第7話 クレハ様は笑い飛ばす
〈クレハ〉
またつまんない移動だ。
せっかく楽しい誕生日を迎えても結局余韻しか残らなかったし。てか魔王ってどこにいんの?
「勇者よ、魔王城はどこにあるんですか?」
「魔王城は東だね。ここからだと1年以上はかかるんじゃないかな?」
そもそもが旅立って三か月ももう浪費してる。このクレハ様の寿命を三か月も損失してるのだ!
もっと早い移動方法とかないの?ドラゴンとかそう言うの用意してくれないかな?
人間はそもそもそんなに長生きではないのにこのクレハ様の寿命ともなればもっと尊いのに何故馬で移動しなければならないのかを国王に問いたい。
「そもそもクレハが来るって聞いていたのに来なかったんじゃないの?」
「なにを言ってるんですか!神託で勇者が来ると言ってたのです!もはやパラシフィリア様が原因としか思えません!」
「あんたがそれ言うの?」
第一になんで国で戦ってる相手にこっちはたった四人程度なんだ。軍隊を寄こせ!死ぬだろうがこのクレハ様が!
グランディアに引きこもる計画を実行するにしてもこの移動はあまりにも無駄が過ぎる。ここはもう少し頭を使うか。
「勇者よ、馬より移動の早い物はありますか?」
「え?ないけど」
「戦士よ、以下略」
「言いたいことはわかるけど無いんじゃねえか?」
「魔法使い」
「むしろこっちが聞きたいわ」
「大いなるナッシング!クレハ的にさすがに疲れました!故に勇者よドラゴンを探すのです!」
このクレハが言うと三人は怪訝な顔をしている。
「クレハさんドラゴンは魔物だよ?」
「人語を介するドラゴンがいるかもしれないですよ?」
「いたとしても敵なら勝てないんじゃないかな?」
「魔王よりドラゴンの方が怖いんですか?」
魔王が魔物の頂点だから魔王なんじゃないのか?それともドラゴンはそんなに脅威なのだろうか?まぁ飛ぶし、火を吐くし、鱗は強靭で、巨体だが…それでも異世界と言ったらドラゴンだろうが!
「よし、作戦を考えましょうか」
「そのクレハが言うならやるんだろうな」
「まずはとにかくドラゴンです。見つけるところから始めないといけませんからね」
勇者と魔法使いは呆れた顔をしてるが戦士はちゃんと理解してくれているようだし問題は無い!無いったら無い!
***
通る村、町を進んで情報を集めつつどこかにドラゴンはいないかなぁと聞けば誰も知らないという。
ゴブリンやウルフなどは森に住みついてるし行くとしたらこのクレハが徒歩になるからできれば馬車で通れるところがいいんだけどな。
「おいレオ!これ面白いぞ!」
「聖典もらえてよかったねギン」
このクレハが書いた聖典を喜んでる戦士は無邪気だなぁ…なんて和んでる場合じゃない。このクレハが窮地に立たされているのだ。
「ねえクレハ聖典の続きとかないの?」
「魔法使いはこのクレハに――」
「物乞いしてるのクレハ、続きないの?」
「そこまで言うならこのクレハに任せておきなさい!世界全てを探してもこのクレハ以上の叡智はないのですから当然用意して見せましょう!」
「ありがとうねクレハ」
て言っても二巻とか考えてなかったし考え直さなきゃな。一巻で何書いたっけ?もう覚えてないんだけど。まぁいっか、このクレハが思う最強魔法を適当に書こう。
しかしドラゴンが居ないとやっぱり遅いよなぁ…魔法使いがテレポートとか覚えれたらいいんじゃないか?
「魔法使いは時空魔法とかないんですか?」
「なにそれ?」
「好きなところへ一瞬で行ったり、無限に物を収納できたりです」
「それが出来たら魔王なんか私一人で倒せちゃうわ」
それもそうか…まぁ無理強いは出来ない。魔法に関してはこのクレハ無知だからな!
***
「クレハさん、ちょっと歌ってくれない?」
「このクレハに歌を所望するとはさすがは勇者というものです!いいでしょう!」
このクレハが歌うとそれに合わせてリュートを何とか弾いているのでこちらも勇者が出来るようにテンポの遅いゆっくりな歌に切り替える。
生誕祭以降からか勇者が楽器を真剣に練習しだしたのでこちらとしては嬉しいのだけど、もしかしてこのクレハ様の歌に魅了されたのだろうか?まぁ当然か。この声可愛いしな!
