第10話 クレハ様は囚われない

〈レオン〉


 クレハさんが偽物の聖女だと言われ捕まえられた後、王城へ案内された僕たちは国王の元へ来た。


「勇者レオンよよくぞここまで戻ってきた」

「はっ!しかしクレハさんのことなのですが…」

「そのことについて話せばならぬことがある。お主たちが旅立って時間が精霊を跨いだ時この王城に聖女を名乗る本物の聖女セシリアが来たのだ」


 それは一体どういうことだろう?僕たちはクレハさんが聖女であると目にしてきたのだけど。


「その何か手違いとかは…?」

「教会がそう通達してきたのだ。セシリアこそ本物の聖女であると。西に聖女を騙る者がいるがそれはまがい物であり、真の聖女はセシリアであると」


 まがい物…本当にそうなのだろうか。

 彼女が嘘をついてる素振りは全く見えなかったけど。


「陛下…俺からも発言よろしいですか?」

「話すが良い」


 ギンも一緒に疑問を抱いてる様子で自分から申し立てをしている。


「クレハが騙っているとは俺は到底思えませんでした。技は確かに持ってますし、なにより人々を癒してまわるその姿は聖女だと思ってます」

「それも人々を謀らんために起こしたことであろう。事実あ奴はドラゴンを従えてこの王城に来たのであろう?」

「それは…ドラゴンと和解してました」

「大方ドラゴンと共謀し、国を傾国するためだったのやもしれんぞ?」


 まるで最初から悪巧みを考えていたように言われてギンは不満そうではあるが、言い返すことが出来ないでいるとセナも手を挙げ発言の許可を求めている。


「魔導士セナよ話すが良い」

「たしかに何か考えてはいたかもしれませんが私が見ている限りで国に謀反を起こすようなことを彼女が考えていたとは思えません。せめて彼女の言い分を聞くべきではないでしょうか?」

「そうして勇者三人をも騙すほどの手管を持っているなら話すことそのものが危険とも思うが?」

「けどクレハは――」

「本物の聖女と話すが良い。さすればお主たちの考えも改めることだろう」


 一切反論を受け入れないとばかりに謁見は終わってしまい。それぞれ個室を与えられる。

 僕はまだあまり事態を把握できてないけど、クレハさんが心配だ。ほとんど無理やり連れていかれたようなものだったから。


 ドアがノックされて。ギンがセナを連れて部屋に入ってくる。


「よっ」

「まぁあんたが一番ダメージ受けてそうだとは思ったけど、クレハのことで悩んでんでしょ?」

「そうだね。今まで一緒に旅をしてきていきなり聖女ではないと言われたら驚いちゃって」


 二人はそれぞれ椅子に座って考えたように発言していく。


「俺が思うに、セシリアってやつが悪いんじゃねえか?そっちの方が怪しいだろ?タイミング的にも」

「私は逆にクレハが本当に騙っていたんじゃないかと思うわ」

「おいそれはどういうことだ?」

「元々クレハは教会に良い顔をしてなかったし、実力はあるけどそう振る舞っていただけと言われたら納得できる点はあると思うのだけど?」


 二人が言い合いしながら僕も考えてみる。


 たしかにクレハさんが勝手に名乗っていただけで聖女の名が勝手に広まったのならそれは騙っていたと言えるんじゃないだろうか?そしたらクレハさんは聖女を騙る犯罪人ともいえる。


 ただセシリアさんと言う人がどんな人か会ってみないと分からないこともあるだろう。それならここで言い合っていても仕方ないんじゃないかな?


「二人とも言い争いになるのは分かるけど、みんな。僕も含めてクレハさんが心配な気持ちは同じなはずだよ。とりあえずセシリアさん…聖女の人にみんなで会いに行かない?」


 そう言うと二人も納得してくれて、剣呑な雰囲気までは消せなかったが。みんなクレハさんの聖典を片手に持っているのだから間違いなくクレハさんを助けたい気持ちはあるはずだろう。


     ***


 聖女はどこか聞きながら向かえば、テラスにいると言うのでそこまで行くと。見た目は綺麗な金糸の糸を流す心を見透かされてしまいそうな力強い金色の瞳を持っていた。


 こう言ってはなんだがクレハさんとは対極のような存在に見える。


 第一印象だけならクレハさんの方が大人しそうなのに元気で優しい碧眼をしているのに、こちらは活発だったらそれは太陽のようで、鋭い眼光は金色の瞳をより強調してるように見える。


