めいかいトランシーバー 〜キツネ様の都市伝説を解き明かせ!〜
秋田健次郎
第1話 謎のトランシーバー
いつもは子供たちがボール遊びをしている公園のグラウンド。
……なんだけど、今日だけはそんな光景が一変する。
たくさん並んだテント屋根、品定めをするするどい目つきの主婦たち。
ただでさえ暑いのに、大勢の人たちが行き交うここの熱気はすさまじい。
「ちょっと奥さん、あっちに掘り出し物がありましたわよ」とそんな声があちこちから聞こえてくる。
ここ、ミドリ公園では毎年コーレイの〝ふれあいフリーマーケット in ミドリ公園〟が開催されているのです。
今年も相変わらず、地元の人たちで大賑わい!
「
後ろから声がして振り返ると、ひたいに汗を浮かべたお父さんが手を振っていた。
「分かってるって!」
もう! はぐれるって子供じゃないんだから!
わたし、
お父さんはいまだにわたしのことを子供あつかいするんだけど、もう高学年なんだから考え直してほしい!
お父さんがわたしに追いつくのを待ってから、二人で歩き始める。
フリーマーケットには、様々なものが出品される。手作りのアクセサリーに、白くかがやく食器。うすい水色をした空き瓶は夏の日差しを浴びて宝石みたいに光っている。
大人向けの洋服や化粧品なんかもすごく安い。みんな家で使わなかったものを出品するから儲けは度外視。お母さんも毎年、このフリーマーケットのために張り切っている。
今年はとある事情があってお父さんとわたしの二人だけなんだけどね。
ちなみに、今年で小学三年生になった弟の
「めんどくさいし、いいや」
と言って、来なかった。
あいつには、そういうノリの悪いところがあるのだ。
「何かほしいものがあったら買ってやるぞ!」
お父さんがわたしの頭をぽんぽん叩きながら言う。
「だから、子供あつかいやめてってば!」
お父さんの方をむっとにらむと、
「いくつになっても日向は俺の子供だよ」
と言って、さらに頭をガシガシと撫でた。
ちょっと! 髪型がくずれるちゃうでしょ!
心の中で文句を言いつつも、そのゴツゴツとしたてのひらの感触がマッサージみたいで心地よいと思っている自分もいてくやしい。
ぐぬぬ……。
「ねえ、あれなんだろう?」
お父さんの気をそらすために、目についた出店スペースを指さす。
そこには液体の入った小さな小瓶が並べられていた。
「おお、香水か~。ママに買っていこうかなぁ」
お父さんとお母さんは、互いのことをママ、パパと呼びあっている。二人がなかよしなのはいいんだけど、人前で呼ぶときはちょっと恥ずかしい。
小さな香水の容器は丸いものや四角いもの。それから涙のしずくみたいな形をしたものまで、色々な種類があった。
隣に立つお父さんは、光りかがやく香水たちを真剣な目つきで選んでいた。
わたしは、他に面白そうなものはないかと辺りを見回す。
すると、人通りの少ない端っこの方にポツンとかまえられたお店を見つけた。テント屋根もないから、日光が直接当たって熱中症が心配だ。
近づくと、その人はお年寄りの女の人だった。
チリチリの長い白髪に、深いしわがきざまれた顔。夏なのに真っ黒のコートを羽織っていて、まるで魔女のようなフンイキ。
近づいていって、おそるおそる売りものをのぞいてみる。
見たことのない怪しげな機械や理科室にあるような底の丸いビーカー。水分がなくなって、しなしなになった薬草のような何か。
売ってるものまで魔女だ!
「何か、ほしいもの見つかったか~?」
のんきなお父さんはわたしの隣にやってくると、あごに手を当てながら
「面白いもの売ってるな~」
なんて言っている。
このおばあちゃんの見た目は無視⁉ 絶対普通じゃないよ!
心の中でお父さんにツッコミつつも、実はとあるものに目をひかれていた。
そう、トランシーバーだ。
わたしは最近、〝名探偵アカツキ〟というアニメにハマっている。男子向けのアニメで、弟の学がリビングで見ていたのをきっかけに知ったの。
けれど、今では学よりもわたしの方が好きになっちゃった。
主人公のアカツキが推理するときの「
あまりにもかっこいいから、家族みんなでこのセリフを使いまくっていた時期もあったくらい。
そんな名探偵アカツキの先週放送された回には、敵のアジトに潜入したアカツキがトランシーバーを使って仲間たちと通信するシーンがあった。
メッセージの最後に「どうぞ」って言うのがなんかいいんだよね!
「このトランシーバーかっこいいなぁ。ほら、先週の名探偵アカツキにも出てきただろ?」
お父さんは心を読んだみたいに、ぴったりとわたしの気持ちを言い当てた。
実は、お父さんも名探偵アカツキの大ファン。好きなシーンやキャラがよく被るから、家ではけっこう話が盛り上がったりする。
「わたしも同じこと考えてた……」
「だろだろ? じゃあ、買っちゃおうか! ママには内緒だぞ!」
そんなわけで、トランシーバーを買ってもらえることになった。値段は千円だった(これって安いのかな?)。
お金を受け取ったおばあさんは
「ケッケッケ」
と笑ったからやっぱり、本物の魔女なのかも……。
*
家に帰ると、お母さんに見つからないよう、トランシーバーを隠しながら部屋に入る。
「んふふ……」
つるつるとした金属の表面を指でなでながら、トランシーバーを観察する。このメーターがどんな役割をはたすのか、想像するだけで楽しい。
「お姉ちゃん、何それ?」
弟の学が眼鏡をきらりと光らせて、聞いてくる。
わたしの部屋は学と共用だ。小さな部屋に勉強机が二つも並んでいるからせま苦しい。
「トランシーバー。ミドリ公園でやってたフリーマーケットで買ってもらったの」
「へぇー」
学はいつも本ばかり読んでいて、机には難しそうな本がいっぱい積んである。そのおかげか、学はまだ小学三年生なのに五年生のわたしより難しい漢字を読めたりする。
漢字の読み方を質問するときなんて、姉としてのプライドはもうボロボロ。
「ここで音量を変えられるのかな」
学がトランシーバーについているつまみをくるくると回す。
と、突然トランシーバーからザザっと音が鳴った。
「わっ」
学は慌てて、つまみを回して音量を小さくする。
『……でも……きんは……とるか……』
学と目を合わせる。
「「なんか聞こえる!」」
「な、なんて言ってるの?」
「分かんないよ、よく聞き取れない」
「電波のなんかがあるんじゃない?」
学がトランシーバーについたアンテナを指さす。
「そっか!」
トランシーバーを持って、部屋の中をあちこち移動してみる。場所によって、声がはっきりしたり、雑音だらけになったりする。
「多分、この辺りだよ」
学の言う通り、トランシーバーをわたしの勉強机に近づけると、雑音が減るようだった。
「どういうことだろう?」
ためしに引き出しを開けてみる。すると、急に声がはっきりと聞こえるようになった。
『なんや、ずいぶんガサゴソと騒がしいなぁ。地震でもおきたんかいな』
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