北にある山に温泉山岳があったはずだ」


 それは至急そこを拠点にしないといけないな。

 紙を貰って計画書を再度書き直して魔王に提出する。


「こんな感じの旅館を作れますか?」

「…出来ないことは無いが…道程がきつかろう?」

「グランディアのほぼ全ての民を使って開拓させます。建築作業の方は任せてもいいですか?」

「その間に寝首を狙われなければ良いがな…悠長にしすぎると攻め滅ぶぞ」

「魔王よ、貴方に王としての言葉を授けます。王とは民あっての王であり、国とは人あっての国なのです。グランディアが仮に滅びようともそこに人がいる限り新たなる国は栄えて行きます」

「心に留めよう…」


 別にグランディア無くなっても魔王軍に匿ってもらえばいいし攻められたらすぐに逃げるように伝えておこうっと。


     ***


「クレハあんたのことを色々思ってきたけど…ついに教会にまで喧嘩を売りに行くと言い出すなんて思わなかったわ」

「印象操作してるのがそこっぽいから先に潰さないと誤解が解けないままグランディアもフラムナードも戦争が終わらないですからね。行きたくないけど行かないといけません」


 ヴォルグハイエンは便利だなぁと思いつつ移動しながら皆に説明をすると魔法使いは相変わらず呆れてた。


「いいじゃねえか、魔王も賛成なんだろ?戦争を止めたし実質俺たちは英雄みたいなもんだしな」

「その通りです戦士よ!このクレハ達は見事にお役目を果たしたのですから!出るところ出してる場所に称賛の言葉を貰いに行くだけです!」

「いつも通りだな!」


 このクレハとて考えないではないが。正面から行けばパラシフィリアの真の聖女がいつでも神託を受け取れてない以上これが一番早い。


 本当に女神なんていうものがいればこのクレハに神託を寄越さなかったことを最大限不幸に思うのだな!まぁ…後ろを見れば四天王最弱であろう最初の馬面と山羊も四天王だったのか付いてきているのだけど…一応護衛になるかなと。


「聖女は真に漢気がありますな!」

「その…なんで私も選ばれたのでしょうか…」


 山羊の方は弱そうに見えるんだけどこっちが最弱だったりするのだろうか?

 でも目はちょっと怖いけどプルプルしててちょっと可愛いんだよな。声は渋いけど。


「このクレハに付いてこれることを感謝なさい!今から貴方達は魔王軍四天王ではなく神聖クレハ円卓騎士よ!」

「き、騎士!なんて見事な響きであろうか!」

「私は騎士なんてとても…」


 正直勇者達を合わせたら五天王になっちゃうから中途半端なやつよりこれから増えるかもしれない円卓の騎士の方を採用させてもらった。


「クレハ俺も騎士なのか?」

「もちろんです!このクレハの騎士としての誇りをもっていいですよ!」

「僕もか」

「私は魔導士なんだけど…」

「いいじゃないですか、魔導士なんて沢山いるかもしれませんけど魔導騎士と名乗った方が格好いいです!」

「そ、そうね?」


 クレハ様のためだけの存在になれたことをむしろ誇って欲しい!

 山羊だけちょっと乗り気じゃないけど、まぁ元々魔王軍の借り物だしいつかは返すからいいんだけど雰囲気盛り上げてくれないと。


     ***

〈レオン〉


 グランディアに戻るとクレハさんはいつも通り忙しそうに駆け回り、魔族の人達も一緒に連れ回されてクレハさん曰く「マスコットキャラとして定着させないと勘違いされる」とのことだ。


 今まで魔物として扱ってきてた国なのだから難しいんじゃ無いかなと思うけど、そんなことはお構いなしなようで。


 ただジャルダンとは稽古を付き合ってもらったりすることもあって仲良くなれたし、もう一人のフェルメルさんという人も話せば知的な印象を持ち様々なことを教えてくれる。


「レオン殿ははっきり言って弱いですな!ギン殿の方がよほど強いと言えましょう」

「あはは。僕もそう思うよ」

「しかしどうして強さを求めようか?レオン殿は勇者であって強さを渇望しなくとも良いのではないか?」

「守りたい人がいるからかな」

「ですか。そうであれば魔王軍四天王及び神聖円卓騎士が一人ジャルダン!心ゆくまでお相手しよう!」


 訓練用の棒を縦横無尽に振り回してこちらの攻め手が無くなり、僕が攻撃をすれば素早い反撃が来るだろう。かといって延々と防戦一方になるのは目に見えていてどうしたものかと考える。


「それ以上下がれば守りたいものを傷つけることになるであろう!」


 僕が後ろに下がりながら棒を捌いていたら唐突にそう言われ後ろにクレハさんがいると考えた時。これ以上引けば彼女が傷付くと思えば力が自然と入る。


 一見すれば捨て身の攻撃、だが僕は元々攻撃を受け流して相手の隙に急所を貫いて戦うような戦闘なんだ。ギンにも言われたが慣れないことをするものじゃない。ただとにかく躱すことを集中して僅かな隙だけを狙ってこれ以上迫ってくれば首を叩き切ると狙いすんでのところで避けられる。


