第14話 クレハ様と周りの変化
〈クレハ〉
このクレハをもってしてさえ圧倒的に判断に困ることだってある。
例えばヴォルグハイエンのお世話をして部屋に戻ると聖女見習いが待っていたり。
例えば城下町へ観光を行こうとしたら勇者と聖女見習いが待っていたり。
例えばたまにはゆっくりとお茶でも飲むかと思えば聖女見習いが待っていたり。
なんなんこいつ?
「見習いよ、いったいこのクレハに何の用があるんですか?」
「クレハ様!私はどうすれば貴方のようになれますか?」
どうすればって言われてもな。回復魔法を適当に使えばいいんじゃね?と思ったけどそういう話じゃないのか?
いや…この場合アイドルとしてなりたいってことか?確かに素材は一級品と言ってもいいだろう。クレハ様がいなければ見た目でここまで整ったのも中々いない。
「見習いは見た目的にギャルでも目指せばギャップ萌え狙えるんじゃないんですか?」
「ぎゃる?ぎゃっぷ…ク、クレハ様のようになりたいのです!そもそもどうして回復魔法でそんなに傷を癒せるのですか?」
「そんなの傷を治すことを魔力に乗せて伝達してるだけですよ」
仕方ないなぁ…見習いだし聖典でも書いてやるか?ここまで毎日執拗に追いかけてくるならこのクレハに憧れてのことだろうし。
仮に無視しても後ろからこそこそとバレてる尾行をしてくるくらいなのだから変なストーカーにするよりは少しは目にかけてクレハ様の偉大さを伝える役にしてやってもいい。
「とりあえず見習いのために聖典を書いてあげますから、通る人全てに回復魔法をかけてきなさい」
「す、すべて…わかりました」
「何度も魔力欠乏症になるくらいになったら休憩してもいいですよ、このクレハも何十回もそれした後は次が段々と楽になっていきましたから」
このクレハの勝手な妄想でいいなら子供のころの方が伸びしろが良い気がするが。それを言ったら逆に変な思考になってマイナスだろう。
それならそうすれば出来るようになると信じさせて目的を与えた方がいい。
「早速行ってきます!」
元気だなー…
***
部屋に帰ったら見習いがベッドで大変みだらな姿で横たわっていた話しする?
別に性欲とかそういうのが特別多いわけじゃないから妄想することはあってもいざ実物がここにあるとなんか感慨深い物があるなぁ…孤児院の時は男女一緒の部屋で雑魚寝だったし。教会に移動してからは誰かと一緒でも精神がパラシフィリア様オタクだったくらいなやつしかいなかった。
あとは魔法使いか。あれはどちらかといえばこちらがプロデュースするつもりでいたから裸を見ても特にどう成長させようとかしか思わなかった。
ただこの見習いに限っては見た目も良ければ、段々とこのクレハ様に懐いてきている。手を出してもいいんじゃないか?そんな風に思えるくらいには親しい気もする。
だがこのクレハが誰かを相手にするとしたらそれは人類の損失かもしれない。とりあえず、とりあえずだ。
ベッドに貢ぎ物があるなら手でこのクレハより豊かな身体を触るくらい許されてもいいのではと、生唾を飲みながら手を伸ばそうとしたとき。
多分今日一日中魔力欠乏症になりながら頑張ったんだろう…走り回ったりと色々と。
「くっさ!見習いは浄化もできないのですか」
浄化をかけてやると気分も害したので、大人しく頭撫でたり髪の弄ったりして遊ぶだけにする。
あれだな…もう少し早く聖典作って浄化だけでも早く覚えさせてやるか…。
***
なんか最近見習いもそうなんだけど勇者の様子もおかしい。
「あ、クレハ…さん!今日はどこかに行くの?」
「いえ、ただの散歩です」
「そっか!」
元気なのはいいんだけど、こいつ誰?って言うくらい爽やかになってる。
イメチェンでもしたいのかな?戦士や魔法使いに聞いても特に苦笑いしかしてこなかったから多分こいつなりに吹っ切れたことがあるのかもしれない。
そういえばこのグランディアに来てからは皆で食卓を囲むことは減ったし、それでストレス軽減でもしたのか?いや元々皆で食べたいと言い出したのはこいつだし逆にストレスが溜まってこうなったのか?
