第2話 クレハ様は遠慮しない
〈クレハ〉
なんで来るかなぁ。勇者も勇者だ、討伐行くとか言っておいてそのまま逃げればいいのに。
教会でこのクレハが椅子に座り三人を見る。
一人は冴えない男。一人は斧持ってるし戦士だろ。もう一人は女だ、しかし茶髪と真っ黒いローブに身を包んで地味な奴だこいつも冴えない女でいいな。
つまり地味オブ地味。
「コホン、このクレハに用のある勇者は誰ですか?」
「僕です、レオン・ゼーナルと言います。」
「ではレオン、聞きますがどのように魔王を討伐するか考えているのですか?」
「戦いに行くんじゃないかなと?」
「違います!大いなるナッシング!」
なんて野郎だ、冴えない男と思っていたら脳筋野郎だったか。計画もなしにそんなことやってみろ死ぬだろ!このクレハが!
「ではそこの戦士、貴方はどうお考えですか?」
「俺?いや戦いに行くだろ」
「大いなるナッシング!」
まぁもとより期待なんかお前にしてないからいいんだけど。
冴えない女はどうかな。
「…」
「…」
「順番に聞いているのだからそこの魔導士っぽい貴方、答える番ですよ」
「私?それなら言ってよ、神託とかこっちは受けてないんだからさ」
「空気が読めないなんて…チッ」
「なんかこの子ちょっとおかしくない?ていうか魔王討伐なんだから戦いに行かないならなんなのよ」
「大いなるナッシング!」
まったくどいつもこいつもだめだめだ。このクレハ様が少しは考えを捻ってやるか。
「まずは魔王の居城がどのように作られてるのか探りますよ、そしてその後は兵糧攻めか水攻め。なんでもいいのでからめ手を使うのです」
「えっとクレハさん?魔王の居城は荒廃した大地にあるから水攻めは出来ないと思うよ」
勇者がそう言ってせっかくこのクレハが知恵を絞ってると言うのに文句を言ってきた。許せん。
「そもそもだが兵糧攻めだってあいつらは人間を食いにくるからどうしようもないだろ?」
戦士風情がまるで正論を言ってくる。
「大体なんで敵の城を行かないで作戦考えるのよ時間の無駄じゃない」
地味女め…この恥辱万死に値する。回復するときがきたら絶対にゆっくりと焦らして回復してやる。
「もういいです!このクレハ呆れました!しかし一理あるので馬車を用意しなさいクッション性の高いやつを」
そう言ってこの場は締めくくった。
***
盛大に町から見送られた後沢山のフルーツに囲まれながら美味しく移動してると視線を感じてそちらを見ると地味女がこちらを見てる。
「乞食するつもりですか?」
「これ全部あんたが食べるつもりなの?」
「そのつもりですが?」
「腐るでしょ、分けてよ」
「このクレハが!恵んであげましょう!さぁ大いなる果物を頬張りながらこのクレハに感謝なさい」
「はいはいありがと」
ふむ?雑ではあるが、感謝を述べられるのは悪い気分ではないな。
どうせなら他の者にも分けてやるか。
「戦士よ!このクレハが恵んであげます!」
「おぉ?あんがとよ」
さぁ、ここで流れ的に勇者が物欲しそうにこのクレハを見ているはずだとチラ見してみれば何でもないような顔をして戦士と語りだしてる。
おかしいな。ここでどうしてくれないの?みたいな流れになると思ったのに。
「魔導士っぽい貴方にもう一度恵んであげますこのクレハが!」
「う、うんありがと…美味しい」
「そこの戦士にも恵んであげます!」
この戦士、今度は黙って受け取りやがった。地味女は少し素直に感謝してるのに。
まぁ良い本命は勇者の懇願である。そう思い見るのだが戦士と談笑しながら御者で延々と喋るのみ。
「勇者よ、このクレハに言うことは無いんですか?」
「え?えっと急になんだろう?」
「本当は欲しくてたまらないであろう貴方にこの果物を差し上げましょう。それでこのクレハに言うことはありませんか?」
「ありがとうね。うん美味しいよ」
なんかつまらないな。こいつにはもっとこのクレハを敬う気持ちと言うものが必要かもしれない。今後の課題としてクレハ様の聖典でも書いておくべきか。
しかし毎度のことながら馬車はつまらないな。もっとこう激変的な何かが欲しい。
「魔導士っぽい貴方、歌を歌ってください」
「別に好きに呼べばいいけどセナだから名前覚えてよね。それと歌なんて知らない」
「魔法使いは歌も覚えれないなんて!仕方ないのでこのクレハが歌ってあげますから覚えなさい!」
歌って欲しいなら歌ってくださいと言うべきであろうに、このクレハに懇願の仕方を覚えさせる必要がありそうだ。聖典は二冊だな。
そして私が歌うと馬の体調も良くなり快速に進んで一石二鳥とはこのことだ!