「皆様が勇者様でございますね」

「えと、はい。僕が勇者です」

「パラシフィリア様より神託で聞いております。勇者レオン様、戦士ギン様、魔導士セナ様…魔王を討ち滅ぼすために選定された強き人達と」

「貴方がセシリアさんで…いいんですよね?」

「申し遅れました。パラシフィリア様より神託で告げられ参った聖女の任を預かっているセシリアと申します。旅路に行くのが遅れてしまい申し訳ありません」


 これは、雰囲気だけで言ったらセシリアさんの方が神秘的で聖女だと言われたら、そうなのだと納得してしまいそうになる。


 その後もセシリアさんは旅に遅れた理由として道中の人々に救いの道を説いたり、または魔物を討伐するために教会の戦力を投入して遅れたのだと言う。


「それならクレハだってしてたわ…」


 セナが小さく近くにいる僕にしか聞こえないように呟くが、僕たちもクレハさんが言うならと村が困っていたら助けたりもしていた。


 ヴォルグハイエンに乗った後も転々として急いではいたが、どういう基準か村にたまに寄っては回復魔法を名乗りと共にかけていってた。


 やってることはどちらも変わらない…そう思うのだが普段から大仰な態度を取ってるクレハさんとセシリアさんを見ればこちらの方が聖女ではないのかと思ってもしまう。


「皆様はどのような旅をしてきたのでしょうか?」


 そう言われるのを、聞かれるのを待ってたと言わないばかりにギンが説明していく。自分たちのことではない。クレハさんがどんな風に村の人や町の人を助けていったとか。セナも回復を魔力切れが起こしそうだとしても苦にした様子もなく助けて行ったと補足しながら。


「勇者レオン様はどう思いなのですか?」


 二人の話を聞いて思案気にした後に、僕に聞いてくる。


「僕も同じような話ししかできないです。彼女は僕に勇者として勇気をくれる不思議な人です」

「勇気をくれる…ですか。私にはきっとそのような真似は出来ないでしょうね」


 何か言ってくると思っていたら、受け入れられてしまい。僕たちは拍子抜けになりながらもどうしたものか逆に困ってしまう。

 クレハさんなら絶対に言い返してくるんだけどな。


「ただ聖女としての振る舞いがしかとあったとなれば減刑も願えるかもしれません。私から国王には伝えておきましょう」

「減刑って…クレハはどうなるのよ?」

「本来は死刑です。聖女を騙っただけでなくパラシフィリア様から神託を授かったと虚言を吐いたとなれば罪はより重くなります」


 虚言…たしかにそんな都合よく神託が来るのかというタイミングでよくクレハさんは口癖のように都合が悪くなれば神託がどうのと言ってた気がする。


「きっと聖女という存在に憧れてやってしまった子供心みたいなものなのでしょう…それならばあの子もこれからは悔い改めてパラシフィリア教会に戻れます」


「それは違うと思います」


 つい、言葉が出てしまった。


「クレハさんは誰に対しても平等に接していました。それは僕達が勇者だったとか選ばれたとかそんなことと思うように平等に。子供心で魔王に立ち向かえるものですか?彼女は戦場にも行ったことがあると言いました。本当に恐怖もなく興味本位みたいな感じで行けるものでしょうか?」


「私も。少し興味があります。時間を取って彼女と接してみようかと思います。」


 僕が言ったからなのか、それとも元から興味があったのかは定かではないが。これで少しでもクレハさんの手助けになればいいんだけど。


 三人でテラスから離れたあとは暗い空気が流れてしまう。


「本当にクレハは聖女じゃないのかな?」

「おいおいセナはクレハが聖女じゃないかもって言ってなかったか?」

「セシリアさんに会ったらオーラが違うって思ったけど…なんだろう。簡単に死刑を言ったり、罪とかそういう言葉を聞いちゃうと人の心があるのかなって思っちゃった」


 人の心か。それならクレハさんほど人の心を持った人はいないかもしれない。


 それぞれの部屋に戻った後も考えてしまう。

 聖典を見ながら彼女は一体なんだったんだろう?と。


「皆が絶望しても勇者は立ち向かう強さがある…」


 聖典に書かれていることは勇者として心得が書いてあるだけ。ただこの聖典のおかげで僕は人の向き合い方が変われたと思う。


 村にいる人達が暗い顔をしていれば、どうしたのかを聞いて解決できそうなことはないかとか。


 町にいる人達がつまらなそうな顔をして歩いている姿を見ればクレハさんがこの町に来たからにはきっとそんなもの笑顔に変えてくれる。だからそれを手伝えることをしたいと。


 パラパラとめくる聖典が、今の僕にぴったりと言えることが書いてあるページになる。


「どうしようもない理不尽に晒されて仲間を助けれなかったとき、勇者は挫けません。本当の敵とは自分に嘘をついて理不尽を享受してしまうこと」


 理不尽といえば理不尽だろう。彼女は少なくともセシリアさんと遜色ないほどに活躍していた。それが神託と言う理不尽によって僕たちの仲間を助けれないでいそうになっている。


 もし僕がこのままセシリアさんと一緒に魔王討伐に向かえばヴォルグハイエンも怒るだろう。

 いや…それだけじゃない、クレハさんに不当な扱いをしたこともあの龍なら怒るかもしれない。


 僕たちの仲間なんだ。クレハさんは。


     ***

〈クレハ〉


「おうおうこれはなんだ?」

「あぁ…!それはこのクレハの貯金です!」

「こんな大金…さては横領していたな!?」

「この聖女たるクレハが横領などと!この光の大聖女クレハがそんなやましいことをするわけないじゃないですか!」


 このばっかやろうが!このクレハが一体どれだけの苦難を乗り越えて集めた金だと思ってるんだ!


