第15話 やっぱりバイトも色々ある

 

 バイトを始めて一ヶ月以上が経った。お客様への対応も大分慣れて来て、ブラックリストに載っているお客も薬丸マネージャが対応してくれるので、問題なくなった。


 ホールで働いている人は皆私に優しくて、色々教えてくれる。出した料理の皿やカップを引き上げるのは、基本お客様が帰った後だが、ある程度時間が経っても帰らないお客様のテーブルは、頃合いを見て下げる様にする事等だ。


 特に少し残っている皿は、基本下げない。どう見てももう食べそうにない料理だけお客様に確認して下げるとか。これも中々難しい。でも大分慣れて来た。


 祐也の方も皿洗いだけでなく、調理もする様になったと言っていた。もっとも本部から送られて来たほとんど調理済みの料理のパックを開けて温める位だけだと言っていたけど。


 だけど、ちょっと気に入らない事がある。ホール担当のはずの柏木さんが、何かと祐也に声を掛ける。


 私達は、厨房とホールとの間にある配膳カウンタに並んだ自分の担当テーブルの番号が書いてある料理を持って行くだけなのに何故か彼女は祐也に声を掛ける。ちょっと面白くない。


 だから帰りに

「祐也、柏木さんがあなたに声を掛けて来るでしょ。あれなあに?」

「ああ、あれか。何となく挨拶みたいなものだよ。頑張ってやってるとか今日は元気そうだねとか」

「ふーん。でも長く話すときあるよね」

「あれは、俺が調理した料理の皿への並べ方とか具の並べ方のバランスとかちょっと細かいけどそんな事」


「厨房の人が教えてくれないの?」

「先輩達はそこまで気にしていないから」

「そうなんだ」

「どうしたんだ、美琴?」

「なんか面白くないなと思って」

「えっ、もしかして…。あれで焼き餅焼いているの?」

「悪かった?」

 美琴が、俺の肩を叩いて来る。


「分かった、分かったから叩くの止めて。でも俺から話しかけるなとは言えないし」

「それはそうだけど」


「ところであいつからはあの後連絡有った?」

「無い。もう諦めてくれるといいんだけどね。あれだけあんたなんかと会うの嫌だって遠回しに言っているのに。何考えているんだろう?」

「何も考えていないからじゃないか?」

「そだね。馬鹿みたい」


「あっ、もうすぐうちだ。祐也と一緒に居るとほんと時間経つの早いよ」

「俺もだよ。じゃあ、帰るから」

「うん」



 あいつからの連絡が無い事が一番平和だ。お父さんも営業に頑張っているし、お母さんとの仲も良くなってきている。あいつとの事は何とかならないかな?




 私、柏木夏樹。駅前のファミレスでバイトをしている。もう一年以上だ。一か月前に可愛い女の子と男の子がバイトとして入って来た。


 女の子の名前は友坂美琴。背は少し低いけど可愛くて笑顔でお客様への接客態度もいい。ホール仲間の評判もいい子だ。


 そしてもう一人の男の子、葛城祐也。背が高くイケメンって程でもないけど、まあいいかなという感じの子。


 最初は気にしなかったけど、厨房で仕事している姿を見ると先輩達へ態度や言葉遣いがしっかりとしていて好感度の高い男の子だ。


 だから、つい声を掛けてしまう。先輩達は気にしていないけど、やはり皿に盛られた料理が、皿に対してアンバランスな並べ方は良くない。


 料理を乗せた皿を置いた時のお客様の反応を見れば直ぐに分かる。だから葛城君だけでもその辺が分かっている子になって欲しいと思っている。


 友坂さんが皆の前ではっきりと私達付き合っていますと言った時は、流石に驚いていたけど、薬丸マネージャもそれに好感したらしく、皆もそんな目で見ている。


 少しでも長くバイトしてくれると嬉しいんだけど、まあ、あの二人お仲が変にならない限り続くだろうと思っている。バイトする理由が理由だし。


 それより早く来ないかな薬丸マネージャ。そろそろ来るはずなんだけどなぁ。




 十二月も後一週間、土曜日の今日は祐也の部屋で二学期末考査の準備をしていた。来週からは考査ウィークに入る。


 店長にもお願いして考査期間中はバイトを休ませてもらう事にした。その代わり中間考査の時と同じように考査が終わった翌土日は、バイトに入る事になった。


 二人で楽しく勉強している時、私のスマホが鳴った。祐也が誰って心配顔で見る。

 あいつだ。


 カチッ。

 電源を切った。


「誰、美琴?」

「あいつ、面倒だから電源切った」

「いいのか?」

「良いよあんな奴」



 はぁ、最初は必ず切られるな。直ぐに再度掛け直した。三回掛けて出なかったら…えっ?電源が入ってない?ってメッセージが返って来た。

 一回目は鳴ったのに。仕方ない、父親に電話して俺に掛けて貰う様に言うか。




 二人で勉強していると一階の家の電話が鳴った。

「祐也で出なくてもいいの?」

「母さんへの電話だろうけど、知人はお母さんのスマホの連絡先知っているし、売り込みかなんかじゃないか。出る必要無いだろう」

「それならいいんだけど」


 一階の電話は二回ほど長いコールの後、掛けて来なくなった。


 俺は真司君から娘が電話に出てくれないので出る様に伝えてくれと言われて娘に掛けたけど出なかったから、葛城さんの自宅の電話に掛けたけどやはり出なかった。

 美琴は葛城さんの所で祐也君と勉強しているんじゃないのか?



 午後六時になり祐也のお母さんが仕事から帰って来た。

「祐也、そろそろ帰るね」

「うん、送って行くよ。あっ、スマホ電源入れておいた方がいいぞ」

「そうだね」


 美琴がスマホの電源を入れると

「あっ、お父さんからチャットであいつに連絡しろって。でもしたくない」

「でも無視しても結局掛けないといけないんだろう。俺も嫌だけどここで掛けて行けば?」

「そうだね。出なかったらラッキーで無視しよう」


 ルルル、ルルル、ルルル


「あっ、出た」


『もしもし、友坂です』

『金丸です。来月の第二土曜日空いていないですか?』

『用事が入っています』

 バイトだ。


『そうですか』

『ではその次の土曜日は?』

『次の土曜日?』

『十六日の土曜日です』

『もう年末に近いですよね、色々有りますから来年にしませんか?』

『何とかなりませんか?』

 せっかく新しいコート買ったのに。


 私一度保留モードにすると

「祐也、あいつがしつこく十六日の土曜日会いたいって言っている。来年にしたいんだけど。ここで会ってもどうせ来年電話してくる可能性あるから断りたい」

「じゃあ、止めちゃえよ」

「うん」


『金丸さん、今年はもう空いている休みの日は有りません。来年の二月以降にして下さい』

『えーっ、そうですか?』

 何でだよ。なんでこっちがここまで下手に出なければいけないんだ。でも親父も言っていたし。ここは引くか。


『分かりました。じゃあ二月はいつが?』

『二月の都合なんて今から分からないですよ。さよなら』

 

ガチャ。


 切られたよ。頭に来るなぁ。かといって力ずくなんてなんの意味もないし。ただ友達になって仲良くしたいだけなんだけどなぁ。なんでこの子だけこんなに違うんだよ。

 

「ふふっ、断れた」

「良かった。家まで送るよ」

「うん」


―――――


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