***
普通に馬車が進んで普通に村に着いてなんか宿の人と交渉して泊まれる部屋無いか普通に話してる勇者がいる。
そして普通に四人が泊まれる部屋がないからと言われてる。だめだこいつは。
「勇者どきなさい!貴方はどうやら分かってないようだから教えてあげます。この聖女クレハが!私達は魔王討伐という大任を背負ってる罪無き人々の希望なのです!分かったら少しは気前良く聖女を休ませた家と言えることを誇って貴方が別の村人に泊めてもらいなさい」
「は、はぁ…まぁそこまで言うなら?」
「この村は栄えることでしょう!このクレハによって!安心して家を貸しなさい」
後ろでこのクレハを称える声が聞こえる気がして実に愉快!
「あいつやばくねえか?」
「やばいってもんじゃないわ盗賊よりタチが悪い気がする」
「クレハさんは交渉上手なんだろうね」
あーはっはっは!もっと褒め称えよ。このクレハに出来ないことは無いのだと後世に語り継いでもいいように!
「さぁ皆さんこのクレハが家を用意しました。感謝するときは言葉にしないとダメですよ」
三人から次々とありがとうと言われて鼻が高いったらもう仕方がない。
「戦士は畑から野菜を取ってきなさい」
「いや村のものなのに駄目だろう」
「このクレハが許可します!」
「だ、だめだろう?」
「このクレハ!が!許可します!」
「お、おう…」
まったく多少鍛えてるからと言って強気に出てきても怖いに、怖いに決まってるだろうが!なんで厳つい鎧着た男にだめとか拒否されなければいけないのか!このクレハは怖くても立ち向かう勇気を持っている…という風に聖歌で勇気をもらったので言うことはちゃんと言う。
野宿の時に思っていたのだがこの三人どいつもこいつも料理が壊滅的だからこのクレハ自らが用意してやらないと満足にご飯も美味しく食べれないという悲惨さ。
本当に勇者パーティなのかぁ?と疑うけど。てかこのクレハに一回も神託来たことないんだけどなんなんだ。
戦士が野菜を持ってきたので家にある調理場で適当に肉ももらいつつ料理を作って出しつつこのクレハのだけは肉を多めに盛る。
「さぁ言うことがあるでしょう皆さん!」
「「「ありがとう?」」」
「いただきますです!食材に感謝を込めてその後にクレハに感謝をするんです!」
「クレハさんありがとう」
「勇者良し!次!」
「あんがとよ」
「戦士良し!次!」
「ありがとう…これ毎回しなきゃだめなの?」
「魔法使いは文句を言ったので肉を一枚寄こしなさいクレハ的に文句は受け付けません」
そうして少し悔しがってる魔法使いをおかずにしながら食べる肉がこれまた美味い。
***
〈レオン〉
今までギンと話して、これ以上話すこともないくらいには話したんだけど。それでも暇だから話題を思いつくたびに話して時間を紛らわせていた。
そんな旅が激変したかのようにクレハさんが毎回何か言ってくる。
「このクレハが暇をしています!戦士よ、そんな恰好してるのだから冒険譚くらいあるのでしょう!語りなさい!」
「俺?あー。これは俺が体験した話しなんだが…」
「話すのが遅いですよ!もっとテンポ良く!このクレハが見本を見せてあげましょう!とある町中で深夜遅くに町娘が働き口から帰ってる最中に、後ろからひた…ひたぁ…と素足が地面を歩く音が聞こえてきて、後ろを振り返ると誰もいない!何故!?どうして!?そんな町娘は恐怖の余りに走ってしまいます。しかしその速さと同じようにひたぁ、ひたぁ!とそして後ろを振り返ると…あとは想像に任せます!」
たしかにクレハさんの言う通りテンポは良かったが最後はどうなったんだろう?と気になっていたら。ギンやセナが話の続きを促していて、その態度に気を良くして別の話題を言い出したりし始める。
***
食事に関しても今まで干し肉を火で炙ってみたりして食べていたのが激変した。
「このクレハにそんなおやつを主食にしろと言うつもりですか!仕方ないのでこのクレハが手本を見せてあげます。魔法使いは女なのだから覚えなさい」
「どうしてよ、男とか女とか関係ないでしょ」
「どうせモテたことない癖に何を言うんですか!このクレハが貴方に男が出来るかもしれないために言ってるのに!」
「べ、べべべつにモテないなんてことないわよ!グランディアじゃ羨望の眼差しで私は見られていたから声をかけられなかったのよ!」
