第13話 クレハ様は活躍しない

〈クレハ〉


 神聖グランディアは未だかつてない活気を見せていた…なんちて。

 なんか知らないけどグランディアは神聖グランディアと名前を変えることが決定されたらしい。


 このクレハが一応この国の国主となるらしいけど、ぶっちゃけこんな自然が見どころが無いところいらないから霊峰とかに国作ってくんないかな?


 一旦それは置いといて、このクレハが盛大にコンサートを開いていたら約束通りヴォルグハイエンが来たのでちょっと平和にしてくると言って民にはヴォルグハイエンに空に向かい火を吹いてもらってファンサービスしておいた。


『我の扱いが雑ではないか…?』

「むしろ人気が出れたことを感謝なさい!村の家畜を襲うくらいなんだから貴方用にあの山周辺の家畜を増やす予定ですしね!」

『ちゃんと考えてくれているのだな…』


 勝手に村壊されたらこっちがたまったもんじゃない。大人しく餌やるから何も壊さないでくれ。


 戦場になっていたところにこれから行くのだけど、今回は顔合わせ位しかしないだろうしそんな話すことないなぁ。


「これから魔王と対峙するんだね」

「勇者はなに言ってるんですか?まだヴォルグハイエンの鞍が出来てないでしょう?ちゃんとお金渡したのにまったくサボってるんですから…分かりますね?」

「あ…今日のご飯取られるんだね」

「取られる!?献上するの間違いですよ勇者!」


 まるで食い意地が強いみたいじゃないかこのクレハが!でもこの歳だしもう成長は見込めないかなぁ…胸がもう少し育ってほしかったんだけど仕方ないだろう無い物ねだりよりも今ある可愛いを磨いて行こう。


 それにもう少し歳をとったら可愛いよりも綺麗と言われるようになるかもしれないしな。将来に期待だ。


「でも俺らは会ったことないけど四天王がそれで満足してくれるのか?」

「戦士の不安も最もですが魔王軍とてそんなすぐに来られたら来賓をもてなす準備をしてないでしょう?時間を設けてあげるのも一つの考えです」

「あ、俺ら客人なの?」

「争ってた連中が急に来られたら客とは私だったら思わないわね」


 それはヴォルグハイエン頼りなところもある。友達が来たらもてなすだろ。

 このクレハ様一人ならまだしも勇者とかいう不穏分子も連れて行けば客人とは思わないだろうな。


 そんなこんなで四天王なんとかのいうところまで来たのだが、ちょっと来るのが早すぎたのか見当たらない。


「いっそその四天王のいるところまで行きましょうヴォルグハイエン」

『良いが…攻撃されないだろうか?』

「そしたら正当防衛です。ブレスで薙ぎ払ってください」

「クレハさん!?同盟組むんだよね!?」

「さすがに売られた喧嘩は買いますよ、親しき中にも礼儀ありです」


 まぁ、攻撃されてドラゴンの鱗を貫通するとは思えないが。あくまで念のためだ。


 進めば多くの魔物が蔓延る人外魔境がそこにあった。あれなんて言う魔物なんだろう?たまに可愛いのとか交じってるな。ペットに出来そうなやつとか欲しいな~…でもペットって飼うの大変なんだよなぁ…。


『あれではないか?』

「あれだね、あの人が四天王ジャルダンだよクレハさん」

「馬ですか」

「馬だな」

「馬ね」


 二本足で立つ馬面の四天王がいた。ケンタウロスとかじゃないの?なんで立ってんの?

 疑問を抱くも、まぁ魔物ってそういうもんかと思えば気にならなくなる。


 ヴォルグハイエンに降りてもらって勇者に担いでもらって着地する。


「俺は魔王ぐ――」

「この光の大聖女クレハ様!このクレハ様が!来ました!何者か名乗りなさい!」

「クレハさんが先じゃないと落ち着かないんだね」


 ちょっと恥ずかしそうにしている顔がたまらん。馬面なのがまた良いアクセントをしてる。


「俺は魔王軍四天王が一人ジャルダン!龍と聖女とお見受けする!」

「自分は名乗っておきながらこちらの名前を言わずに種別で喋るなんて何事ですか!」

「クレハさんは僕たちのこと勇者とか名前で呼んだりしないのにね」


 ヴォルグハイエンもこのノリに乗ってもいいのに黙り込んでるし、特に異論はないのかな?普通あるだろう?龍って言われてんだぜ?もうちょっと威厳とか大事にしなきゃ。


「で、四天王は何を話したいんですか?」

「貴様も同じではないか…まぁよい!龍と友になったのは真であったか。魔王軍と和平を結びたいと聞いたが真意を知りたい!」

「四天王が知ってどうするんですか?中間管理職みたいなものでしょう?これこのクレハが貴方に説明してもう一度魔王に説明しなければならないとなったら面倒でしょうが!とりあえず仲良くしようって伝えておいてください!」

「相分かった!仲良くしようと伝えておく!」


 よし、帰るか。あ、そういえば周りの国が戦争仕掛けるかもなんだっけ?