見習いもそうだけど勇者もなんか…うん、ジュースでも作ってやるか?筋トレ良くしてるっぽいしタンパク質の多い食事でも用意してやれば喜ぶかもしれない。
「勇者はもっと肉を食べなさい、筋肉が付きますよ」
「そうか、それならもっと食べるようにしてみるよ」
「あと何かあったらこのクレハに相談するんですよ、溜めて爆発しては大変ですからね」
「そ、それは…うん、クレハさんにちゃんと言えるようにするよ」
あとは国王代理とかと話をもう少し詰めておくか。周りの国から攻められるより内乱が起きたらどうしようとか不安になってたっぽいし。
***
〈セシリア〉
クレハ様はなんてすばらしいのでしょう!回復魔法だけにあらず浄化魔法が群を抜いています。
助言の通りに見かける人全てに回復魔法をかけて行って魔力欠乏症になりながらもいつかクレハ様のようになれるならと死に物狂いでやってクレハ様の香りを嗅ぎたくてベッドに忍び込んだら疲れの余り眠ってしまった後浄化された体を見て感動しました!
パラシフィリア様…許してください!セシリアは聖女を超える大聖女のためにパラシフィリア教会のさらなる繁栄よりもクレハ様の偉業をこの目で見たくなってしまいました。
もはや許されなくても構いません!だって私に勝てるわけないじゃないですか…国を二週間足らずで争いも無く掌握してドラゴンまで従えてしまって、魔王とも同盟を組むからと魔王軍に挨拶するだけで戦争を止めるような人!
誰も止めれないのだから代わりにクレハ様の今後の行く末を見習いとしてみてくださるあの方にどこまでもついて行きたいのです。
それはそうとクレハ様をよく観察していると分かるのですが。
お布施をもらったら即座にポッケに収めているし、貰った食べ物は教会の人とは思えないようにその場で食べて「美味しいです!このクレハが食べたことを感謝なさい!」などと言いながら城下町を闊歩してるのですが…あれも修練の一環だったりするのでしょうか?
私も負けていられません。いつかはクレハ様のようになるのです。強く思いながらクレハ様を真似てポッケに入れたクレハ様の下着を強く握りしめて後ろをついて行く。
「おや、見習いの子じゃないかい、果物一個食べるかい?」
「見習い!食べます!クレハ様に感謝してください!」
***
〈レオン〉
クレハさんが治していった国中の兵士たちと実技を兼ねた稽古を重ねひたすらに立ち回っていく。
「レオ、手加減しねえからな!」
そう言ってギンが迫って斧を力任せに薙ぎ払うがそれもいつもなら受け流すようにしていたけど僕は腕を柄の部分に腕を割り込み刃が身体に当たらぬように近づいてギンを殴り飛ばす。
僕にもギンにも回復魔法が飛ばされ瞬時に状況は元に戻り、背後から斬りかかってくる兵士をいなしつつも一人ずつ確実に、そして自分の出せる力任せの技で遠くに飛ばし距離を置く。
「勇者ー頑張ってくださいねー」
彼女が僕を応援しながらも先ほど飛ばした兵士も回復魔法で戦線復帰するのも時間の問題となり再びギンと対峙すれば僕の剣をへし折る勢いで縦に振られた斧を防ぐ。
「ほら頑張れってよ、もっと頑張らねえとな」
「わかってるよ」
僕が一人で素振りをしているとクレハさんが呆れたように僕に提案してくれたこと。
そんなに暇なら兵士たちと一緒に訓練したら?ということでギンも呼んできて全員で訓練をするもクレハさんがそれを見てまどろっこしいと言いながら実戦形式になった。
最初はもたついていた兵もクレハさんが瞬時に回復するものだから段々と乗り気になっていき僕が全員から集中攻撃されるようになっていき今に至る。
剣がもう駄目になりそうだと感じながらもギン一人に苦戦をしていたら後ろから立ち直った兵が死者のように立ち上がり僕へ迫って攻撃を食らってしまう。
「勇者の負けです!次は戦士が多対一をやりましょうか」
「げっ…まぁいいか、おらおめえら!俺にかかってこいや!」
次は僕の味方をしてくれる兵だが僕は一人を押さえるほどの力量を持っていない…それでも彼女の見ている目の前でやらなければならないだろう。
「レオ!死ねやああああ!」
今までで一番の攻撃が僕に迫る。てかそれ当たると本当に死ぬんじゃないかな?
「僕は君を倒す!」
そうして激闘の末…僕は負けた。
***
〈クレハ〉
最近なんか知らないけどこのクレハ様の衣類が減っている気がする。
元々服に関しては同じものを無駄に何着も作らせていたからいいんだけど。それでも大半は町に置いてきたし、下着に関しても同様だ…まさかこのクレハ様が好きすぎて盗まれた!?
