第4話 クレハ様は戦闘しない
〈クレハ〉
このクレハチョイスのオシャレ魔法使いを披露して可愛いと二人から言葉を引き出して満足したり。
このクレハが町を出ることを惜しまれながらも食料等を無料でもらってまた魔王討伐に向かって数日。
こいつらはどうやら芸と言うものが全くないようだ。その証拠にちょっとこのクレハ様がだらけて昼寝をしているとボソボソと勇者と戦士がくっちゃべってるだけ。
「クレハ起きたの?」
「魔法使いはこの危機がわからないようですね。おはようございます」
「危機ってなによ…」
「本当に分かってないようですね!このクレハ呆れました!ですが安心しなさい。そのために町でちゃんと奪って…貰ってきた、確かこの辺に置いてた…リュートです!」
そう。このクレハは常々思っていたのだ。このクレハが何かしてないと讃美歌の一つも流れない風情の無い旅路に。
これなら誰かしら練習すれば弾けるし、いざクレハ様が歌おうとしたときにはバックミュージックとしても大活躍間違いなし!
「さぁ!」
「え…さぁって言われても、私弾けないわよ?」
「織り込み済みです。このクレハに抜かりはありませんよ。勇者か戦士よ覚えなさい」
そう言うとこのクレハが起きたことで勝手に盗み聞きしていた二人に話を振ると予想外だったのか二人して首を横に振り始める。
「僕たちも弾けないかな」
「そうそう。てかいつもの見本を見せてくれよここのクレハなら何でもできるんじゃねえの?」
ふぅ。こっれだから戦うことしか頭にないやつらは困る。
しかし頼られるというのも悪いものではないな。何でもできると思われていたこともクレハ的にポイント丸だ。ただこのクレハは面倒くさいことが嫌いだから代わりが務まる者は基本的に代わりを用意する。
「あんたまさか誰も使えない楽器持ってきたの?」
「このクレハに不可能があっていいはずがありません!誰だと思ってるんですか?これだから魔法使いは困ります。しかし聖女には楽器を弾けないという呪いがあるのでこのリュートは勇者にあげます。この中で一番楽器弾けそうなのは勇者がビジュアル的にいけるのでクレハのために覚えなさい」
もうこんなゴミリュートに用はない。誰も弾けないならいっそ捨ててもいいのだが、貰うときに弾けそうなやつから奪ったから呪われても困るし。
しかし勇者がリュートを適当に弾いて困りながら分からないと呟いていたので、この音少しは役立つのでは?
「勇者は弦を一定間隔で適当に弾いてみなさい。このクレハが切望されて皆さんが虎視眈々と待っていたこの永遠の美声聖女クレハが歌ってあげます!」
これだ!歌っていて途中でいつも飽きていたのは多少なりとも楽器を弾くやつがいなかったからだ!コンサートでは必ず誰かが楽器を弾いていて歌うことがそんなに苦じゃなかったのもそのおかげなんだな!
適当に2、3曲歌ってると。ふいにこのクレハに感動したのか勇者が「頑張って覚えるよ」と言っていた。これも成長というやつだろう。
***
町や村でコツコツと書き上げた聖典を早速勇者にプレゼントする。
「そういえば勇者にはこれを差し上げます」
「これ何…?」
「これは非常に希少な聖女について書かれた教本です。これを読めば大体のことが分かる優れものですよ、縁起物でもあるのでイベントが起きた際には必ず持ち歩くのが吉です!」
頑張ってクレハ様の褒め方を書いた一冊の本を渡したのだが反応に困ってるようだ。それに戦士も魔法使いもなんか物欲しそうにしてる気がする。魔法使いは分かるけど戦士お前文字読めんのか?ん?そういうことか?
「もしかして勇者は文字が読めないんですか?」
「読めるけど、そんなに本は読んだことないかな。昔見た本も絵本ばかりだったし」
「はっはー…このクレハが、この聖女クレハがその程度の粗末な問題を考えてなかったと思ってるんですね!このクレハにかかれば圧倒的に読みやすさ抜群で随所にイラストも描き聖書として名の恥じないものになってるに決まっているでしょう?誰が書いたと思ってるんですか?」
「クレハさんが書いたの?」
そもそもそこに気づいてなかったのか。教会の連中はパンフレットみたいなサイズの変な神様を崇めるくらいしか基本的にはしない。
パラパラと聖典をめくった後にちゃんと1ページ目から見始める。
「うん、クレハさんありがとうね。読んでみるよ」
「俺にはないのか?その聖典」
「私もクレハが寝てる間暇だから欲しいんだけど」
こいつら…分かってるじゃねえか!このクレハに物乞いのようにせがんでくるなんてもはや聖女に群がるファンそのもの。化身と言ってもいい。
「しかし戦士が欲しがると思ってませんでした。それに聖典はそれぞれ勇者専用、魔法使い専用のを書いてますが戦士はもう少し時間をください」
「私の書いてくれてたんだ…」
「よーしクレハ、お前どこかで俺のことを馬鹿にしてそうな素振りがあったよな?文字読めないと思ったろ?正直に答えてみろ?」
「こ、このクレハ!どんな境地に立たされようと誰にも屈することはありえないと心得なさい!貴方の顔がどんなに怖く!その声で聖女を脅したとしても一切合切を捨ててこのクレハは立ち向かいます!」
「俺を何だと思ってんだよ!」
急にちょっと声を低くされたら…怖いに決まってるだろうが!繊細なクレハ様のお耳汚しだと考えて物を言え!