「あとついでに魔王にお土産持っていきますというのと、周りの国がなんか文句言ってきたら戦争するかもって言っておいてください」

「相分かった!魔王様は甘いものが好きである!」

「了解です。じゃあ甘い物作って持っていきますね。よし、皆さん帰りますよ」


 いうこと言ったしもうやることなくなったな。帰ったらまたヴォルグハイエンのお世話しなきゃなぁ…こいつもペットみたいなもんか。格好いいけど可愛いのが欲しいな。


「えとクレハさんもういいの?」

「もう四天王は用済みですよ?」

「クレハは相変わらずだな」

「クレハらしいけど前まで戦ってたと思うと複雑な気持ちね」


 戦争なんてそんなもんだろう。歴史の教科書なんて争ったり裏切ったりのドロドロ具合なんだからこれくらい純粋な方が良い。武人で良かった。武馬か?まぁ軍師とか頭良い奴だと面倒くさいことになりそうだったなくらいの感想だ。


     ***

〈ギン〉


 我らがクレハはドラゴン用の鞍が出来るまで自由行動を言い渡して今日もきっと王都中を駆け巡って人を治しまくってるんだろうなと凄いを通り越して呆れが勝っちまう。


 それとは別にレオの様子が変わった。まぁクレハが変えたんだろうが。


 城の中庭で剣を振りながら鍛えている。そんなことするような柄じゃなかったはずなんだが。


「レオ、どうしたんだ?」

「あぁギンか、この前の戦場では役に立てなかったしね。僕も少しは勇者らしくしないといけないかなって」

「クレハに何か言われたのか?」

「そうだね。僕に目標をくれたかな」


 目標ねえ…元々目標なんて一つ、魔王討伐だったろうに。まぁ今では和平を結ぶってことで動いてるからどっちかといえば周辺諸国との対立で戦争するかもって感じか。


「付き合うぜ?相手がいた方がいいだろ?」

「嬉しいよ、お願いしようかな」


 いざレオとやりあってみたら戦い方が以前よりも苛烈になってやがる。元々そんな攻めっ気なかったはずなのに、ただその分戦い方が急場しのぎのように感じて粗い…力業で押し返して見せればレオは隙だらけになる。


「どうしたよ?そんな雑に斬りかかっても俺に力で勝てないって分かるだろ?」

「はぁ…うん、そうなんだけどね。僕に足りないものと言えばこういう部分かなって」


 その後も斬りあいになるが、やはりいつもより粗いからこそいくらでも攻めようがある。


「ストレスでも溜めてんのかってくらい温いな。もっとお前は丁寧に戦ってたろ?」

「ストレスか、それならジャルダンと戦って力の差を感じたから、かもね!」


 例の四天王か、たしかに顔合わせの時に見たが格上だろうな。実際にやりあってみないと分からないが俺でも力が仮に運よく互角と言えたとしてもレオがそこまで言うなら技量も兼ね備えてるんだろう。


「今から鍛錬してもそんなすぐにその戦い方が物にできるとは思えないぞ?」

「もし、僕が勇者なら。本当の勇者になれるならなりたいって思ったよ」

「…本当にどうした?」


 さすがにそこまで心が変化してるとは思ってなかったし、強さに貪欲な奴じゃなかっただけに違和感しか覚えない。斧を下げて話を聞く態勢になればゆっくり話せるかと思いきやすぐに素振りを始める。


「クレハさんは一人で頑張ってきた。きっと今までもこれからも」

「そのクレハだって別に一人だけだったわけじゃないだろ?悩んだら話せと言って自分もそうしてきたとか言ってたじゃねえか」

「うん。きっとそうなんだろうね。それでもこのヴォルグハイエンが仲間になったのも実質彼女の頑張りだし城でも一人でなんでもこなしちゃうんだ…クレハさんが僕たちを信じて待っていたらこんなことになってなかったんじゃないかな」


 それは言い過ぎだろう。戦闘面では必ずと言っていいほど頼ってきているし。今回の件も兵士たちから話は聞いた。


 曰く、兵士の家族が病なのを感知していつもの弁舌で説得してやり過ごしたという。


 これは別に信用とか云々以前にクレハが人の機微をよく観察してるからだろうし信じる信じないは関係ないはずだ。


「レオはつまりどうしたいんだ?」

「隣に立てるようになりたいって思ったんだ。クレハさんがいつも僕たちを安心させてくれるように僕もクレハさんを安心させてあげたい」


 するってえと…ヴォルグハイエンを超えるくらいの強さが無いと無理なんじゃね?実質クレハの最高戦力はあのドラゴンだろ。


「レオお前…クレハが好きなのか?」


 そう聞くと、ただ素振りをしている。少しだが頬が赤いような…まじか?