「今のは負けであるな!気迫は本気でも手加減していたのであろう!がはは!」

「ジャルダンさんは謙虚なんだね。手加減してたかって聞かれたらしてないと思ったけど、普通に躱されちゃったよ」

「嘘をつくと思いか?懐に入られた時点で首を狙わなくても胴体を切れば十分こちらの選択肢は狭まる。恐らくそれは魔物…魔族を相手にしすぎた弊害であろうな。魔族は種族柄しぶといのが多いが弱点は多々ある。もう少しからめ手を使ってもよかろう!」


 さっきのところで確かに仕留めるには急所を狙うことを意識してはいた。盗賊相手だとどうだろうか?僕は人間を相手にするときと魔族を相手にしていた時では戦い方が無意識に変わっていた気がする。


「ジャルダンさんのおかげでもっと強くなれそうな気がしました」

「畏まる必要など無し!同じ騎士であるからな!」


     ***


 稽古も終わり夜の城壁で休憩でもしようかと気分転換をしようとしたとき、クレハさんが何故かいた。

 普段は走り回って元気があり余ってると言わないばかりの彼女が蹲っていてもしかして体調でも悪いのかと焦って近づくと声が聞こえる。


「うーーーん…魔金貨が1枚2枚…6枚…どう数えても8枚しかない…このクレハが奪われたのは4枚なのにこの国が同じ4枚程度しか持ってないのはさすがに国家予算としては少なすぎるのでは?」

「えとクレハさん?」

「あぁ、勇者ですか…勇者!?違います!これはこのクレハのコツコツ集めた貯金なのです!決して奪ったものではないですからね!」


 疑ってはなかったがそんな強調されるとさすがに疑ってしまう。言い方からして国からお金を取ってきたのだろうか?以前僕に渡してきた魔金貨と同じものが地面に8枚並べられてる。


「クレハさんはお金好きなの?」

「なにを言ってるんですかこのクレハはお金などなくてもむしろ施されて当然の存在なのにまさかぁ…」

「ま、まぁそうだね。クレハさんお金無くても生きていけそうではあるね」

「しかしお金がないと余生を無事に過ごせないというのもまた事実です。このクレハは歳をとった後のことも考えてコツコツ貯金をしているだけなのですよ」


 余生か、さすがはクレハさんなんだろうなって思うけど。そうだよな…僕たちはもう魔王との戦いも終わってまだすることもあるけど未来を考えていいようになったんだ。


 それがふと心に余裕が出てしまって。余生を聞いたのもあって僕はついいつもの不安を口に零すようにクレハさんに告げる。


「クレハさん僕と一緒に余生もずっと傍にいてくれないかな?」

「はて?勇者はどこかに行く予定があるんですか?」


 伝わっていない!?どうしようか…そう言えばセナからオシャレとかロマンとか聞いていたし、雰囲気か…。


「月が綺麗だねクレハさん」

「は?そうですね?もうすぐ雲がかかりますけど綺麗だと思いますよこのクレハの方が綺麗ですが」


 違う…そうじゃない。ロマンは月が出てるしいいとしてオシャレか…オシャレって今稽古終わりで汗臭いんじゃないだろうか?そう思うが、もう僕だと気づいた時点で浄化をかけているらしく汚れが消えている。


 むしろ気遣われて雰囲気壊れていたりするんじゃないだろうか。


「勇者大丈夫ですか?頭でも打ちましたか?回復魔法を先ほどからかけてますけど効果がないようですけど」

「クレハ!」

「はい!?」


 呼び捨てにすればと言われて実行したけど思わず大きな声が出てしまっていたかもしれない。


 たださっきまで稽古していたのも相まって隙だらけになったクレハさんを壁に手を付けて迫って勢いのままなんとかなれとそのまま伝える。


「クレハ、僕だけのものになってほしい」

「へ?」

「これから先どんなことがあっても僕がクレハを守りたいと思ってる。子供も欲しい!」


 ここまで言えばさすがに伝わるだろうか?そう思ってクレハさんを見ると下に俯いてプルプル震えている。


 しまった怖がらせてしまっただろうか…これじゃあ逆効果だ。なんとか誤解を解かないと、好きだと伝えるためにやったことだと。


「お前の名前なんか憶えてねえよばかああああああ」


 そう言ってお金も置いたままクレハさんは逃げるように城の中に入って行った。これは…断られたのだろうか。


 断られることも考えていたけど案外胸が空虚に感じる物なんだなと、お金を拾って後で返してあげなくちゃと思い懐に収める。


 月を見ながらさっきまで綺麗だと思っていた月も今では曇りがかって見えなくなってる。


「だめ…だったかぁ」


 まさか名前を覚えてないと拒否されるとは思わなかった。


     ***

〈セナ〉


 なんかクレハが顔を真っ赤にして部屋に飛び込んできたと思ったらよく分かんないことを聞いてくる。


「勇者の名前知らないんだけど!」

「レオンでしょ?いつも私達が呼んでるから覚える機会はあったと思うけど…」

「レオン…レオン…」


 珍しい。この子が名前を言うなんてヴォルグハイエンみたいな特殊な例だけかと思ってた。


「なにがあったの?」

「告白されました…どうしましょうか魔法使い!」


 告白されることなんて慣れてそうだと思っていたのに、なんか意外なその姿に思わず笑ってしまうが。

 あのレオンが告白ねえ…それでこんなに慌てふためくなんて案外クレハは初心なのかもしれない。

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