ただ真面目に文字を読めるか怪しかったのはあるが。欲しがってるなら戦士用の聖典でも書いてやるか。勇者には作法や礼儀とか心得を書いたし、魔法使いにはクレハ様直伝の魔法テクニックなどを書いてるから内容が全く持って違う。
ま、いっか!戦士だしこのクレハ様が覚えてる童話の話しでも適当に書いてやれば喜ぶだろ。もちろん主人公はすべてクレハ様にすり替えるけど。
「満を持して据え膳を待つがいいわ戦士!このクレハ様にかかれば未来永劫末代まで使える聖典を書いて見せます!」
「おう、待ってるぜ?」
***
いつものように村を通る時、村の人から家を借りるんだけど。
そしたら村の連中が魔王討伐の聖女様なら相談したいことがあるんですが…なんて重苦しい雰囲気を持ってゴブリンに攫われた人間がいると話してきた。
「つまりこのクレハに攫われた人間を救って欲しいと懇願してるのですね。でもそういう暴力沙汰はこっちの勇者が担当してますのでこっちに話を通して下さい」
「僕?」
「当然です。仮にも聖女と勇者一行なのですから役割分担はあってしかるべきです」
家を借りる交渉をするのは勇者が不向きだからだ。このクレハが言えば確実に借りれる。
ただ魔物がどうこう言いだすとこのクレハに戦闘能力なんてほぼ皆無なのだから必然的に勇者か戦士だけど、一応勇者の方が名前的に強いしな。見た目は戦士の方が強そうだけど。
なんだかんだと話を聞いた勇者が魔法使いと戦士にも分かるように説明してどうするか悩んでいた?
「攫われたんなら、そいつらはもう助かってないんじゃないか?」
「村の人は可愛そうだけど私達じゃどうしようもないわ」
「そっか…それじゃ断ろうと思うよ」
「ちょいちょいちょいステイ、ステイよ貴方達」
なんて極悪非道なやつらだ!勇者かそれでも!
「仮にも勇者を名乗る者が何を臆してるんですか!戦士も魔法使いも貴方たちはなんのためにその力を蓄えてきたんですか!すべては無辜の人々を救わんとするがため!生きとし生ける民を助けんがために今立ち上がらなくてどうするのですか!」
お前ら、この聖女が人を見捨てたというレッテルを貼り付けたいのか!助けに行って死んでてもたかだか村一つのために奮迅したという事実が大切なのだろうが!このクレハの名声を下げたいのか!
「クレハさんならそう言うと思ったけど、僕たちが行っても間に合ってないかもしれないよ」
「かもしれないなんて可能性の話しです!そんなことを言ってしまったら何も動けないし何も出来ません!すべての物事は成せば大抵なんとかなるんです。そして一番大切なことを言います。このクレハに不可能はありません!」
ほぼ不可能はない!あまり不可能はない!正直だっる~…もう、かもしれないじゃなくて死んでると断言してこのクレハを説得してほしい。そしたらそこまで言うならと村の連中に見せびらかすようにして泣く泣く行けるという構図ができるのに。
「そこまで言うならクレハさんの言う通り行ってみようか」
「そうだなあのクレハだもんな」
「そのクレハならもしかしたらがあるもんね」
逆だろ!なんでお前らが渋々行きますよ見たいな雰囲気出してんだよ!このクレハ迂闊だったか…自分の説得力の強さは勇者程度ではどうにもできないほどに洗脳してしまうのかもしれない。次からはもっと別の言い方してみるか。
てか、ゴブリンの住処ってどこよ?
***
森…つまり徒歩。歩くイズ疲れるというクレハ様をコケにするように悪路を進んでいく連中を後ろから適当にぼーっと眺める。
たまにゴブリンが徘徊してて治安悪いな~って思いながら攻撃食らってそうな雰囲気を出してたら回復魔法を投げつけるように勇者たちに飛ばすけど。これもう見つからなかったとかでいいんじゃないかな?場所がわからない。
「こっちだな」
え?分かっちゃう系?なんか地面に手を付けて勇者が呟きながら進むと洞窟があった。
エスパーなん?お前?