「そ、そう言うギンはどうなの?」

「尊敬はしてるがクレハはなんていうか別だろ?楽しいとは思うがそういう目では見てないしな」

「そっか…」


 素振りがさっきより力が抜けて力任せだった雑な素振りではなくなった…まじかよ。


「セナに言ったらどうだ?」

「なんでセナに!?というか僕は何も言ってないよ!」

「正直女心なぞわからん。特にクレハは女として見るべきかはもっと別の存在みたいなもんだろ」

「たしかに雲上の存在なのかもしれないね…それとセナは関係なくない?」

「セナなら少しは協力してなんとかなるかもしれん。というかクレハをレオが落とせると思えんから助言貰った方がいいだろ?」


 なんだろうな。友として応援はしたいが相手があのクレハだと思ったらどうにも。そもそもクレハが誰かを選ぶということを想像できない。


 仮に選ぶとしても王族とかと思っていたら国王を平伏させて見せるような相手だし魔王と対等に話そうとしてるような奴だ…いや無理だろ。レオは何を思ってクレハが好きになったんだ?


 まぁ、クレハの言うところの楽しいから二人の行く末を温かく見守ってやろう。


     ***

〈セナ〉


 なんか知らないけどレオンが話があるとか言って部屋を訪ねてきた…

 ただ何かを話すでもなくもじもじと言おうとして止めたりして正直何しに来たのか分からないしじれったい。


「え?私に何の用なの?」

「それは…相談があって…」

「相談ならクレハの方が得意でしょ?ズバっと何でも言ってくれるわよ」

「クレハさんのことを好きなんだけどどうすればいいかなって」


 一旦深呼吸しよ…よし。


「で、何の用なの?」

「クレハさんが好きなんだけどどうすればいいかなって」


 聞き間違えじゃなかったか。なにをどう狂ってクレハが好きだということになったのか。私も別に人のことを言えるわけじゃないけどクレハがそれを受け入れるとは思えない。


「告白すれば?言う相手間違ってない?」

「そ、そうなんだけどギンがセナなら協力してくれるかもって話してさ」


 あー、あの筋肉のせいかー…私に面倒くさいからって投げてきたなー?いや面白がって投げてきたって感じかな?


 とはいえ、私もクレハに対して大切にしてあげたいという気持ちはある。レオンが不釣り合いってわけではないけどネガティブなレオンだとクレハに頼りっぱなしの未来しか想像できないんだけど。


「協力って具体的になにをしてほしいわけ?」

「好かれるためにどうしたらいいかとかかな…」


 お前が乙女か。クレハなら甲斐性はあるし立場逆だろ。って言ってやりたい。色恋沙汰は私も別に詳しいわけじゃないしどうしようかなと思ったけど。多分私の立場にクレハが立っていたら任せなさいとか断言するんだろうなと思うとこれも一つの楽しみかと考えてみる。


「とりあえずレオンはおしゃれしたら?クレハはおしゃれ好きだからそういうの敏感に分かってくれるわよ?」

「おしゃれ…おしゃれかぁ…」

「あとはもっと頼りがいがあればとか色々思うけど…クレハに必要なのはもっと純粋に好きって伝えないと意味ないんじゃない?」


 町の人から散々好意は寄せられてるだろうに全てを聖女クレハだから当然と割り切って考えてるあの子を思い出せば、いっそ清々しく愛してると告げて玉砕するくらいがちょうどいい気がする。


「あぁあとはあれじゃないかしら?」

「ま、まだあるんだね」

「ロマンがどうとか言ってるから雰囲気を大事にしてあげるといいんじゃないかしら?」


 勇者とはこうだとか、魔法を使えたらこういうことをしてみたいとか楽しそうに話してるのはまるで子供みたいな印象があるからこそ雰囲気は大事だろう。


 ただレオンがそもそも名前で呼ばれてないことが問題な気はするけど…。


「最後にもう一つあるけど聞く?」

「き、聞きます…」

「私やギンみたいにもっと気軽に接したらどう?あんただけクレハをさん付けで呼んで距離感感じるんじゃない?」


 実際の所喜ばせるだけなら様付けすればにまにまと喜ぶだろうけど、恋愛だもんなぁ…。


 応援はするけど、クレハが困ったらもちろんクレハの味方をする。


「セナありがとう。色々試してみるよ」

「え、うん…今は…まぁ頑張って?」


 今は魔王との出来事もあるだろうから多分色々終わらなきゃ玉砕する未来しかみえないが、まぁクレハなら断るにしてもいつものノリで断って仲間内でギクシャクすることもないだろうし勝手に玉砕してくればいいかなと思って言うのをやめた。


 あ…そう言えば魔王討伐までの仲間だし、和平が結ばれてもこのままでいられるのかな?どうなるだろ。

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