緊急会議を設けた。もちろんグランディア城会議室に国王代理も含めた勇者一行と見習いなど主要人物件こいつらは盗んでないだろうという人選だ。
「コホン…重大な事件が発生しました」
「クレハがこんなことをするなんて珍しいわね」
「魔法使いも女性です。言えば事の重大さが分かると言うものです…さて、このクレハの衣類及び下着が最近何者かに盗まれてると言う事件です」
このクレハがそれを伝えると全員が真剣な顔になった。
「この中に犯人がいないとも断言はできませんが信頼のできる人間を呼んだつもりです。このクレハ!の下着を盗みたい気持ちはこのクレハ自らだからこそ分かりますがしていいことと悪いことがあります!」
「その、クレハさんの見間違いとかじゃないのかな?」
「最初はそうかと思ってましたけどさすがに4分の1もなくなれば異常で気づきもします」
「そ、そんなに…誰がそんなことを…」
勇者もちゃんと考えてくれるようでいいのだが、心当たりは国民全員としか思えない。ただ王城に忍び込んで盗むという技術が凄いのだ。
「新しいの作って増やすんじゃだめなのか?」
「戦士それは大いなるナッシングです。いえ新しく揃えはしますけどこの光の大聖女クレハの下着を盗むということが大罪なのですよ。貴方だって自分の下着を盗まれて香りを楽しみながらはぁはぁされていたら思うところはあるでしょう?」
「そんな奴がいるなんて許せねえな!」
戦士も少しは気持ちが分かったのかなんとか考え始めてくれる。
あとは見習いと国王代理だけどなにか考えてくれてるかな?
「見習いはこのクレハよりも王城にいる歴が長いのですからそういう経験はありませんか?」
「こ、この見習い…そんな輩見たことも聞いたこともありませんね!」
「そ、そうですか?」
汗を大量に掻いて暑いんだろうか?汗臭くなられても困るし浄化をかけておいてやろう。
てっきり見習いの下着とかも聖女だし盗まれてると思ったんだけど所詮は見習いだったか。
魔法使いが神妙な顔つきで勇者を見始めた。
「魔法使いは心当たりがあるんですか?」
「えと…レオンかなって…」
「ま、まってよ僕はそんなことしないよ!」
やはり盗むなら男性陣が怪しいと思うよな。最近ストレス溜まってるからか爽やかになってたし爽やか変態になっていたのか…。
「みんな待ってくれ!俺がレオの無実を証明できる。こいつの部屋にはよく遊びに行くがクレハの下着や服は無かった」
「ギ、ギン…ありがとう」
戦士が断言するなら違うのか?
「レオン以外ってなると、この国の兵士全員怪しいんじゃないの?」
「言いたいことは分かりますが魔法使いのそれを採用してしまうと城中を荷物チェックするしかないんじゃないですかね?」
「クレハの名前出せば一瞬で終わる気がするけど?」
まぁ、簡単に済ますならそれが一番か。無いなら無いで家宅捜索もしなければいけないだろうし大変だな。まぁそれで後顧の憂いが絶つなら良いか。
「こ、この見習い的に男性陣が怪しいと思うんです!」
「それもそうですね。女性でこのクレハの下着を盗む人はあまり想像できませんし面倒ですから」
面倒ならもう諦めれば?と魔法使いが横やりを入れてきたが精神的問題なのだこれは。
「半分諦めてはいます。ですが落ち着かないものですよ。これからは厳重に保管するつもりですけど部屋にいつの間にか入られていたとか怖いです」
「それもそうね。そうなると女性の協力者とかいるんじゃないの?犯人が一人とは限らないでしょ?」
このクレハ盲点!たしかに変態が一人だと思っていたがその可能性もあるのか…。
「発言をよろしいか?クレハ様」
「国王代理ですか?どうしたんですか?」
「光の大聖女クレハ様の衣類となれば恐らく高値で取引されるかと思います。つまり…犯人としてクレハ様の衣類が目的ではなく金銭が目的だった場合心当たりがあります」
珍しく期待してなかった国王代理が鋭い顔つきでこの場を圧倒している!こいつこんな威厳とか持ってたのか!?
「それは誰でしょうか…?」
「財務大臣にございます。有能なので手元に置いておきましたがいくつか不正な金銭の動きもありましたから、それを御せれば駒として有能と思いました…しかしクレハ様の一大事に関わってるなら重い罪になりましょう」
それは確かに見事な推理かもしれない!ただ死刑とかはさせないように注意くらいでもいいような気はするからどんな罰がいいだろうと考えていたら見習いが急に乗り気になり始めた。
「この聖女見習いとして私セシリアは大いに犯人は財務大臣だと思います!むしろそれくらいしかいないっていうかお金のためとか許せないですよねクレハ様!」
「え、う、うん?そうですね?」
一週間投獄してみて盗みがこれ以上行われなくなったら犯人は財務大臣ということで話しが終わった。
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