「魔法を使えるからっていう嫉妬の眼差しの間違いでしょう!このクレハには分かります。このクレハも魔法が使いたいという欲望がありましたからね」
「そ、そうなんだ…今度魔物が出たら色んな魔法使ってあげるわよ」
食事を作ってくれるのは本当に助かるし、セナが今まで僕たち相手だと話し相手にならないみたいでどうしてあげたらいいのか分からなかったのにクレハさんは誰とでも仲良くなれるように話してくる。
「このクレハに見られることに感謝をするのです!このクレハがちゃんと使い方を教えてあげましょう!」
「いや、使い方は知ってるんだけど」
僕も少しは見習うべきかなと思ってクレハさんにコツでも聞いてみようかなと思って思わず声をかけていた。
「クレハさんはいつもどんなことを考えているの?」
「この聖女クレハ様の思考を読み取ろうだなんて大胆不敵とはこのことです!楽しい毎日を思い描いてるに決まってるでしょう!みんなが笑顔になるのですこのクレハによって!」
「あはは。真似できそうにないや」
普段から魔物と戦って死ぬんじゃないかと考えていた。
それでも誰かが戦わなければいけないんだと思って剣を振るって、それはギンやセナも同じで僕と同じように少し顔が沈んでいる。
明日も生きれるかなんて誰にも分かりはしない。それでも。
「このクレハと一緒にいるのに楽しくないわけがないでしょう!戯言を言ってないでこの美味しく作り上げたクレハ特性スープを食べなさい!」
そう言ってわざわざ一人ずつ口にスプーンを突き出して口に突っ込みながら三人でスプーンを口に入れた状態で見合ってしまい僕は思わず笑ってしまう。
「美味しいけど熱いよクレハさん」
「ばかおっしゃい!鉄は熱いうちに打て!料理は熱いうちに食え!そんな言葉を知らんのですか!」
たまに言語があやふやになりながらも、クレハさんがいつも明るく振る舞ってくれて暗いことを考える暇を与えてくれない。
***
村では必ずと言っていいほど家ごと貸し切るクレハさんにギンも唖然としていた。
「この聖女クレハを知らないのですか!?」
「知らんよ…悪いが出て行ってくれ」
「あぁぁ…この何の力もない飢えし、明日を生きる糧すら分からないというのにそんな女性に寄りにも寄って出ていけ!?このクレハを殺してるのですよ!貴方がしているのはそういうことです!このクレハを殺して楽しいんですか!?このクレハを!」
「いいから出て行ってくれないか…?」
「村のみなさーん!聞いてくださいこのクレハを殺しにかかってくる村の人がいます!このクレハを殺してもてあそぼうとしている変質者が!」
「…今日だけ泊まって行ってくれ」
「最初からそう言えばいいのです。しかしこのクレハは許します!感謝なさい!」
本当に無理やりなやり方だけど、いつもなら野宿をしていたのに。僕が最初の村で断られて以降はクレハさんが毎回交渉してくれるようになってから旅の疲れが少しでも癒えるようになった。
それともう一つ変わったことは。
「戦士、臭いです!魔法使いも勇者も!少しはクレハを見習いなさい!臭いすら浄化してしまうこのクレハの回復魔法を見なさい!このクレハは綺麗が好きです。このクレハがいる限り臭うのはNGです感謝なさい!」
これもまたセナは嬉しそうに浄化されて、水浴びも出来なかった旅路がどんどん快適なものに変わっていく。
「なんかあんたの回復魔法おかしくない?」
「この聖女クレハにかかれば回復魔法なんてこんなものです!この聖女クレハに!かかれば!あぁ自分の才能が恐ろしい!」
一体聖女とはどんなものなのかと思えば、普通の魔法が使えないという割に回復魔法を超えた魔法をさらってやってしまい。みんなから感謝の言葉をもらえばニコニコとただ楽しくて仕方ないと言った顔でいる。
「クレハさん本当にありがとうねいつも」
「勇者はもっと悔しがることを覚えなさい!このクレハは羨望や嫉妬の眼差しも許します!」
「羨望はしてるんだけどなぁ…」
「ならよし!」
本当に、感謝しかない。
ただ、文句を言いながら誰かの食事から毎回自分で盛って自分で渡してくるのに奪うのはやめてほしい。
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