「それじゃレオ、俺が前線に出るがセナはどうする?」
「クレハの聖典に洞窟で火魔法は使うなって書かれてあったからそれ以外で援護するわ」
「クレハさんは僕たちから離れないでね」
このクレハが書いた洞窟で火を使うと酸欠になるかもしれないから注意というのをちゃんと読んでいたようで実に気分が良いのだが、これさついて行ってずっと思ってるけどクレハいらなくね?お前らだけでいいじゃん。強いよ自信持てよ。
でもなぁ、これから洞窟かぁ。嫌だなぁじめじめして暗いところとか。
ついて行くけどさぁ…しかも臭いんだよな。浄化しながら進むか。
たまに魔物が出てきて思ったんだけど、さすが勇者一行ということだけあってこのクレハに今まで付き添いや護衛でいた人間たちより惨い殺し方するし、強いんだけどもう少し綺麗に倒せないもんかねぇ。
ゴブリンがまた見つかってどうするかと言えば首ちょんぱ。狭い洞窟でもお構いなしに斧をぶんぶん振って岩とぶつかって火花とか出ちゃってるしどんな剛腕してるんだよ。こわ。
進んでいくと、村の言ってた連中らしき人間が6人くらいいて、とりあえず臭かったので浄化をして勇者が生存確認をする。
「ここまでの怪我だ。僕たちは…クレハさん、せめてこれから死んでしまうこの人たちに祈ってあげることを――」
「このクレハに祈れと!良いでしょう!それではヒール!」
ちょっと数人は保存食扱いでもされていたのか腕や足が食べられて無くなっていたがそれらもグロテスクに治っていったから良し!いやぁ戦場以来のグロテスクだったけど上手くいったし良かった良かった。
「ク、クレハさんはやっぱりすごいんだね?」
「はて?とにかく戦士!さっさと担いでしまいなさい!」
「いや俺でもこの人数は持てねえよ…レオ、手伝ってくれるか?」
それくらい筋肉すごいんだからやってしまいそうな見た目してるんだけどなぁ。勇者は体格的に1人…いや、2人は頑張ってもらいたい。
このクレハは箸より重いものとか持てないから男共で勝手に役割分担してろと思ったけど魔法使いまで手伝ってる…あれ?これこのクレハ様が手伝ってないと絵面的に駄目なんじゃないか?
「勇者!そっちにいる小さいのをこのクレハに寄こしなさい!他の重たそうなやつを持って行ってくれたらこのクレハが責任を持って聖女として連れて行きます!」
どうせ持つなら華奢な小さいやつを選びたい。そいつに肩を貸すが。重てええ!?ふざけんな!名に食ったらこのクレハ様より豊潤な胸してやがるんだこの女!
「お、おいクレハ大丈夫か?ふらついてないか?」
「このクレハぁ…守るべき者を守って当然のことをぉ…」
「いや無理だろ。レオその子はやっぱりお前が担いでやれよ」
重力の解放!このクレハは身軽になったことで思いついた。そう、回復魔法で常にこいつらを回復してやれば実質全員このクレハが担いでいるのと同じようなものだ!
「急に体が軽くなったわ。クレハのいつもの変な回復魔法?」
「このクレハにかかれば…いえ、この大聖女クレハ様!にかかれば身体能力の向上など容易いのです!」
まぁ実際やってることは筋力低下に伴った身体の回復だから身体能力以上のことできない普通の回復魔法なんだけどね。雰囲気を持たせたらプラシーボ効果もあるだろう!
「クレハさんはやっぱりすごいね。最初からかけてくれたらよかったのに」
「勇者は今日の夕食が今の発言でクレハ的にアウト!帰ったら覚えておくことです!」
「あ…ごめんね?」
すーぐこいつらは文句を言ってくる!このクレハがただの思い付きでやった素晴らしい行いを否定するなんて許されざる行為だ。
だが一理あるので今度から回復魔法は戦闘中でもかけておこう。
***
村に戻ると盛大に喜ばれたので次の町まで夕食を豪華にしたかったし食料をもらって再度旅立つ。
「クレハにしては珍しいわね。村の人にもっと感謝を述べろとか平伏しろとか言うのかと思ったけど」
「魔法使いはこのクレハのことを何だと思ってるんですか…心には思ってもこのクレハは今回何もしてないんだから三人に感謝こそすれど人の成果を横取りなんてしません!」
「クレハも十分したんじゃないの?あれだけの傷、回復魔法で普通は治せないだろうし」
「甘い!あまあまのあんまぁです!このクレハは戦闘に関しては持ちつ持たれつです。綺麗にした分は十分に感謝してもらいますけどね!」
その代わり戦闘はからっきしだぞという意味を込めて言うと魔法使いは満足そうにしている。どうした?
なんか心なしか男二人も満足そうだ。いいのか?このクレハは戦わないことを宣言したのであってそれ以外は本当に全部任せるからな。
まぁいいや、仮にまた肉体労働が必要な時がきたら存分に甘えればいいし。
「セナ、やっぱりクレハさんは聖女なんだよ」
「そうね。本当にそんな人がいるなんてね」
「そこのクレハがいれば本当に魔王も倒せるかもな」
急になんだこいつら!?示し合わせたように褒め始めたぞ!し、しょうがねぇなぁ!
「このクレハ様がいる限り魔王なんて一切の傷を負うことなく倒せるに決まってます!このクレハによって!」
ここまでお膳立てされたら高らかに言ってやるしかない!まぁ城に籠る予定だけどな。
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