第11話 クレハ様は止まらない
〈クレハ〉
兵士Aの家族をひとしきり治してBとCの家族も病気だったのか治しておいた。
城下町に忍び寄るように…なんてことはなく堂々と兵士ABCを連れて闊歩する。
「もう少し隠れたりしないのか?」
「このクレハが隠れる?一体このクレハが何故隠れなければならないのですか!?この光の大聖女クレハが!」
「分かったって、いいから声量落としてくれ」
聖女と言う単語に何人か引っかかったようですかさずこのクレハが癒して高らかに宣言せねばならない。
「この光の大聖女クレハが来たからには多くの民よ!安心しなさい!救済をその手に掴むことは確約されました!」
さぁ!なんだなんだと集まってこい!もっとこのクレハを崇め奉れ!
そして集まってきたらこのクレハ最大のコンサートをしなければならないだろう!
「このクレハに見つかったが最後です皆さん!この光の大聖女クレハが癒しつくして。も、もう耐え切れないよーってくらい希望を貴方達に授けてあげましょう!」
小さかった声も増えていく歓声へと変わっていくこの時がたまらない!回復魔法を安売りするだけで簡単に教会の者だと信じてくれるしなによりこのクレハの下位互換が何もしてなかったことが分かる。
所詮は普通の聖女と言ったところか。この光の大聖女クレハは見かける全ての人に回復魔法をするくらいには極めているというのに怠惰極まったな普通の聖女よ!
「クレハ様ー!うちの子が怪我を!」
「光の大聖女クレハ様にかかればほいヒール!」
「クレハ様!寝込んでしまった夫が!」
「案内なさい!光の大聖女クレハ様は全ての者たちの味方です!」
さっさと治してこのクレハ様のコンサートを開くために働け!そしたら元気になって感謝するこいつらの視線を釘付けにして国王が牢屋に入れたことを後悔させてやる!
「嬢ちゃん…さすがにもう目立ちすぎてる」
「はて?まだ治しきれていませんよ?」
「もう十分やってやったろ?まさかスラム街の方にまで行くつもりか?」
「あるのですね!案内なさい!」
さぁ!国一つを貸し切った宴会を開かねばなるまい!
***
―ワァァァアァァァァア!
「皆さんよく集まってくれました!この光の大聖女クレハ様のために!」
遠くの方では兵士ABCでも抑えきれないほどの量がいる兵士がこのクレハを捕えようとしているがそんなことはお構いなしだ。
「この光の大聖女クレハの身の上話を聞いてください!神託より来たという勇者に連れて来られ赴いた先で聖女はもう一人いるからいらないとこの国王が不当にも牢屋に詰め込んだのです!グランディアは幾多の苦しむ人がいるのにその聖女は職務を放棄して城で遊び暮らせと王族貴族を癒すのみ!神託より光の大聖女クレハは来たというのに牢に縛り付けようとしているのです!」
段々とヒートアップしてきたこのクレハのためだけにスラムも含めた多くの民よ聞け!そして震撼しろ!このクレハはいくらでも癒してみせるし、本物の聖女よりも優しいのだと思え!
「ですが…国の取り決めにこのクレハが物申すことは一介の光の大聖女クレハは所詮は一人の人間に過ぎません…皆さんは本当に残念だと思いますが、菓子折りの一つでも持って光の大聖女クレハの牢まで来てくれればいつでも癒しますからね!」
そう締めくくり兵士のところまで行くと、周りでは涙を流す者まで現れている。
くっはー!たまんねえな、そこまで思ってくれると一日までと言われてた脱走を三日かけて眠らずに自分に回復魔法をかけてまで休まずに治してきた頑張りが報われるぜ!
「お、お前…この騒ぎどうするつもりなんだ?」
「え?やることやりましたし帰りましょう?」
「帰るって牢屋にか?」
「今はあそこに住んでるので。あ、あの布団買ってください」
そんなやりとりをしてみれば、兵士も特に乱暴に扱うこともなく案内するので付いて行く。
久しぶりに疲れたわー。
***
〈レオン〉
―数日前―
国王に直訴をしてクレハさんの処置を見直してほしい、そして話をしたいと言えば。ただでさえ遅れている戦争で向かってもらいたい戦場があると言う。その後でなら許すと言われたので仕方なく向かう。
そこでは多くの被害が出ていてはっきり言ってしまえば人間側は劣勢と言えるだろう。
セシリアさんも回復魔法を唱えてなんとか踏ん張っているが、どうしてもクレハさんのことを思い出してしまう。
「レオ!油断してんじゃねえぞ!」
「ご、ごめん」
ギンが僕に迫っていたオークを薙ぎ倒して仕留めてくれた。余計なことを考えてはいけない。今はとにかく早くこの戦場を収めればまたクレハさんに会えるのだから。
***
そうして戦い続けて二週間だろうか。ようやくこの戦場での終戦が見え始めてきた。
魔物の指揮を執ってるであろう魔物が前に出てくる。
「俺は魔王軍四天王が一人ジャルダン!英雄の一人とお見受けする!」
その自己紹介がどこかクレハさんに似ていて力が抜けそうになりながら剣を構える。
「僕は勇者レオン・ゼーナル!」
「であれば矛を交えようぞ!」
「…恥を忍んで聞くのだけれど引いてもらうことはできないだろうか?」
「戦士たるもの命を懸けるのは当然のこと何故そのような世迷言を!」
舐められているのかと怒りながらジャルダンは斬りかかってくる。僕よりは数段強いその攻撃を何とか凌ぐけど、クレハさんを思い出すことで僕は魔王との和平をまだ夢見てる。
「この戦争が止まることで平和がもどってくるかもしれないんだ!」
「それは人間の平和であろうが!」
「魔王と直接交渉する!そのための人が今王国で囚われているんだ!」
「魔王様と交渉だと?ふざけるな!魔王様が一体何度人間共と和平を求めたことか!」
そんな話は聞いてない。ヴォルグハイエンも言っていたが国民や兵士はそんな話を聞いたことなどないんだ。
「聖女クレハがヴォルグハイエンと友となった!」
「む?」
「僕たちじゃ止めれないけど、彼女なら止めれるかもしれないんだ」
鋭い攻撃が僅かに弱まったのを感じて僕は距離を取る。
このままいけば間違いなく殺されていたのは僕だっただろう。
「命乞いかと思いきや…かの龍の名を知っておるのか…では条件を出してやろう。貴様が城まで戻るのに三日はかかるだろうから十三日後。かの龍とその聖女を連れてここまで来るが良い」
「魔王城まで案内してくれるのかな?」
「馬鹿を言うな。龍が友ならば我々が案内せずとも行けるであろう?」
「そ、そっか。そうだね」
そう言って全軍を撤退してくれて、ようやく落ち着けたと言えるだろう。
魔物が何故引いていったのか不思議な人達で溢れているが。この場を取り仕切る兵が今こそ追撃のチャンスとか言い始めたので慌てて止める。
撤退してくれなければ負けていたのはこちら側だった。それを今の兵力で突っ込もうだなんて全滅だろう。
***
野営地まで戻ればセシリアさんが怪我人の世話をしていて、テント内は酷い有様だ。
「レオ、お前なんかしたのか?」
後ろからいつの間にか近づいていたギンの声に驚いたが、ギンも手傷を負ったみたいで救護施設として使ってるこのテントに来たみたいだ。
「敵の魔王軍四天王を名乗る人と少し話をしたよ」
「おうおうまるでクレハじゃねえか。魔物側にもそんなのがいるんだな」
「その人にクレハさんと…ヴォルグハイエンの名前を出したら何とか引いてくれたって感じかな」
「それは…けどあのドラゴンはクレハがいないと仲間じゃねえだろ?」
「だから十三日の猶予をくれたよ。もし戻ってクレハさんを取り戻せなきゃ、僕たちが魔王城まで急いで向かい暗殺するしかないね」
国王もそうだが。教会が関わっているのをどうすればいいのかまだ検討もついてないのに…はっきり言って絶望でしかない。
人間がここまで劣勢になってなんとかする方法が少数精鋭で突っ込むだけしかないなんて。それも成功するかは分からない。
今日戦った彼は間違いなく僕より強かった。四天王と名乗るだけはあって指揮も執って武勇に優れているなんて羨ましい限りだ。名ばかりの勇者の僕とは大違い。
「レオ…悪い知らせと良い知らせ、どっち聞きたい?」
「なんだいそれ?悪い知らせからかな…」
「セナが倒れた。意識不明だそうだ、命は助かってるが救護施設だけだと助かるかわからねえ」
それはつまり停戦にならなかったら死んでいたということだろうか…。
「良い知らせは?」
「セシリアが提案してきたことなんだが。グランディアが教会の庇護下になれば今以上の援助が来るんだとさ」
「それってグランディアが正式にパラシフィリア教会の物になるってこと?今まで共存関係だっただけなのになんでグランディアを欲するのさ」
「それはわからねえ。ただグランディアが最前線で踏ん張ってる弱みに付け込んで一国欲しいんじゃねえの?ただ回復魔法を使える奴が増えれば俺たちが急げば被害は軽微になるかもしれねえ」
たしかに国のどうこうなんて僕らの知ったことではないにしても、それでもパラシフィリア教会の意図が分からない。
今でも十分に援助はしてもらってるが、それは国全体でパラシフィリア教会を支援してきたし、他の国々も支援はして特にパラシフィリア教会がグランディアを欲する理由が思いつかない。
「ちなみに聞くんだけどグランディアはパラシフィリア教会に下るってこと?内輪揉めしてる場合じゃないでしょ」
「パラシフィリア教会は人類がどうのとか関係ないんじゃねえの?グランディアはパラシフィリア教会の庇護下に入って、その後はわかんねえ。助かる命が多いに越したことはないからな」
そして勇者と言う強硬策に出て成功すればパラシフィリア教会だけ利益を得るという構図か…とてもではないが聖なる人がやる行いとは思えないな。
「勇者レオン様、お怪我をしたのですか?」
「え?セシリアさん、ギンの方が傷を負ったみたいでね」
「戦士ギン様こちらへ、回復魔法をかけます」
いつから聞いていたのか。ただそれでも救護テントでこんな話をすれば他の教会の人が聞いてるだろうし関係ないか。
「セシリアさんは分かる?パラシフィリア教会がどうしたいのか」
「聖女として神託され任を頂いてから思うのです。パラシフィリア様は平和を望んでいます」
僕が質問した内容とは違って語るように話し出す。
「パラシフィリア様がそう判断されたのならそれが正しいということです」
「そ、そっか?」
これが普通の修道女というものなのだろう。僕からしたら違和感しかないけどセナが毛嫌いしてる理由が少し分かった気がする。
***
結局、考えたけれどどう国王を説得するべきか分からないまま帰路に着く。
セシリアさんとも話したけれど教会がどう考えてるのかは終始分からずじまいで。セナは何とか回復してもらえたけど体調がまだ悪いのかギンが背負っている。
僕も傷を負った兵士に肩を貸しながら城下町を通ろうとしたとき既視感を訴える。
声が聞こえる気がした。それは僕たちが戦いから帰ってきたことを喜んでくれてるのかと思って進むと国の人々が集まって口々にしていく。
「勇者様!おかえりなさい!」
「他の女にうつつを抜かした勇者様!おかえりなさい!」
まってくれ。どういうことだ。
「この勇者様怪我してねえか!?」
「本当だわ!他の人達も!普通の聖女じゃやっぱりだめなのよ!」
戦争帰りの人達は困惑してるし、今聞いた普通の聖女じゃだめ扱いされてセシリアさんが少し涙目になってる。
それでも凱旋されてるし、城下町の人はいつも暗い表情だったりしていたはずなのに口にするのは喜んで罵倒する姿…さすがに傷付く。
「早く会いに行ってやれよ勇者様!」
「えと、どういうこと?」
聞いても背中を押されるだけで城に近づいても城下町に住んでいる人の行列が残ってセシリアさんは罵倒に耐え切れずもう涙を零してしまってるくらいだ。
クレハさんについて国王をどうやって説得しようなんて考えていた。
それは不安という奴だろう。ギンも、セナも不安を持っていただろう。
やっぱりそれを拭ってくれるのはこの人なんだなと思うように囚われていたはずの彼女は城の城門前で高らかに名乗りを上げていた。
「この光の大聖女クレハ様がいる限り皆さんを癒してみせましょう!さぁ!戦帰りの臭い人達をさっさとこちらに連れてきなさい!」
「大聖女様だー!」
「大聖女クレハ様がいれば大丈夫だからねあんたたち!治してもらいなー!」
僕がゆっくりと近づいて肩を貸してた兵士を見せると彼女が癒しの魔法を唱えて傷がみるみる内に治っていく。
そんなバカなとセシリアさんが目を見開いて見ていたが。クレハさんならこれくらいしてやれて当然なのだろう。
「勇者よ!そこの金髪が聖女ですね!すぐにほかの聖女に尻尾を振ってこのクレハを捨てるとは!おぉ!情けない!」
「ごめんねクレハさん、事情聞いてほしいんだけど誤解なんだよ」
「シャラップ!このクレハこれから忙しいんでその後に茶菓子を用意したら聞いてあげましょう!」
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