「やっぱりちょっと難しいね」
「曲さえ選べば十分でしょう!それにこれから何度もやることになるのだから今のうちにやっておいて損はないです!」
「そうだね。頑張ってみるよ」
殊勝な心掛けで実に良い!
歌を歌い、クレハ様の讃美歌を世に広めるために活躍することだろう。魔王を倒したら雇ってやるか勇者一人くらいなら儲けが出るだろう。
それを考えたらダンサーとして魔法使いも雇って、仕込みとしてサクラ役で戦士を使ってもいいな。案外役に立つかもしれん。
もう少しで村に着くという時に盗賊が現れた。
「お前ら!生きたければ出すもん出してから通りな!」
「チッ、レオ…やるか?」
「そうだね。ここは――」
「クレハストップ発動します!」
まさに名案とはこのことか!そして時の巧妙である!
「貴方!そこの盗賊たち!何人いるのですか?」
「え、お前誰、荷物を――」
「このクレハをご存じない!?魔王討伐の任を託された唯一無二の奇跡を起こせる大聖女クレハ様を知らないと!そう言うのですか!?」
目に見える範囲で14人、さすがにそんな数の人間が死ぬところはあんまり見たくないな。まぁ、それに限った話ではないが。
「まず貴方達はどうして荷物を欲するのですか?殺して奪えばよいではないですか?」
「クレハ!?」
「まぁ魔法使い落ち着きなさい。それで何故なのですか?」
勇者たちも動揺してるがそんなこと知ったことか。このクレハ様に任せておけばいいのよ。
「俺たちは食い扶持がほしいだけだ、命が惜しいなら食料を置いて行ってもらう」
「ならば何故殺して奪わないのですか!このクレハの命が惜しいと貴方達の心の訴えではないのですか!?食料だけではないでしょう。馬車だって売ればそこそこの日銭にはなります馬を使えば移動には便利です。それでも行動を起こさないのは貴方達も本意ではないのではないですか?」
「お前ら命が惜しく――」
「惜しい命などいくらでもあります。そして何よりも命が惜しいと思ってるのは貴方達です。貴方達がこのクレハ達の命を惜しいと思っている。反論があれば聞きましょう、名もなき民よ!こちらはたかだか四人という少人数!」
精一杯の訴えを行えば多少なりとも動揺してくれるらしい。本当に本意ではないのだろう。尚都合が良い。
「このクレハ達も旅路ではありますが食料を分けましょう。次の村か町に着くまでの最低限までこちらは譲ります」
「お、おう。最初からそう言えば――」
「ですが何は無くとも物は無くとも貴方達には類稀なる人間という存在!情報を分けてくれませんか?」
「情報だぁ?そんなの俺たちに聞いてどうするんだ?」
「まずはドラゴンです。ドラゴンを見た者はいませんか?」
勇者達がまだ諦めてなかったんだと囁いてる声が聞こえるがそれは一旦置いといて。諦めてはないが諦めてる。
手懐けることは難しそうだしな。
「おらの村がドラゴンに焼かれただ…」
はて?盗賊の一人が喋り出す。そしてその内容を聞けばつい先日一週間くらい前にドラゴンが山から降りてきて村の家畜を食べ尽くし村をブレスで焼いて山に帰ったそうだ。
「貴方にこの大聖女クレハが施しを分けましょう。たんと食べるのですよ」
「あ、ありがとうだでも、聖女様はドラゴンのことを聞いてどうするだ?」
「決まっています。倒すか仲間に加えます!」
「お前ら正気か?他の三人もこの女みたいにイカれてんのか?」
「女ではないです光の大聖女クレハ様です!」
勇者達にもこいつらに食料を出来る限り分けるように指示して渋々だけど手伝ってくれた。さっさと動け。
「村はどこですか?それともう一つ聞きたいんですけどグランディアまでの近道みたいなもの知りませんか?」
「村は森を超えた先にあるだ」
「グランディアの近道は知らん。だが森の先は焼けた村しかないぞ?その残りの食料で大丈夫なのか?」
「問題ありません。ここにいるは魔王を単独で倒せる勇者に大魔導士と鉄壁の戦士が居ます。なによりこのクレハがいます!」
さぁ!行く道は森だが、一応馬車が通れそうな道を聞いておいてそこに進もう。
***
〈レオン〉
本当にドラゴンを探しに行くつもりなのか盗賊たちと仲良くなってドラゴンを仲間にしたら盗賊ではなく新しく村を作り直せという口約束をしてクレハさんが平然とした顔で教えられた道へ行けと言う。
魔王を倒す前にドラゴンに殺されるんじゃと思うも、ギンは楽しそうに。セナは呆れながらもクレハさんと談笑している。