「ネックレスもさては奪ったものか…こいつなんでこんな金目のものばっか持ってんだ!」

「それは貰い物です!勇者たちに聞けば分かることでしょう!確認を取ってきてもらって結構です!そのあと本当のことだったと貴方はこのクレハを虐げたことを後悔することになるでしょう!」

「ま、まぁ真偽の確認はしておいてやる…ネックレスは返すよ」


 馬鹿な…このクレハ様がたかだか50枚ぽっちの金貨にしかならないネックレス一つになるだと…?


 こんな不当な扱いを受けて許されてたまるものか!


「ん?貴方怪我をしてませんか?ヒール」

「お、おう?ありがとうな」

「このクレハにかかればその程度の傷どうってことないに決まっているでしょう!分かったらこの城にいる怪我人全てをここに連れてきなさい!いいんですか!?死人が出ては遅いんですよ!怪我から病気になる人もいるんですから!」

「わかったって…なんなんだこいつ…」


 やることないしなぁ…てかこの薄い布一枚とクッション性など皆無の石床で寝ろってか?

 こいつら後で覚えてろよ。


     ***


 牢屋からお届けしますこのクレハ。


 ベッドでだらけながら最近のあったことを話していこうかなと。


「こんなか弱い美少女を冷たい石床で眠らせるつもりですか!?身の程を弁えなさい!国王の命令?そんなこと知りませんよ!ああぁぁ神託がパラシフィリア様から…え?神託が嘘?兵士が!教会の聖女たるこの私が言う神託をどう嘘だと言うんですか!パラシフィリア様本人を連れてきて確認すればよいでしょう!できないならせめてちゃんとした食と住を整えなさい!」


 など…ありましたねえ…一日でベッドが用意されたはいいけど、それも飽きたので。


「ちょっとそこの兵士!このクレハが暇してますよ!どうせ看守をして暇なのでしょう?ボードゲームでもして暇を潰しましょう。仕事が?知ったことじゃないですよ!このクレハを見張るのが貴方の仕事ならこのクレハと遊んでいたって仕事を両立出来るじゃないですか!少しは考えて看守しなさい!」


 などなど、あったなあ…一週間近く牢屋に住んでるけど案外悪くないんじゃないかな?


「看守よ、このクレハ喉が渇きました」

「おう、嬢ちゃんほれ」

「ちょっとー!ぬるいんですけどー?このクレハは冷えた飲み物がいいんですけどー?」

「わ、悪かったな…それにしてもなんでお前囚われてんの?兵士のほとんど傷治していって人気になってるぞ?」


 このクレハにかかればそのくらいの人気で満足するわけないだろうが!もっと国賓級にもてなせよ!まぁ別にマナーとか考えなくていいからいいんだけどさ。


「そういえば聖女を騙ったとか言われましたけど、聖女がいるんですか?」

「セシリア様のことか。あの人こそ本物の聖女って言うんだろうなぁ」

「このクレハは光の大聖女なので所詮は下位互換ですね」

「まぁ嬢ちゃんが聖女って言われても不思議ではないわな」


 すっかり仲良くなった看守とものんびりと周りの世間話を聞きながら勇者達何してるんだろうと思って聞いてみると下位互換の聖女と仲良く魔物を討伐しに行ったりなどしてるらしい。


 あいつらすぐに別の女に切り替えるとか最低だな。魔法使いは同姓だから仕方ないし戦士もそう言う口だからいいんだけどさ。


「ま、そろそろ飽きてきましたし。看守よ、ここから出しなさい」

「できねえよ…それはさすがに」

「逃げたりはしませんよ?ちょっと必要なことがあるので城下町まで行くだけです。付いてきますか?」

「勝手に出すのはなぁ…」

「貴方いつも風邪を引いてますよね?それも同じ病気です。このクレハが治すのは菌のみです。貴方の病原菌への体性を上げることは出来ません。ということは貴方の家族が病気でもない限りそこまで病気を患ってないでしょう?黙って開けなさい」

「……そんなことのためだけに出せってか?」

「人の命に、そんなことがあっていいはずがないでしょう。このクレハ様を誰だと思ってるんですか」


 まぁ、多少は体を動かさないとさすがに太ってしまいそうだし。たまには城下町で久しぶりの運動でもするか。


「あ、あと見張りの警備強化とか言って頭がちょっとハゲてる兵士と肥えてる兵士も連れてきなさい」

「あいつらとも知り合いなのか?まぁ…女房のためか…」

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