第9話 クレハ様は進んでいく

〈レオン〉


「ヴォルグハイエンは普段どんな生活をしてるんですか?暇じゃないんですか?クレハ的にドラゴンと言う生き物は宝を集めてると思ったんですけど」

『集めておる者もいようが我はそれよりも妻の方が何よりの宝である』

「殊勝な心掛けをしているようですね!このクレハ的にポイントは高いです!」


 ドラゴンが目の前でクレハさんは呑気に話をしている。

 教会の信仰している神の批判。なにより魔王を討伐しないとまで言ってのけた。僕たちの目的は魔王討伐だと言うのに、これをこのドラゴンが知ったら逆鱗に触れることになるのではないかと気が気じゃなかったが。


「レオンは何この世の終わりみたいな顔してんのよ」

「セナ…今までクレハさんは色んなことをしてきて話してくれたけど魔王討伐をしないって言うのは本当なのかな?」

「私も信じれないわよ。でもクレハは言ってることはめちゃくちゃだけど実際にドラゴンと心を通わせてみせたし、魔王討伐もクレハからしたらその通りだなって思っちゃったわ」

「その通り?」

「私も、ギンもレオンも。言われてやるだけの存在だったけど、あのドラゴンと話してるのが本当なら教会について私が何か言っても気にした様子なんかなかったし。魔王を討伐って言うのも私達が無傷で戦争を止めたら討伐みたいなものだなって」


 それは倒すことより難しいことなんじゃないだろうか?あのドラゴンの話しだと人間を憎んでるような言い方をしていた。


 なのにどうやって止めるのか彼女が答えたのは教会の否定と共に言った魔物との共存の道。


 頭が痛くなってくる始末だ。ただそれでもやってのせるのだろう。セナの言う通り魔王に直談判でもしにいくのだろうと…随分とここ最近で意識が色々変わってしまった。


「クレハさん」

「どうしました勇者?さてはヴォルグハイエンとお話がしたいのですね!勇者もロマンには勝てませんか!」

「それは…話したいと思う気持ちもあるけど。不安な時は話しかけていいって言ってたからかな」

「このクレハにすべてを打ち明けなさい。いくらでも聞きましょう迷える子羊よ!この聖女クレハに!」

「戦争はずっと続いてきた。僕が生まれてきたときにはすでに戦争をしていたし本当に無血で終わるのかなって」


 ドラゴンを目の前にしてクレハさんがどんなことを言うのかも気になって純粋に思ったことを聞いてみた。


「無血なんてありえないことをどうして急に言い出したのかは分かりません?今も戦争をしているでしょうし、今も死人が出ていることでしょう。それは魔王側も同じことが言えます。このクレハからしたら戦争なんてしてないでもっと生産的なことをしてほしいところですが魔王も試みて失敗したそうですからねヴォルグハイエンの言う通りなら交渉の余地はありそうですから先にグランディアの説得をやるべきでしょう」


 あっけらかんとした様子で僕がおかしいのかな?なんて思ってしまうくらいにあっさりと死人が出て当たり前という。情勢を理解した上でこの戦争を止めるのかクレハさんは。


 でもそこまで理解してるならきっとグランディアに対して言うことはすでに決まってるのかもしれない。


 実際にドラゴンと和解してみせたのだからもっと心の底から信じてあげないと、僕はクレハさんの仲間なんだから。


     ***

〈クレハ〉


  ヴォルグハイエンの番いのドラゴンにも挨拶をしてどうやって運んでもらうつもりなのかを聞かれたら、どうせ馬車の中身である食料はほとんど盗賊に渡したのだ。馬だけ足で傷つけないように掴んでもらって背中に私達が乗るから首に紐を括りつけて命綱だけはあるようにしてもらう。


『では行くぞ?』

「安全運転第一です!それと森に行くのを忘れないようにするのと、町くらいの大きさのところではヴォルグハイエンの紹介も兼ねて休憩しながら行きますよ!」

『そんな面倒なことせずに一直線に向かえばよかろう…?』

「そんな面倒なことをしないと平和な未来なんて訪れないんですよ!」


 こいつには平和とか魔王を倒さないと言っておけばとりあえずなんとかなりそうで使いやすい。


 しかしそれも我慢だ!ロマンあふれる空の旅!そして、この光の大聖女クレハがドラゴンを従えてるとなればアイドル的にブランド力が他とは格の違いってやつを思い知らせれる!


「さぁ!ヴォルグハイエンよ!貴方が普段見ている景色を仲間であるこのクレハ様と共に楽しむとしましょう!長生きして退屈だった日々をこのクレハが見事に彩ってあげます!」


 本人なりに気を付けて飛んでるっぽいが、鱗が固くて尻が痛いし、鱗の隙間とかに引っかかるところも痛いから回復魔法を周りの奴にもかけておかないとな。


 だがその苦労も空の景色を見れば些細なものだと言える。


「勇者よ、戦士よ、魔法使いよ!このクレハと共に覇道を共に行くものとして最上の景色を新たなる仲間と一緒に楽しみましょう!」

「ハハハ!山よりすげえな!」

「綺麗ね、世界がこんなに見えるなんて思わなかったわ」

「きっともっと凄いことをやってくれるんだろうねクレハさんは」


 勇者以外は晩御飯奪うとして、このクレハをまず褒めるとは!分かってきたじゃないか。


 森に近づいて盗賊がいるであろう場所を極力低空飛行してもらうけどどこにいるか分からなかったからとりあえず、もう盗賊やめろよって意味を込めてこのクレハと新たなる仲間を散々に褒め称えた歌を歌いながら次の町へ行くことにした。


 ちゃんと伝わってたらいいけど。


     ***


 気が休まる暇がないとはこのことか、町に降り立てばドラゴンが来たと騒ぎ始めるからこのクレハがそれに対して堂々たる喧伝を触れ回らないといけない。


 移動は便利なんだけどなぁ…。


「この光の大聖女クレハと勇者一行の新たなる仲間!聖龍ヴォルグハイエンをどこぞのドラゴンと一緒にしてはいけません!」

『大抵の龍は魔王と知り合いなのだが?』

「中立を保ってるなら敵ではないのですからそんなちっぽけな考え捨てなさいヴォルグハイエン!」

『ち、ちっぽけか…』


 ドラゴンのくせにこのクレハに意見を唱えるなんてみみっちいたらない!


 ただ大人たちは慌てふためいてるが、子供。特に男の子は触っていいかと聞いてきてもちろんと言うとわりとマスコットキャラみたいに人気が出てくる。


 これをあと何回繰り返さないといけないことになるのか。


「ドラゴンと共にあることが聖女と勇者一行である何よりの証拠!魔王を!国を平和にせんがために立ち上がったこのクレハ達を十分にもてなすことを許可します!」


 こんな町なんかドラゴンがいれば跡形もなく壊すことなんてできるんだぞと言いつけるように伝えた後は調味料使いたい放題の料理祭りをしなければいけない。


 さすがにドラゴンを養うとなったら食料の減りがとんでもないから町全員で祭り騒ぎのように肉をかき集めてひたすら調理していく。


『美味である!』

「このクレハの料理を不味いって言ったら鼻に香辛料突っ込んであげます!」


 他の料理人も手伝わせているし、町の人も多く手伝ってくれてる。


 毎回これするのかぁ…なんかもう少し楽にする方法ないかな?って考えたくもなる…なるのだが良い方法がこの叡智を持ってしても中々思い浮かばない。


「ヴォルグハイエンよ、貴方って鱗生え変わりとかないのですか?」

『それならばあるが、どうしたのだ?』

「じゃあ鱗をください。売ります、そしたらもっと貴方を満足させる町で怖がってる料理人を商人が説得して手伝ってくれるはずです」

『まぁ…構わぬが』


 本人の食い扶持なんだから本人の貯金こと鱗とか素材でなんとかすればいいじゃん!このクレハ早く思いつくべきだった。


 もしかしたら巣の中とか周りにもそういう素材はあったかもしれない。


「クレハさんは本当にいつも忙しそうだよね」

「クレハらしくていいんじゃない?それでも毎回こんな調子だと心配だけどね」

「なんだかんだ俺らはクレハに頼りっぱなしだからな」


 ちゃんとこのクレハのことを心配し気持ちを気遣ってくれてる様子が勇者達にはあるようだけど、君たち料理できないしなぁ…。


 雑用が何もできないんだから何か覚えさせてあげてもいいんだけど、戦闘の役割を一応担ってるから適材適所として受け入れるしかない。このクレハはそこまで狭量ではないのだから!


     ***


ひたすらに町を転々として、あとどれくらいこの地獄は続くんだと思っていたら勇者がとことこ近づいてきた。


「クレハさん、次の大きな都を超えた先にグランディア王国はあるよ」

「本当ですか!?てか地図を見せなさい!」

「それクレハさん町の名前覚えてないから読めないんじゃないかってセナが言ってたけど…」


 わからん!現在地がどこかが分からない。まぁいいか勇者達が読めるなら別にこのクレハが読めなくても。


「しかしそれは朗報ですね!これでようやく苦労が途絶えると言うものです」

「それなんだけど、ヴォルグハイエンと一緒に城まで行くつもりなの?」

「もちろんです!大丈夫ですよ、なんか雰囲気がやばくなったらヴォルグハイエンには逃げるように言ってますし、その一か月後に再度迎えに来いとも説明してます」


 本当に大丈夫なのかななんて言いながら不安そうにしてるが。もともと神託で呼びつけてきた奴だ。これくらいのド派手さがあった方が聖女として一生忘れられない印象を付けれるというものだし。


 しかし、不安に思うのも仕方ないか。このクレハが戦場に出向いていたのは主に南方面で争ってる魔物との抗争だったから東に関しては情報が疎かったりする。


 パラシフィリア教会は全国規模だから影響力としては問題ないと思うけど、グランディアの王様が魔王に個人的な恨みを持ってるとか聞いたことはないが恨みを持っていたら交渉も上手くいきづらいかもしれない。


 少しはこのクレハ様が考えてやるかぁ…しっかたないんだからぁ!


「勇者よ、これを貴方に預けておきます」

「これは?金貨?」

「魔金貨と呼ばれる物です。一枚で普通の金貨100枚分くらいの価値はあります」

「どうして急にこれを?というかクレハさんそんなお金持ってたんだ」

「勇者たちは貧乏ですからね、王国ともなれば多少は買い物をしなければいけないでしょうしヴォルグハイエン用の鞍とかも作ってもらいたいですから別行動にもなるでしょう。そしたらお金はどうしても入用になります」

「えっと…クレハさんいつの間にこんなお金持ってたのかな?」

「このクレハにかかれば!人生でちゃんとコツコツと良い事をしてれば聖女として教会から渡されることもあるのです!」


 ええいしつこい!これじゃまるでこのクレハが教会の金を着手してきたみたいに疑ってきてるじゃないか…バレてるのか!?さすがに大金すぎたか!?いや、でもドラゴン用の鞍とか欲しいしなぁ乗り心地悪いし。


 まぁいい!このクレハを疑った罰として食事を少しもらうとして、王国に関しては魔王ともそうだけど行き当たりばったりでなんとかパラシフィリアの名前を出せばいけるだろう。


     ***


 都は大きく、滞在期間を延長したい気分になったが。さすがに規模が大きい場所だとそれ相応にドラゴンを物珍しく見てくる輩がいて困る。


「聖女様…このドラゴンを売るつもりはないですか?」

「貴方は聖女の聖龍を簡単に売買するような薄汚い人間にみえるのですか!?このクレハを冒涜するつもりですか!聖女と勇者の特権で今から貴方の名義でドラゴンに火を吹かせ都を炎の渦にしてもいいんですよ!あ、あぁ!し、神託が!?この商人から闇の気配がすると言ってます!」

「す、すいませんでした!」


 そう言って追い払ったりしているのだけど、よくもまぁ堂々と聖女と呼ばれる教会の人間に言えたものだ。商人初心者なのかな?


「あぁいう輩は多いぞ?クレハはどう思ってるか分からないが戦争地帯に近づけばそれだけ汚いことを考えるやつは多くなるからな」

「戦士はそう言うの詳しいんですか?」

「俺に限らず他の奴も知ってるよ」


 そう言われて勇者たちを見れば頷いてるからそうなのだろう。


「じゃあ都に長居してもあまり旨みが少ないですね。貴重な魔道具とかあれば欲しかったんですけどさっさと王国に行きましょうか」

「それが良いと思うよ。特に、セナのことではないけど魔法使いがいるとドラゴンを素材にしたいがために闇討ちなんてこともありえるからね」

「魔法使いはそういう生き物なんですか?」

「魔法の杖に鱗を使うこともできるし、貴族が多いと単純に物珍しさで何か言ってきたりもするかもしれないね」


 貴族か。生まれてこの方貴族と関わってきてないからどんなものか分からないけど、さぞこのクレハに貢いでくれることだろう。

 教会の名前はそれほど強いだろうし。


「ではさっさと行きましょう!この光の大聖女クレハと勇者、そして聖なる龍ヴォルグハイエン!旅立ちの時です!都に住む多くの者はこのクレハが来たことに感謝なさい!」


 そう言ってみんなでヴォルグハイエンに乗って、都の外に置いてきた馬を拾いつつ、いざグランディア王国へ!これで引きこもりだー!


     ***


 そのまま王都を超えて城の庭に着陸してもらい、颯爽と勇者に担いでもらって地面に降りると周りは兵士だらけの状況だった。


 まぁ致し方ない!ドラゴンと共に聖女が来たのだからな!


「この光の大聖女クレハ!と勇者一行が魔王をどうにかするために神託を受けて参りました!国王の元まで案内することを許可します!」


 さぁ!者どもよ、待ち望んでいた聖女様はここにいる!崇め奉った上で聖女様に平伏し感謝の意を唱えるが良いわ!


「貴様が聖女を騙るクレハだな!まさかドラゴンと共に来るとは思わなかったが王国より捕まえろと通達されている!」

「はて?」


 なんかやばいやつか?とりあえずヴォルグハイエンに一旦どっか飛んで行けと目配りをして飛ばせる。


 これは逃げるしかないかな。なんでバレたんだ?いや聖女を自称はしてたけどなんか思ってた待遇と違うし。


 勇者の方を見れば唖然としていて、それは戦士も魔法使いも同じ顔をしている。何を呆けているんだ。


「龍には逃げられたがその者を捕えろ!」

「は、離しなさい!?この光の大聖女クレハ様に気安く触れるとは何事ですか!勇者達も何か言いなさい!」


 抵抗も空しく、牢屋に入れられてしまった。あれー?でも勝手に名乗ってたけど迎えに寄こしたのは王国側なんじゃないかなぁ?あれー?

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