まるで僕の方がおかしいみたいだ。ドラゴンなんて聞けば誰だって怖いはずだ。盗賊も村をなすすべもなく焼かれたようだし。
「ギン、本当にドラゴンを倒せると思う?」
「ちげえだろレオ」
「なにが?」
「仲間にしに行くんだろ?クレハは何言ってるか分かんねえ、でもよ。魔王に挑んでやられるか、ドラゴンに挑んでやられるのもどちらも同じならクレハの妄言か真言かに付き合ってやろうぜ」
たしかにどちらも生きて勝てる見込みなんかあるわけではないが。仲間に入れと言ってそう簡単に仲間になるなら誰だって苦労はしないだろう。
「クレハさんは仲間にする作戦とかあるの?」
「ありませんよ?第一初対面ですし相手の話しも聞いたことないですからね。とりあえず大事なのは第一印象と自己紹介です」
「あはは…」
夢物語だ。それでも本気で言ってるのだから夢ではないんだろう彼女にとっては。ただ、どこかで心に思うのはそんな夢すら実現にしてしまうのではという期待。
「勇者、このクレハ…いえ勇者一行というものに明らかに足りないものがあるのです。それは知ってますか?」
食料か、金か、はたまた戦力か。足りないものしか思い浮かばない。
「足りないのは希望です。このクレハが希望の光というのは当然ですが、それでも尚人々は思うことでしょう?本当に長く続いたこの戦争を止めることは出来るのか?それならばその不安を根こそぎ取ってやるのです!何よりインパクトは必要です!」
希望…たしかにそうなのだろう。クレハさんが僕たちと一緒にいて僕たちは明るくなった。
それでも王国に行けば今尚終わりが見えない魔物との抗争を続け、明日への希望なんてなかったのだから。
「それならばやることは決まってます。戦場で限りの無い絶望をこの大聖女クレハ様達が分かりやすくしてしまえばいいのです!」
「おとぎ話で…勇者がかつて魔王を倒したことがあると言われているんだ」
僕が昔見た絵本の内容を思わず喋ってしまう。
「その内容は一人の一騎当千の勇者がいてどんな苦難も物ともせずに突き進んで魔王を倒したと言われてる。僕はきっとそんな勇者じゃない、それでもクレハさんは僕が魔王を倒せると思うの?」
「誰も彼も最初はそんなものです。無理だろう、諦めたいだろう、辛く何もしたくなるなるだろうと言います。その勇者のことを考えたことをありますか貴方は?きっと苦しかったでしょう。それでもその話をしたとき彼に不安が無かったと思いますか?夢とは希望とは数多ある妄言のような物から始まるものです。それをしなければ実現など不可能なのですから」
言い切って見せる。どうしてそこまで前向きになれるんだ。
僕は今からでも怖くて震えてしまう。元々戦いに身を置いていつ死ぬかという怖さがもう本当に来てしまうんだと思うと怖くてその手は震えてしまうが後ろからクレハさんが僕の手を優しく包み込む。
「勇者に良い事を教えてあげましょう。もし怖くてどうしようもないときはそれを泣きながらでも苦しみながらでもいいです。笑ってしまうんです。明日を、来年を願って笑って飛ばしてしまうのです!」
その言葉にセナも不安そうにしてただろうに笑っていた。
ギンは元々楽しそうだったのがもっと楽しそうに笑う。
僕は笑えるだろうか?
「そういうクレハあんたは楽しそうにしてるところは見たことあるけど笑ったことは見たことないわよ?」
「失礼な!このクレハとて人間です。神々しすぎて忘れてしまいましたか?ならば普段は見せないことを皆さんに見せてあげましょう!あーはっはっは!このクレハ様に感謝なさい!」
「あはは…あははは」
そんな笑い方をする人いるんだ。一切の嘘も無いように朗らかに高らかに笑う彼女がこれからドラゴンに向かってるなんてことを想像できる人なんていないように。
明日は必ずやってくる。生きてまた笑える日が来る。それを自然にも動物にもそして僕たちにも笑い飛ばしてくれるのなら信じよう。そのクレハさんの笑顔に応えたいと思える僕がいる限り。
***
〈クレハ〉
ドラゴンてあれだろ?獣と同じだろ?トカゲみたいな。そんなん言葉が通じなかったらこいつらなら倒せるだろう。
なんて言ったって勇者なんだから信じてるぞ脳筋どもよ!このクレハはどうせ戦わないから後ろから応援してるからな!
まぁ、あれだけ励ませば多少は士気も上がるってものだろう。なんて言ったってこのクレハ自らが宣言してやったのだから。
「あーはっはっは!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます